第3話 フェオ

 ダンジョンに入った。

 

 フェオさんは物静かな女の子で、言葉数が少ない。

 ローブで顔が隠れているので、表情もよくわからない。


「あの、フェオさん……」


「フェオでいい。遠慮はいらない」


「じゃあ、フェオ……あのさ、君は魔術士ウィザードなの?」


「ううん違う。死霊術師ネクロマンサー。」


 フェオは、ふるふると首を横に振る。


 死霊術師ネクロマンサー……聞いた事がないな。新たな職業ができたんだろうか。

 

「それってどういう職業ジョブなのかな……」


魔術士ウィザードみたいなもの」


「そ、そうなんだ」


 魔術士ウィザードとはどう違うのか聞いてみたけど、フェオは応えてくれなかった。

 フェオの事はまだ、あまりよくわからないままだ。

 

 フェオはダンジョンに入ってから、何かを感じ取るかのように迷いなく、どんどん一人で先に進んでいた。

  

 分かれ道が現れても、さっさと片方に進んでいて、迷っている様子はない。

 

 僕は、フェオにただついていくだけだった。

 

「ねえフェオ、君はこのダンジョンに来た事があるの?」


「ない」

 

「でも、その割にはさっきから、迷いなく進んでいる様に見えるけど……このダンジョンの道を知っていたりするの?」


「知らない」


「そうなんだ……じゃあなんで、道が分かるのかな?」


「教えてくれる」


「教えてくれる……誰が?」


「ここの住人ヒトたち」


「だ、誰もいない様に見えるけど……」


「目には見えない。死霊アンデッドとか、妖精フェアリーとか、マナの意思とか言われる。それらの声が聞こえる」


「そ、そうなんだ……」


「ハルは、わたしに付いてこればいい」


「う、うん。そうするね」


 フェオ、かなり不思議ちゃんなんだけど、大丈夫なんだろうか。


 とはいえ、他にいい案があるでもない。

 フェオを信じてついていくしか出来ない。

 

 しばらく進むと、行き止まりになった。

 

「フェオ……行き止まりなんだけど……」

 

「あいつ、わたしたちを騙した。ゆるさない」


「あいつって?」


「今、見せたげる」


 フェオはそう言うと、手を合わせて呪文を唱え始めた。

 

「▙▬▚▍▞▖▄▘▟▐▆▔▛▙▘▀▊▋▃▟」


 聞き取れそうで聞き取れない、知らない言語みたいだ。

  

 フェオの呪文が終わると、目の前に半透明な、人型のモンスターが現れた。

 いた、本当に。 

 人型モンスターが現れたら、フェオは指を鳴らした。


 一瞬だった。 

 半透明な人形のモンスターは、青白い炎に焼かれた。


 あっという間に、モンスターの体は炎に焼かれ、断末魔の叫びすら上げる暇なく、モンスターは消え去った。

 

「す……すごいねフェオ」


「このくらい、簡単」

 

 フェオはそれからも、誰かの声を聴きながら、ミニダンジョンを迷いなく進んでいった。

 僕はやっぱり、ただついていくだけだった。

 

 ダンジョンの奥に進むにつれて、周りが暗くなる。


 フェオは照明ライトの魔法を使って、手のひらから小さな光の玉を出した。


 僕たちの周りが仄かに明るく照らされる。

 

 魔法って便利だ。

 僕も早く覚えられる様になりたいな。

 

 しばらく進むと、僕たちはモンスターに遭遇した。

 今度はちゃんと、最初から実体を持ったモンスターだった。 


 見た目はクマの様な姿をしていて、結構強そうだ。

 

 フェオはモンスターを一瞥して、また何かを言った。


「▋▃▍▞▄▘」


 すると、モンスターはあっさりと踵を返して、立ち去ってしまった。

 

「凄っ……強そうなモンスターなのにどうやったの?」

 

「いいきかせた」

 

「えっ……いいきかせる?」

 

「……なんでもない」


 フェオはそれだけ言うと、さっさとまた歩き始めた。


 フェオは確かに不思議な子だった。

 

 その後もフェオがモンスターを追い払ってくれたおかげで、僕たちは楽にダンジョンを進む事ができた。

 

 しかし、ついにフェオのいいきかせが通じないモンスターが現れた。


 大きなライオンの背中に鷲の羽が付いたモンスターだ。

 

〝▙▬▚▍▞▖▄▘▟▐▆▖▄▘▟▐▆▃▍▞▄▊▋〟

(ほう……リンボレードの第十二王女フェオではないか。なぜこんな所にいるのかはわからないが、丁度良い。貴様を倒して、我に力ありと証明して見せよう)


〝▟▐▆▖▄▘▟▐▚▍▞▖▄▘▟〟

(貴様如きにこのフェオが負けると思うか?死にたいならかかってくるが良い。チリにしてくれようぞ)


 何語かわからない言葉でフェオとモンスターと会話していた。

 僕には相変わらず、フェオもモンスターも何を言っているのかさっぱり分からない。


 そして、会話が終わったらなぜかモンスターはこちらに向かって突進してきた。


「ハル……あいつ倒して」


「えっ……」


 フェオに突然頼られて、僕は一瞬、躊躇とまどった。

 けど、フェオのおかげでここまで来れたのだから、僕も少しは役立たないと。

 

 モンスターは、凄い勢いで突進してきた。

 

「ハル……わたしがバフでハルの攻撃を強化する」


「う……うん。わかった」


 フェオが呪文を唱えると、僕の体が急に軽くなった気がした。

 フェオは僕に、身体強化の魔法をかけてくれたみたいだ。

 

 僕は、モンスターに向かって思いっきり鋼鉄の剣ロングソードを叩きつけた。

 

 僕の攻撃がモンスターに当たると、モンスターはあっさりと真っ二つになった。

 

——凄い。これがバフか。

 

「ハル……強い」


「フェオの強化魔法のおかげだよ」


 モンスターを倒した僕たちは、無事にゴールの場所まで辿り着いた。


 こうして、僕は無事に試験に合格した。


 僕とフェオは、第二次試験会場を後にして、冒険者教育センターの受付エリアに向かった。

 受付エリアで、試験の合格者だけがもらえる証、『冒険者タグ』を貰えば、この試験は終了だ。


「ハル、楽しかった。また会ったらいっしょに戦お」


「うん。フェオとまた戦いたいな」


「じゃ、げんきで」


「フェオも元気でね」


 受付エリアに着いて、僕とフェオと別れた。


 僕は無事に、冒険者タグを受け取った。

 魔晶石の小さな板で、穴が空いていて、細い鎖が通してあり、ネックレス状になっている。


 冒険者ライセンスの証である冒険者タグを手に入れた。

 これで晴れて、一人前の冒険者を名乗る事ができるようになった。


 僕は、貰った冒険者タグを大事に抱えながら、家路についた。

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