第6話 リトルドラゴン

 正直ドラゴンは怖いけど、リュウさんが戦う姿を見て見たいという気持ちもある。


 ドラゴンを屠る者ドラゴンスレイヤーの異名を持つというリュウさんは、どう戦うんだろう。

 

「こうしている間にも、初級冒険者が、はぐれドラゴンの餌食になっているかもしれない。急ぐぞ」


「わかりました。あまり体力自信ないですが、頑張って走ります」


「はははっ。ハル、走る必要はないぜ」


「えっ?でもどうやって……」


転送テレポーの魔法で瞬間移動する。準備はいいか?」


 良いかどうかわからないけど、僕は頷いた。


 リュウさんは、転送テレポーの呪文を唱えた。

 僕とリュウさんの周りを包み込む様に、白い半透明な球体が現れた。


 視界が一瞬真っ白になった。

 ……と思ったら、次の瞬間には、既に別の場所に移動していた。

 

 草原が、火の海に包まれていた。

 

 目の前に、大きなドラゴンが現れた。

 

 で……でかい。

 僕は本物のドラゴンを初めて見た。


 長い首、大きな胴体。長い尻尾。

 そして背中に生えた蝙蝠の様な羽。


 それはまさに、想像通りのドラゴンだ。


 ドラゴンは、口の端に炎を蓄えているようだ。

 口の端から時折、火の粉が溢れ出ている。

 

 周りの火の海は、このドラゴンの仕業のようだ。

 

「ふ、どうやらまだ被害者は出ていないようだな」


 リュウさんは周りを見回して、安堵している。

 僕は真逆で、今すぐ逃げ出したいくらい怖かった。

 

「それに、このドラゴンはリトルドラゴン。ドラゴンの中でも弱い方だな」


 リ……リトルだって……?

 

 目の前のドラゴンは、僕には十分大きい。

 2階建の家より大きいんだ。

 

 リトルじゃないドラゴンは、これよりもっと大きいのだろうか。

 

 ドラゴンはこちらに気がついて、口を大きく開けた。

 ドラゴンの口の中に、炎が宿る。


 炎はどんどんその大きさを増して行った。

 あれを僕たちにぶつける気かな。

 

 リュウさんは、そんな事はお構いなしに、にこやかな顔で、僕に話しかけた。


「そうそうハル、さっき、バフの話をしたな。バフには、身体能力を高める機能がある……」


「リュウさん、今はそれどころじゃ……」


「大丈夫、落ち着くんだ。さっきの戦闘を覚えているな?」


「は、はい」


「レベル1の冒険者に付与されるバフは、武器や防具を軽く持てるとか、攻撃を少し和らげるくらいの効果しかでない。だが、レベルが上がる毎にその効果は、確実に増して行く……そう説明しただろ」


 ドラゴンは、炎を吐き出した。

 

「は、はい……ていうか火が!」


 ドラゴンの口から出た火球は、僕とリュウさんに向かってまっすぐ飛んできた。

 

 リュウさんは、火球を一瞥する。

 

 僕たちの前に、まるで見えない壁の様なものがあるかの様に、火球は空中で弾けて散った。

 

 見えない壁の向こう側は、弾けた火球の炎で燃え盛っている。

 でも、こちら側には、火の粉一つすら飛んでこない。


「レベル10のバフは、このくらいの攻撃に負けたりしないさ。良い機会だ。レベル10のバフの効果、しっかりと見ているんだ」


 リュウさんは剣を抜くと、その場でジャンプした。

 いや、ジャンプなんて物じゃない。


 物凄い跳躍力だった。

 

 リュウさんは、2階建の家くらいの高さはあるドラゴンよりも高い位置にまで、一瞬で飛び上がってしまった。

 

 凄い……これが、レベル10のバフなのか。

 

 リュウさんは空中で一旦静止した後、ドラゴンの方に向かって落ちて行った。

 

 ドラゴンは、リュウさんの姿がいなくなって困惑していた。


 リュウさんはドラゴンに向かって一気に加速して落ちて行く。

 

 ドラゴンの顔の直ぐ側まで落ちた時、リュウさんの腕が少し動いて、一瞬光った様に見えた。

 

 リュウさんが軽々と地面に着地すると、ドラゴンはそのまま動かなくなった。

 

 ドラゴンの首から上だけががずるずると下がって、胴から離れて行った。

 そして、ドラゴンの首が地面に落ちる。

 

 少し経ってから、胴体がフラッと倒れて行き、そのまま地面に崩れ落ちた。

 

 リュウさんは、あの一撃で、既にドラゴンを倒していたんだ。

 

「リュウさん……凄いです……」


「まあ、この位ならハルでもすぐにできる様になるさ。俺たち転生者は、バフの効果がより強くなるからな。さーて、帰るか」


 リュウさんは、何事もなかったかの様に、にこやかな笑みを浮かべていた。

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