第5話 レベルアップ

「ハル、この辺りにいるモンスターならハルでも十分に戦えるはずだ……例えば……ほら、あのモンスターと戦ってみるといいさ」


 リュウさんが指差した先には、一匹の半透明な丸っこいモンスターがフラフラと彷徨っていた。


 大きさはちょっと大きな子供くらいの、青く透明な、スライムの様なモンスター……その名もカオスゼリーだ。

 

 カオスゼリーは、まだ僕たちの存在に気がついていないようだった。

 

 今なら先制攻撃ができる……よし、やるぞ!


 しかしその時、突然リュウさんはピュウと口笛を吹いた。

 

 その音で、カオスゼリーはこちらに気がついた。

 

「リュウさん、何してるんですか!気づかれちゃったじゃないですか」


「いいんだよ。さあ、カオスゼリーの攻撃を受けてみるんだ」


「ええっ?わざと攻撃を受けるんですかっ」


「ああ。ハルに付与したバフの威力を体感するんだ」


 カオスゼリーはこちらに向かって、まっすぐ突進してくる。

 

 今日は訓練ではなく本物の実践、緊張して上手く避けられない。

 僕は、カオスゼリーの突進を思いっきり喰らってしまった。

 

 ……あれ、ぜんぜん痛くない。

 そもそも僕、吹っ飛ばされてもいなかった。

 

 むしろ、突進してきたカオスゼリーの方が、弾き返されてしまった。

 これが、バフの力なのか。

 

「どうだハル、レベル1とはいえ、ちゃんとハルにもバフの効果は現れているだろう。さあ、ハル。今度は攻撃だ。カオスゼリーを攻撃するんだ」


「や、やってみます」


 僕は剣を振り上げ、カオスゼリーに切りつけた。

 あっさりとカオスゼリーは真っ二つになった。

 まるで羊羹を切るみたいに。

 

 二つになったカオスゼリーは地面に倒れ、そして消滅した。


「ハル、おめでとう。初めての実践を無事に勝利したな」


「うーん……なんだか実感ないです」

 

 バフで身体強化された今の僕には、カオスゼリーはあまりに弱かった。

 でも、もしバフが付与されてなければ、僕はきっと、相当苦戦を強いられたと思う。

 

「よし、じゃあ冒険者タグを操作して、ステータスを確認するんだ」


「分かりました」


 冒険者タグは触れながら音声で操作できるらしい。

 僕は首に掛けていた冒険者タグを手に取り、冒険者タグに向かって話しかけた。


「冒険者タグさん、ステータスを表示して!」


 僕の声に反応して、冒険者タグは淡く光を放った。

 空中に半透明な文字が浮かび上がり、僕のステータスが表示された。



————————————


NAME:ハル・クオン


JOB:ADVENTURE

LEVEL:1


HP:10

MP:2

OFFENSE:3

DEFENSE:2

SPEED:1

VITALITY:2

IQ:3

LUCK:3


EXPERIENCE POINT:10


————————————


 これが僕のステータスだ。

 ステータスは、冒険者の実力を見てギルドの人たちが手入力しているらしい。


 僕は気がついた。

 冒険者ライセンスを貰ってから0のままだったEXPERIENCE POINT経験値が、今は10になっていた。


「あ、経験値が増えてます」


 なるほど、経験値はギルドの人の手入力じゃないのか。


「ああ。ハルが戦闘すると、その結果は自動的にその冒険者タグに記録されるんだ。そして経験値が一定数溜まると、レベルが上がるんレベルアップだ」


「凄いですね」


「因みに、この冒険者タグに書き込まれたデータは、マナ通信で常に冒険者ギルドに送信されている。ギルドからの依頼をクリアしたら、すぐに報酬が支払われるぞ。倒したモンスターの手柄を他の奴に横取りされたり、モンスターの首を持ち帰るなんて事をしなくていいのは助かるな」


「冒険者タグ、意外とハイテクですね」


「ああ。ギルドの魔道学の結晶だ。さて、ハルはあと40の経験値を得れば、レベル2に上がれるはずだ。カオスゼリーをあと4匹、今日中に倒しておこうか」


「が、がんばります……」


 僕は、草原を走り回ってカオスゼリーを探した。


 最初の1匹みたいにすぐ見つけられなくて、4匹探すのには苦労したけど、見つけたら倒すのは一瞬だった。


 そして僕はレベル2に上がった。



————————————


NAME:ハル・クオン


JOB:ADVENTURE

LEVEL:2


HP:20

MP:3

OFFENSE:5

DEFENSE:3

SPEED:3

VITALITY:4

IQ:3

LUCK:3


EXPERIENCE POINT:50


————————————



「ハル、無事にレベル2に上がったな。さーて、今日の所はここまでにして、そろそろ帰るとし……」


 リュウさんは、言い終わる前に何かを察して顔を歪めた。

 そして、草原の奥に目をやった。


「待て……何か、騒がしい」


 僕はまだ、リュウさんの様には何も感じとる事はできなかった。

 少しすると、草原の奥から冒険者達の一群が走って来た。

 

 リュウさんは、逃げてくる冒険者の一人を呼び止めた。

 

「おい、何があった?」

 

「た、大変だ、はぐれドラゴンが出たんだよ!あんた達も早く逃げた方がいい!」


「なんだと……こんな初級モンスターしかいない場所に、はぐれドラゴンが……場所はどこだ?」


「あっちの森の奥だ……あ、あんた」


 冒険者の人は、リュウさんの顔を見て、そして気が付いた。

 

「……もしやあんた、リュウじゃないか?あのドラゴンを屠る者ドラゴンスレイヤーの異名を持つ男!」


「……ふ。懐かしいな、確かに俺は昔、そう呼ばれていた時期もあった」


「本物か、こりゃ運が良い!あのドラゴンを屠る者ドラゴンスレイヤーリュウがいるなんて……頼む、はぐれドラゴンを倒してくれ!」


 冒険者は、相手がリュウさんだと知った途端に、打って変わって強気になった。


 リュウさん、そんなに有名な冒険者だったのか。

 

「参ったな……今から帰る所だったんだが……ハル、少しばかり寄り道する事になっちまったが、構わないな」


 リュウさんは、参ったと言っている割には嬉しそうだ。

 僕は頷いた。


 寄り道……か。

 リュウさんにとっては、簡単な事……なのだろうか。

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