第22話 公式のペット

「ヤバい!早く隠れて!」

「どこに?」

「ベランダに出て!」

「ベランダって……あたし今裸なんだけど!」

「そこしかないから!」



俺は無理やり遥をベランダに出した。

ここは住宅街だ。夜だからたぶん人には見られないだろう。夏だから寒くもない。


「ただいまー!遥ちゃんは帰ったの?」

「もう帰ったよ」

「せっかくケーキ買ってきたのに」

「ははは……そりゃ残念だ」


なんとか誤魔化すことができた。


ピコン!

あ、ラインが来ている。

遥からだ。


≪ひどい!うら若き乙女を素裸のまま外に出すなんて……許せない≫


俺は既読スルーした。

許せないのはこっちのほうだ。

ざまぁみろってもんだぜ。


でも……もうちょっと裸を見たかったな。

いやいや、俺には亜美がいる。

いったい何を考えているんだ。


この後、俺はベッドでモヤモヤを吐き出した。

三回も解き放った。

遥を忘れるために……


◇◇◇


2回目のコラボの日。

事務所に入ってから、初の配信だ。

場所は亜美の部屋だ。

もちろん「オフコラボ」であることは、リスナーには絶対秘密だ。

クッキーの口移しも、あくまで画面上だけの設定にしておかないといけない。


「どうした?今日は元気ないね?」


亜美は顔色が悪かった。


「実は悪い夢を見まして」

「どんな夢?」

「あの糞幼馴染が、翔くんの家に来て一緒にカレーを食べて、その後……」

「まさか」   


俺は血の気が引いた。

部屋の空気がまるで北極みたいに凍りつく。


「ええ。そのまさかです。セバスチャンがすべて報告してくれました。翔くんが幼馴染の裸を見て、それからベッドで遊んでいたことも」

「そんなことまで……」


ベッドでしてたことまでバレてるなんて。

めっちゃくちゃ恥ずかしい。

つーか、普通にプライバシーの侵害では?


「俺のプライバシーだから……なんて言い訳は通用しません。翔くんはココロナナシのペットなのです。ペットにプライバシーはありません。昨日は三回も一人で遊んでいましたね。毒婦の身体でいやらしい想像をしながら、貴重な遺伝子をゴミ箱に捨てたのです。翔くんの遺伝子をもらうのは私なのに。今日はたっぶりわからせてあげますから!」


亜美が制服を脱ぎ始めた。


「なんで脱いでるの⁉︎」

「私の身体で、幼馴染を永久に忘れさせてあげます」

「でも、これから配信があるから」

「今日は裸で配信しますから」

「え?」


裸でコラボ配信って……マジか。

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