第130話 受付嬢ちゃんも狼狽える
ポンポロさんとセツナちゃんと言えば、言わずと知れたギルドの名物の一つでした。
引っ張るとすごくにょーんと伸びるポンポロさんの体を面白がって引っ張りまくるセツナちゃんと、彼女に「やめんかこのクソガキャァァァァ!!」とブチギレながらも謎のオトナの矜持を理由に決して反撃しないポンポロさんの姿はどこか和む光景でした。
まぁ、ポンポロさんは他の生け贄を探して友人の同族(ポムポム)を捧げようとして「ポンポロの方が伸ばし心地が良い」とか言われて結局キレていました。
セツナちゃんがいなくなった今、ポンポロさんをキレさせる要素はなく、新たにやってきたヒスイちゃんもポンポロ伸ばしの趣味はありません。
なのに、ポンポロさんは今まで見たことがない程に不機嫌丸出しで自らセツナちゃんの行方を知りにやってきました。
「隠しても無駄ム。消えたクソガキ、増えた謎ガキ、変わる態度に行動。ポンポロの明晰な頭脳がフル回転して名推理が冴え渡るム。クソガキがどうなったか言えム。そのうち言いに来るかと思ったけどもう我慢の限界ム」
――あのっ。
「額面通りに話を受け取るほどポンポロはいい加減な性格じゃないム。親が見つかった? 親の名前は? クソガキの本名は? どーゆー経緯を経て西大陸まで流れ着いて何で今まで外交筋の捜索に引っかからなかったムか?」
――そのっ。
「大体今更親が見つかったところであのクソガキがサクマから離れたがるとは到底思えないム。さりとて親に問題があったならシオリがもっと噛みつく筈ム。死んだとも思えないム。行方不明なら再度捜索する筈ム。何も言わないってことは言えない何かがあった筈ム」
――えっと。
情け容赦のないポンポロさんの追求に面食らい、シオリは受付嬢として完全に後手に回ってしまいました。
なんで普段は無駄なことばっかり質問するくせに隠したいことがあると見た瞬間洞察力が跳ね上がるのでしょうか。これで詰問内容が正論パンチで殴り返せるものならいいですが、完全に嘘を言っている現状では反論するにも苦しいものがあります。
さりとて、こんな目立つ場所で正直なことは言えません。
そもそも、言えばポンポロさんを巻き込むことになります。
しかし、細かいことを聞き始めたポンポロさんのしつこさと厄介さは以前に身に染みて覚えているため、この場で誤魔化すのも愚策に思えます。
シオリは考えた末、プライバシーに関わることなので自分の口からは言えない、と突っぱねました。
ポンポロさんがセツナちゃんに遊ばれてたことは知っていますが、逆を言えばふたりはそれだけの関係でしかありません。保護者だったサクマさんや半分保護者だったニーベルさんならともかく、ポンポロさんにぺらぺら詳細情報を喋るのは違反とまでは言いませんが受付嬢としていただけません。
咄嗟でしたがなんとか筋の通った反論に、ポンポロさんは眉を潜めると踵を返します。
「わかったム。サクマに直接問いただせばいいムね?」
ダメでした。
サクマさん後は頑張ってください、シオリではこれが限界です。
……それにしても、ポンポロさんからすれば酷い目に遭わされた筈なのにセツナちゃんの安否を気にするのはどういう心境なのでしょうか。慰謝料請求なんて阿漕な考えではなさそうですが、何か特別な理由があるのだろうかとシオリは気になったのでした。
◇ ◆
「クソガキだろうがタダのガキだろうが、オトナはガキを守ってやる存在ム。守ろうと思わないオトナはクソオトナだム。ポンポロは立派なオトナだからクソガキのことを気に掛ける義務があるム。完璧な論理ム」
――仕事を終えて宿に帰ると、普通に居座っていたポンポロさんがいたので聞いてみたら、余りにもシンプルすぎて「それだけ?」と聞きたくなる言葉が返ってきました。
「ポンポロはクソオトナが昔から大っ嫌いだったム。だからお前らがまだクソオトナになってなくて一先ず安心したム。あとは家出したクソガキを叱って連れて帰れば話は終わりム」
いえ、そんなにシンプルな話なら困っていないのですが、もしかして詳細な話の誤魔化しに成功したのでしょうか。サクマさんとヒスイちゃんに視線をやると、すっと目を逸らされました。なんの目逸らしでしょうか。
「嘘言うほど不義理になれないから全部説明したけど、ポンポロは本気でそんだけだと思ってるらしい」
「ポムポムはロータ・ロバリーの原生生物の系譜なのでエレミアを以てして精神構造を読み切れない部分がありましたが、彼の理解力がどの程度及んでいるかはプロファクトツール【アリナシサ】でも予測が困難です」
二人の呆れた発言を、逆にポンポロさんが呆れた声で一蹴します。
「謎ガキがナマ言うなム。お前らが半端に頭が良いから難しく考えすぎなんだム。構造はシンプル。勘違いしたクソガキが家出して他所でいたずらしようとしている。オトナはこれを止めて叱って保護する。ベツの星だとかアイテールがどうとか、イデンシがなんたらとか、そんなことは全部ついでの情報に過ぎないム」
星を滅ぼすほどの存在をついでの一言で済ますのは、実感がないからなのか豪胆だからなのか。
或いはそうした事情に根本的に興味がないのかもしれません。
でも、驚いたことにポンポロさんの考え方はシオリのスタンスに近いです。
仮に星を滅ぼした存在だとして、子供は子供です。
ヒトと少し違う所があっても、それはセツナちゃんの個性です。
ヒスイちゃんの言い分を疑っている訳ではないですが、シオリは彼女と笑い合った日常を取り戻せると信じています。
だって、セツナちゃんなんだから。
「シオリがいいこと言ったム。オトナの資質がアリアリだム。というわけで……クソガキ捜索チームにこのポンポロが加わってやるム!」
堂々と胸を叩いたポンポロさんの自信満々な姿にサクマさんたちは頼もしい味方がまた一人集ったと感動――するそぶりは全くありません。
「いや、別に来ないでいいけど。大した戦力になんない癖にうるさそうだし」
「こちらの忠告を無視して勝手な行動を取る確率、98.2%。不確定要素です」
「ムキャーーーー!! ポンポロを蔑ろにすることは許さんムッ!! あと謎ガキ、お前クソガキより可愛げがないムッ!!」
こうして、頼んでもいないのにセツナちゃん捜索チームにポンポロさんが加わりました。
尚、もしこのことを許可なく口外されると困るということからヒスイちゃんに念入りに神秘術のプロテクトが施され「オトナの口の堅さを疑うとは失礼だと思わないムかこの謎ガキャァァァァ!!」とキレられました。
ポンポロさんの志は買いますが、ポムポムの方々はこう、しれっと酒も入ってないのに暴露しそうな不安感があるので適切な判断だと思ったのはここだけの秘密です。
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