第2話 アンスール

 再び、僕の番が訪れた。

 第一試験、再チャレンジだ。

 

 檻から再び、モンスターが放たれた。

 さっきと同じ、空中を漂うクラゲのモンスター、カオス・プルモーだ。

 

 僕はまず、さっきと同じく、鋼鉄の剣ロングソードを構えて切り掛かった。


 まだ、魔法結晶アイテムは使わない。

 奥義はすぐに出す訳にはいかない。

 

 カオス・プルモーは先程と同じ様に、触手を伸ばして僕の剣に絡みついて来た。

 よし、いいぞ。

 

 先程と同様、僕の剣に絡みついたカオス・プルモーは、びくともしない。

 

 だけど、今回はそれが仇となるんだ。

 

 僕は早速、先程のイケメンに貰った魔法結晶アイテムを取り出して、解放の呪文を唱える。

 

 「——マナの力封じられし魔法結晶アイテムよ、我にその力を示せ……火天ファイア!」

 

 

 石が割れ、中から大きな火の海が溢れ出て来た。

 

 思ったよりもはるかに大きな魔法が封じられていたのか、魔晶石の中から現れた火はあっという間にカオス・プルモーを飲み込み、焼き尽くしてしまった。


 ……うわっ、危な。 


 火は大きな火柱となってそのまま残り続け、辺りには焼け付く様な熱気が漂っている。


 この火、いつ消えるんだ。

 

 確か、この魔法結晶アイテムをくれた爽やかイケメン君、石に込められているのは、初級魔法の火天ファイアだって言ってなかったっけ。

 

 辺りを見ると、試験監督の人が慌てて水の魔法を唱えている。

 僕の放った炎を消化するためだ。

 炎は、試験監督の水魔法でなんとか消し止められた。


 僕は何もできないので、ただその様子を眺めていた。

 ようやく火を消し終えた様なので、疲れきった様子の試験監督の人に恐る恐る聞いた。


「あの……僕って合格でしょうか」


「ん?……あ、ああもちろん、合格だ。とはいえ君、初級のモンスター相手に上級火炎魔法で容赦なく焼き尽くす事はないだろう……いくら試験は本気でと言っても、手加減ってものがだね……」


 なにやらぶつくさ言っている。

 僕は貰った魔法結晶アイテムをただ使っただけですが。

 

「な……んだ……これは……」

 

 振り向くと、先ほどの爽やかイケメン君がいつの間にか後ろに来ていた。

 

「あ、さっきはありがとう。おかげで第一試験、合格できたよ」


「そ……そうかい、それはよかったね。しかし、おかしいな……僕が渡したのは確か、初級魔法の火天ファイアが込められた魔晶石だったはず……なのだけれど」


「僕、確かに貰った魔法結晶アイテムを使ったよ。もしかして、間違えて上級魔法の魔法結晶アイテムくれたのかも?」


「いや、そんなはずは……ま、まあいいか……」


 爽やかイケメン君はまだ、訝しげに首を捻っている。

 

「そういえば、試験助けて頂いたのに、まだ名前を聞いていなかったね。あの、名前聞いてもいい?」


「ああ。僕の名はアンスール、君と同じ、ライセンスの受験者だよ」


「アンスール君だね。よろしく」


 名前からすると、おそらく彼は転生者ではなく、元々の異世界の住人なのだろう。

 彼らも地球テルースから転生して来た僕たちと同じ様に、冒険者になるにはライセンスが必要だ。


「年も近そうだし、呼び捨てで構わないよ。また会う事もあるだろうね。君の事は覚えておくよ」


 アンスールは既に合格して、ライセンスの権利を手にしたのだそうだけど、僕の試験が気になってわざわざ見に戻って来たらしい。

 アンスール、やっぱりいい人だ。 


 僕はアンスールと別れ、第二試験に挑む為、次の試験会場に向かった。

 

 闘技場コロッセウムの形をした第一試験会場を出ると、係員の指示に従って次の試験会場がる施設に向かう。


 第二試験をクリアすれば、晴れて冒険者ライセンス獲得となる。

  

 次の試験会場というのは、地下に掘られたダンジョンだった。

 こちらにも、ダンジョンの入り口に試験監督として、ベテラン冒険者の人が待っていた。


「受験ナンバー51番、ハル・クオンです。第二試験を受けに来ました」


「うむ、では説明しよう。第二試験の会場は、この訓練用のミニダンジョンだ。ミニダンジョンだから大きくはないが、この中にも野生のモンスターがいる。十分、気をつけるように」


 モンスターいるんだ。

 どうやら第二次試験でも戦闘バトルになりそうだ。


「試験は二人一組で行う。二人で協力して進み、無事にゴール地点となる部屋まで辿り着ければクリアとなる。もし、途中で道に迷ったりモンスターが強くて危険を感じたら、すぐにこの通信用の魔晶石で助けを呼ぶ様に」


「わかりました。二人一組とは、僕は誰と組むのですか?」


 僕がこの試験会場に来た時に、既に一人の受験者が入口で待機していた。


 その子は見た目小柄で、可愛らしいローブ姿の女の子だった。

 フードを目深に被っている。

 ローブ姿と言う事は、魔術士ウィザードを目指しているのだろうか。

 

「その子は受験ナンバー72番、フェオだ。君たち二人がペアになって進む事。二人ともゴール地点に辿りつければ合格。どちらか一人がリタイアすれば、二人とも不合格となる。お互い、協力するように」


「わかりました」


 僕は、フェオと呼ばれた小柄なフード姿の女の子の所に行った。


「フェオさん、僕の名前はハルだよ。よろしくね」

 

「うん、よろ」


 フェオさんは、下を向いたまま小さな声で応えた。

 

「では、試験始め!」


 僕とフェオさんの二人は、ミニダンジョンの中に入って行った。

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