第8話、王太子殿下の告白
私たちは賓客扱いを受け、王都内にある離宮に泊ることを許された。
疲れているはずなのに寝付けない私は、いつもの習慣で「千里眼」を使ってエリックの豪華なベッドルームをのぞいた。
闇の中に彼の姿が浮かび上がる。あまりに暗くてどこだか分からない。魔力を増幅させて心の目で見ると、カーテンを下ろした天蓋付きベッドの上に座っていることが分かった。
「あんな真っ暗なところでなにをしているのかしら?」
そういう私も真っ暗な部屋で目を開けているのだが。
「気になっちゃうじゃない」
私はベッドの上に身を起こすと、ベッド脇に置いた大理石のテーブルのあたりに明かりの魔法をかける。イメージ通り燭台に火が
「エリック殿下――」
「その声は!」
中からさっとカーテンを引き、
「やっぱりリイ!」
うれしそうな少年が顔を出した。ひざの上に置いたクッションをいとおしそうに抱きしめている。この紫のベルベット生地でおおわれたクッションは、去年私が贈った誕生日プレゼントである。寝室でもいつも私を思い出すようにと、私の髪色に近い生地を選んで作らせたものだ。毎回プレゼントの選択が自意識過剰ぎみなのは放っておいて! だって私、悪役令嬢ですもの。
「お変わりありませんか」
と謎な声がけをする私。本当は「あんな失言しちゃってお母様に叱られてない!?」と訊きたいのだが、謁見の
「リイ、あのね。僕きょう久し振りに婚約者のお嬢様と会ったよ。僕は生まれたときからあの人と結婚することが決まっているんだ」
知っていますよ。
「でも僕、ほんとうはリイと結婚したいよ……」
エリック殿下はうつむいた。ベッド脇に立っている私からその表情をうかがい知ることはできない。
過去の人生で毎回、婚約者以外を気に入ったこの男、今回は私を好きになるってこと!?
なんか複雑な状況になってきちゃった…… 私は左手でこめかみを押さえながら右手に持っていた燭台をサイドテーブルに乗せ、エリックのとなりに腰かけた。
「婚約者のお嬢様のどこが気に入らないのですか?」
私の問いにエリックはあわてて首を振った。
「気に入らないとこなんてないよ! 彼女のことよく知らないし――」
確かに。体が弱くてかごの鳥状態だった私がほとんど王都を訪れられなかったために、私たちは貴族学園に通うまで面識がないに等しいのだ。
「これから知っていけば気に入るかもしれませんわ。お嬢様の良いところを探してみては?」
過去世四回、エリックはリーザエッテ嬢と知り合っても気に入らなかったわけで、自分で言いながら内心ため息をついてしまう。
「良いところ――」
エリックはちょっと上目づかいになって考えていたが、ポンと手をうった。
「そうだ、とってもリイに似ているよ! まるできみの妹みたいだ!」
そりゃ本人だから。
「でもね、僕は彼女が嫌なんじゃなくて――」
エリックは言葉を切って、真剣なまなざしで私を見つめた。金色の瞳の中で燭台の炎が揺れている。
「リイ、きみがいいんだ」
「…………」
私は思わず沈黙した。認めたくないがドキっとしてしまったのだ。
十歳にしてこれ! 女の心を誘惑するなんてとんでもないお子様ね。――五回目の人生を余裕しゃくしゃくで渡り歩く魂は、冷静さを装おうと必死になる。だが十二歳になって思春期を迎えた現実のリーザエッテ嬢の心に、もはやあらがえなくなくなっていた。
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次回、13歳になったリーザエッテは貴族学園に入学します。
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