第20話 幼馴染の正妻ムーブ
「ただいま」
俺はVtuber事務所から家へ帰ってきた。
デビューが決まったこと、母さんに話さないとな……
「あら、翔。おかえり」
キッチンから母さんの声がした。
カレーのいい匂いがする……
俺がリビングへ行くと、
「翔!おかえり!もうすぐご飯だよー!」
「え、遥!」
俺をハメた幼馴染、遥がリビングにいた。
信じられない光景だ。
「なんでお前がいるんだよ!」
「久しぶりにおばさんとお料理したいと思って」
遥は笑顔で答えた。
「遥ちゃんが来てくれて助かったわ。このカレーは遥ちゃんが作ってくれたのよ」
「おばさんの指導のおかげです♡」
「いやいや、そういうことじゃなくて……」
「はいはい、座って座って!」
遥は無理やり俺を座らせた。
テーブルにはカレーライスとサラダがある。
俺の好きなチキンカレーだ。
「ふふ。翔はチキンカレー好きでしょ!頑張って作ったんだよー♡」
「お、おう……」
すげえうまそうだ……
遥ってこんなに料理上手かったけ?
「じゃあ、私は行くから」
「母さんどこ行くの?」
「今夜は高校の頃の友達と会うから……って、今朝言ったでしょ?」
すっかり忘れていた。
あ、ということは……
「おばさん!楽しんできて!翔と二人でご飯食べてますから」
「ありがとう。翔、よかったわね。大好きな遥ちゃんと二人でご飯食べられて」
「好きじゃねえし……」
「子どもの頃、よく『俺は遥ちゃんと結婚するんだあー』って言ってたじゃない?」
「言ってねえし……」
そんなこと言ってたような気がするけど……
少なくとも、今の遥は好きじゃない。
「言ってたよ!覚えてるもん!」
「うふふ。私はお邪魔みたいね。遥ちゃん、翔をよろしくねー」
「任せといてください!翔はきちんとお世話しますから!」
母さんはルンルンで出て行った。
行かないでくれー!と、俺は心の中で叫んだ。
「おばさんも行ったし、食べよっか。いただきます!」
「……俺は自分の部屋で食うから」
「はあ?なんで?」
「当たり前だろ!あんなことがあった後でさ……俺にまだ謝ってねえし」
「そうだね。ごめん」
「え?」
まさか遥が謝ると思わなかったから、俺は拍子抜けした。
「悪かったよ。だからお詫びに翔の好きなもの作ってあげようと思ったの。昔よく、二人でカレー作ったじゃん。仲良かった頃のこと、思い出したくてさ……」
「……俺はまだ許せない。遥のこと好きでコクったのに、ネタにして晒したじゃないか。それをごめんの一言で許せるわけないだろ」
気まずい空気が俺たちに流れた。
当然の結果だ。
「じゃあ……どうしたら許してくれるの?」
「しばらくは無理だな」
「……わかった。翔が許してくれるまで、毎日翔の喜ぶことするね」
「なんでそうなるんだよ?」
今の流れなら普通、『お互い距離を置こう』みたいな話になるんじゃないか?
遥はいつも、常識の斜め上を行く。空気読めないっていうか。
子どもの頃からそういう奴だった。
「今日はその一日目。第一回目の贖罪(しょくざい)は、翔の好きなチキンカレーを作ること。あーんして!」
何を言ってるんだ。こいつは。
「嫌だ」
「あーん!あーん!あーん!」
遥の『あーん』コールが始まった!
すげえ大声だから近所迷惑だ。
「わかった!わかったから、大声出さないでくれ」
「ありがとう。あーん♡」
「あーん……」
遥が俺にカレーを食べさせる。
やべえ……めっちゃくちゃ美味いのだが。
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