ゆるふわ異世界バーテンダー〜バーテンダーの僕は週末、冒険者になる〜
海猫ほたる
プロローグ
僕は店のカウンターに立ち、カクテルグラスをランプの灯りにかざしながら、グラスを丁寧に磨いていた。
お客さんがいない間は、とても暇なんだ。
カラン……と扉に付けた鈴が鳴り、中年くらいの男性が、若い女性を伴って店に入ってきた。
男性のお客さんは、
この辺りによくいる、一般的な冒険者の装備だ。
男性はカウンターにどかっと腰を下ろした。
若い女性の方は、フード付きのローブを着込んでいる。
女性はローブの胸元を開けて、大きな胸をセクシーに強調していた。
裾にも大きくスリットが入っていて、太ももがちらちら見える。
なんて大胆な……
女性は男性の隣の席に座ると、男性にしなだれかかる。
この二人、どういう関係なんだろう。
……詮索するのは止そう、仕事をしなければ。
「お客様、ご注文は何にしますか?」
僕は、冷静に振る舞っているように見えるよう、落ち着いた声で注文を聞いた。
「俺は、エール酒をもらおうか」
「かしこまりました」
僕は、木でできたジョッキに樽からエール酒を注いで、男性に差し出す。
「私は……カクテルがいいわぁ……ねえ坊や、この店のおすすめは何かしら?」
女性は色気たっぷりに甘えた様な声を出した。
「そうですね……〝セイレーンの涙〟なんてどうでしょう。フルーティーで甘くて飲みやすいけど、後味がすっきりとして、女性におすすめです。美味しいですよ」
「じゃ、それを貰うわ」
「ありがとうございます」
先ほど綺麗に磨いたカクテルグラスを取り出し、氷を入れる。
シェイカーを取り出し、ベースとなる
次に、割材となる
さらに
シェイカーを振り、出来上がったカクテルをゆっくりとグラスに注ぐ。
女性の前にそっとコースターを置き、音を立てない様にそっとカクテルを提供した。
女性のカクテルを見つめる目が、うっとりとしている。
「あらまぁ、まるでエメラルドグリーンに輝く宝石の様な綺麗な、綺麗な色のカクテルね」
「ほお、若いのに上手いもんだ」
男性の方も関心していたようだ。
「じゃあ、乾杯しましょ」
カウンターの男女は、それぞれジョッキとグラスを片手に持ち、重ね合った。
乾いた音を響かせてグラスが鳴る。
男性は、ぐいっとジョッキを口元に押し込むと、一気にエール酒を喉に流し込んでいく。
女性はゆっくり、カクテルグラスに口をつけて軽く一口舐める様に飲む。
「あら、このお酒、美味しいわ」
女性の顔がほんのり紅く染まる。
「ぷはー。やっぱり冒険の後のエール酒は格別だな。兄ちゃん、もう一杯だ」
「かしこまりました」
僕は、二杯目のジョッキにエール酒を注いで、男性に渡した。
「あの……お二人とも、冒険者さん……なのでしょうか」
僕は、恐る恐る聞いてみた。
「おうとも。この子はまだパーティに入ったばかりでな。この辺りはモンスターもそれほど強くないから、ちょっと遠出してやって来たところだ」
「そうだったんですか」
「剣士さん、頼もしかったわぁ〜」
「はっはっは。そうだろうそうだろう」
女性は、男性にしなだれかかっている。
二人はとてもいい雰囲気の様だ。
「それにしても、リトルテルースにこんな雰囲気のいいバーがあるなんて思わなかったわぁ、うふふっ」
女性はそう言って、くすくすと笑った。
「そうだな、はるばる来た甲斐があったって物だよ。がはは!」
男性の方は、大きく口を開けて笑う。
二人とも、良い感じに酔っぱらっている。
「ありがとうございます」
「ここの街は、転生者が多いだろ?兄ちゃんも見たところ、転生者のようだが、冒険者じゃないのかい?」
「ええ、僕はまだ冒険者ライセンスを持っていませんので、戦闘する事はできないんです」
「そうか……では、早くライセンスを取る事だな。冒険は良いぞ。なんと言っても、生きている実感がするからな。良いぞ、冒険は!」
男性は酔っているのか、それとも大事な事なのか、同じ事を二回言っていた。
「そうなんですね。試験、受けてみる事にします」
「おう、兄ちゃん、がんばりな!良いぞ、冒険は!」
「応援するわよぉ」
お客さんをもてなすのが仕事なのに、ついついお客さんに励まされてしまった。
彼らはさらに何杯か飲んだ後、千鳥足で店を出て行った。
この街のバーには、よく冒険者のお客さんが来て、モンスターとの戦闘や、冒険の話を聞かせてくれた。
良い話ばかりではなかったけど、僕はお客さんの話を聞く度に、早く自分も冒険者になってこの世界を見て周りたいと思う様になって行った。
——それから数ヶ月。
僕にもついに、その日がやって来た。
念願の、冒険者ライセンスを取る、その試験に挑む日がやってきたんだ。
僕の冒険は、これからだ。
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