第29話 幼馴染の胸に飛び込む

俺は電話に出た。

正直、今は誰とも話したくなかったけど……


≪遥……いったいなんだよ≫

≪配信見たよー!今回もバズってたね!≫

≪ああ……そうだな≫

≪元気ないじゃん。何かあったの?≫


遥の心配そうな声が聞こえた。


≪……用がないなら切るぞ。じゃあな——」

≪待って!今、家の近くまで来てるから≫


俺の家の前に遥がいた。


「配信、お疲れさま♡」


遥は腕を広げて、俺に抱きつこうとした。


「やめろよ」


俺は遥の手を振り払った。


「何よ!せっかく人がお菓子作ってきたのに」

「はあ?」

「これさ、翔の好きなチョコチップクッキー作ってきたの。配信頑張ってたから」


昔、遥がよく母さんと作ってたな。

たしかに、ガキの頃は好きだった。


「はい!これで元気になって!」


遥は笑顔で袋を渡してきた。

ピンク色のリボンがついている。


「要らねえよ。そんなもん」

「昔はアホみたいにバクバク食ってたじゃん」

「もう昔とは違う」

「……天流さんと何かあったの?話聞いてあげるから」

「お前には話したくない」

「翔、すっごい暗い顔してるよ。見たことないくらい悲しそう。放っておけないよ」

「お前には関係ない——」


遥は俺の腕を掴んで、強く引っ張った。


「おい!何するんだよ!」

「公園行こう。そこで話聞くから」


俺は強引に公園まで連れて行かれた。


◇◇◇


夜の公園。

俺たち以外に誰もいない。

遥と並んでベンチに座った。


「昔……よくここで遊んだよね」

「そうだな」 

「覚えてる?あのブランコ、よく翔が押してくれたじゃん。あの頃は楽しかったなー」


ブランコをこげない遥のために、よく俺が押してあげた。

強く押しすぎて、遥を泣かしたこともあったけ。

本当にあの頃は楽しかった。

でも、それもすべて過去の話だ。


「思い出に浸りたいのなら、1人でやってくれ。俺は帰るぞ——おわ!」


遥は俺を抱きしめた。

むにゅうと大きな胸に、俺の顔が埋まった。

すげえ柔らかい……けど、


「おい!離せよ!」

「やだ!絶対に離さない!」


さらに強く、俺の顔を胸に押し当てる。


「やめろって!」

「やめない。翔がちゃんと話してくれるまで」


正直、男の俺なら、無理に遥を引き剥がさすこともできた。

だけど、マシュマロみたいな胸に包まれて、遥の甘い匂いがすると、抵抗することができなかった。


「よしよし。いい子いい子……」


遥は頭を優しく撫でた。

俺は動けなくなってしまった。


「……話してくれる気になった?」

「わかったよ。だから離してくれ」

「いやだ♡このまま話そう!」


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