第1話 試験

「ではこれより、第一試験を開始する。皆、武器は装備しているな」


 僕は今、ウィザリス王国・国家試験を受験しに、冒険者教育センターに来ていた。


 そう、これから受けるのは、冒険者ライセンスの試験だ。


 第一試験の会場は、見た目はまるで〝闘技場コロッセウム〟だった。

 そして試験内容は、戦闘バトルだ。


 モンスター出没地域に踏み入れてモンスターと戦うには、冒険者ライセンスという証明書が必要で、ライセンスがない者はモンスターのいる場所に行く事はできない。

 

 僕たち受験者は革鎧プレートメイルに身を固め、手には各々武器を持っている。

 僕の武器は、鋼鉄の剣ロングソードだ。


 試験監督を務めるベテラン冒険者の人が、採点シートを挟んだバインダーを手に、声を上げた。

 

「では、受験番号51番、ハル・クオン!」


 僕の名前が呼ばれた。

 僕は元気よく返事をして、前に進み出た。



 僕の名前は久遠くおんはる


 24歳の時に世を去って、目が覚めたら、この異世界に転生していた。


 だけど、どう言うわけか見た目は地球テルースにいた時と変わらなくて、元の記憶もあった。


 記憶を持ったままこの世界に来た僕は、そのままハルと名乗る事にした。

 


 闘技場コロッセウムの中央に、大きな檻が運ばれてきた。

 

 扉が開かれ、中から生捕りにされたモンスターが放たれた。

 

 ふわふわと浮かぶ、クラゲの様なモンスター。

 その名は、カオス・プルモー。

 

 空中にふわふわと漂っていて、滅多に動くことは無いし、動きも物凄く遅いので初級冒険者でも簡単に倒す事ができる……と本で読んだ。


 実際に本物を見たのは初めてだった。

 

「受験内容は、あのモンスターを倒す事だ。では始め!」


 試験監督の号令で、戦闘が始まった。

 

 僕は鋼鉄の剣ロングソードを構えながら、カオス・プルモーに向かってそろそろと歩いていった。

 

 カオス・プルモーは半透明な体で空中にふわふわ浮いているだけで、襲ってくる様子はない。


 目や口がない……と言うかどこが顔かもわからないので、こちらに気がついているのかもよくわからない。


 胴体から伸びる、細く長い触手がフワフラと風に流され、漂っている。

 しかし、触手以外は全く、動く気配がない。

 

 今ならやれる!


 僕は確信し、一気にカオス・プルモーと距離を詰めた。


 そして、その軟体に向かって思い切り鋼鉄の剣ロングソードを振り上げ、切りつける。


 突然、カオス・プルモーの触手が素早く動いた。


 触手は、僕の動きより早く伸びて行き、剣に絡まって行く。

 

「しまった!」


 カオス・プルモーの触手は次々と剣に絡まって行き、剣は強い力で引っ張られ、動かせなくなった。


 カオス・プルモーの触手から剣を引き抜こうと、手に力を込める。

 でも、既に触手はしっかりと剣に絡みついていて、びくともしない。


 そして、不意を突かれた隙にカオス・プルモーがいきなり強い力で引っ張って来た。

 僕の手から剣がするりと抜けてしまった。


「そこまで!ハル・クオン、武器を失った為、失格!下がりなさい。」


 僕はがっくりと肩を落として、その場から立ち退いた。

 


 ベテラン冒険者の人たちがカオス・プルモーに向かって駆けていく。


 彼らは易々とカオス・プルモーの触手から僕の剣ロングソードを引き剥がした。

 カオス・プルモーはベテランさん達の手によって再び檻に入れられ、檻の扉が閉じられた。

 

 今度は別の檻が運ばれてくる。

 別の檻から、別のモンスターが出てきて、次の受験者はそのモンスターと戦う事になった。


「ハル・クオン、再挑戦は三十分後に行われる。もう一度、カオス・プルモーと対戦してもらう。準備をしておく様に」


 この試験は一度失格しても、一度だけ再チャレンジができる。

 だけど、そこで失敗すれば今回の試験は不合格となり、終了となる。


 次は絶対に倒さないと……


 とは言え、あのモンスターをどうやって攻略すれば良いのか、全然分からない。


 今は他の受験者がモンスターと戦っているけど、モンスターの種類は受験者毎に変えているので、他の人の戦い方を見てもカオス・プルモー攻略の参考にはならなそうだ。


 僕が頭を抱えていると、順番待ちをしている受験者の一人が僕の方にやって来た。

 

 年は僕と同じ位の二十代前半位、金髪碧眼の爽やかイケメンな男の子だ。


「やあ、困っているようだね」


「はい……あのモンスター、全然攻撃が通じなくて、困りました」


 爽やか金髪イケメン君は、にっこりと笑いながら、髪を掻き上げる。


「それはそうさ。あのタイプの軟体モンスターには、剣での攻撃は通じないんだ。魔法を使うと良いよ」


「……でも僕、まだ魔法なんて使えませんよ」


 魔法……この世界では当たり前に使える、不思議な力。


 魔法という力を使えば、火を起こしたり、水を凍らせたり、雷を落としたりと、色んな事ができる……らしい。

 

 でも、転生者である僕は、まだこの異能の力を上手く使いこなす事ができないでいる。


「では、僕の魔道具を一つ、君にあげるよ」


 爽やかイケメン君は、手のひらサイズの透明なガラス玉の様な物をくれた。


 ガラス玉の中には、オブジェのように埋め込まれた小さな紅い炎が、ゆらゆらと揺らめいている。

 まるで、炎のスノードームだ。

 

「あの、これは?」 


魔法結晶アイテムだよ。この石には、炎の初級魔法、火天ファイアが込められていて、魔力の無い人にも使う事が出来るんだ。使い切りだから一度使うと壊れて使えなくなってしまうけどね」


 どうやら、このガラス玉を使えば、僕でも魔法を使えるらしい。

 爽やかイケメン君、良い人だ。


「貰って良いの?」


「どうぞどうぞ。僕は普通に魔法を使えるからね。たまたま魔道具開発部隊の試作品を貰ったんだけど、ちょうど良い。君がこれを使って、性能を試してくれるとありがたいな」


 魔道具開発部隊、とは何だろう。

 爽やかイケメン君は、王室か軍関係の人だろうか。


 とは言えこの魔法結晶アイテムのおかげで、試験をクリアする望みができたようだ。

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