第16話 Vtuber事務所にスカウト

「はい!アーンして♡」

「あーん……」


リアルでアーンするのは初めてだ。

正直、めっちゃくちゃ恥ずかしい。


「アーン……嫌いなんですか?」


天流さんがすっごく悲しそうな顔をした。


「そういうわけじゃ……」

「うぅ……この時を何より楽しみにしていたのに。影川くんに食べさせてあげたいと思って。ああ、もう死にたいです!」

「ごめん、ごめん!」


必死に謝り倒す俺。


「ふふ。嘘ですよ。影川くんと、身も心も結ばれるまでは死ねません」

「よかったぜ……」


すげえガチなトーンで「死にたい」と言うから、めっちゃくちゃ心配してしまった。


「心配してくれるなんて、影川くんは優しいですね。ますます好きになってしまいます」

「俺が優しいなんて。そんなことないよ」

「影川くんの良さを、もっと世界が知ってくれたらいいのに」


世界って、そんな大げさな。

俺はただの平凡な男だし。


「はい!アーンして!」

「アーン」


恥ずかしいけど、俺は口を開けた。

天流さんが俺の口に、パイナップルを運ぶ。

甘酸っぱい味がする。


「おいしいですか?」

「おいしいです……」

「よかったあ!また作ってきますね!」


それから俺たちは、いろいろな話をした。

子どもの頃の話とか、将来の夢とか、嫌いなVtuberの話とか、そんなたわいもない話だ。

天流さんと話していると、時間を忘れてしまう。


「あ、そろそろ時間だね」


あと5分で午後の授業が始まる。


「ぎゅーとして?」


天流さんが腕を広げた。


「離れる前に、たっぷり影川くん成分を補給しておかないと、死んじゃいますから」


離れるって……隣の教室なんだけどな。


俺は天流さんを抱きしめた。

大きくて柔らかい胸がぷるんと当たりまくる。

ヤバい……反応しそうだ!


「……実は、影川くんに会わせたい人がいるんです」


天流さんが耳元で囁いた。


「会わせたい人?」

「Vtuber事務所の社長です」

「しゃ、社長?」


いきなりすぎて俺はビビる。


「社長が昨日のコラボを見て、ぜひ会いたいって」

「どこの事務所なの?」

「私も所属している……ごじろくじです」


ごじろくじ……有名な人気Vライバーをたくさんプロデュースしている事務所だ。

Vtuber界の頂点に立つ事務所で、本当に才能のあるVライバー以外は入れないと言われる。

そんなトップ事務所の社長が、俺に会いたいだと……?


「アル様はとても才能があると言ってしました」

「そう……なの?」

「ええ。私が見込んだVですから」


ただ「クマクマー!」って叫んでいただけなのだが。


「さっそく今日の放課後、事務所へ行きましょう」


ここから、俺はVtuber 界の頂点へ駆け上がっていくが、まだ知らなかった。



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