第9話 餌付け作戦成功です♡

「こ、恋人……俺が、天流さんの……」

「はい。私の恋人になってほしいのです。お嫌ですか?」

「嫌じゃないけど……」

「よかったぁぁ!」


 天流さんは俺に抱きついた。

 うん。おっぱいが当たりまくて心臓に悪いぜ。


「……本当に恋人になるわけじゃありません。影川くんには恋人のフリをしてほしいのです」

「え?」

「実は……私、お父様にお見合いをさせられそうなんです。お父様が連れてくる男性と結婚しなさいと。でも、私に好きな人がいればお見合いしなくてもいいって……」

「要するに、お見合いするのが嫌だから、俺に恋人のフリをしてほしいってことですか?」

「ごめんなさい……こんなこと、ダメですよね?」

「……」


 正直に認めよう。

 俺はすごく期待していた。

 学校一の美少女を彼女にできると……

 「陰キャは所詮ずっと陰キャ」――俺をフッた幼馴染、遥の言葉が頭をよぎった。

 俺みたいな陰キャにチャンスなんてあるわけないよな……


「ごめん……俺はそういうの無理です」

「やっぱり……そうですよね……」


 天流さんはうつむいて、泣き出してしまった。


「ごめんなさい……私、ひどいですよね。まるで影川くんを利用したみたいで。でも、影川くんとコラボできて、すっごく嬉しかったんです。きっと影川くんとなら、一緒に楽しい時間を過ごせると思って……」


 俺も天流さんとのコラボは、めちゃくちゃ楽しかった。

 ココロナナシのペット役で、人間のキャラですらなかったけど、リスナーのみんなは喜んでくれていた。

 それに……口移しクッキーの甘い味を、俺は一生忘れられそうにない。


「……最初は友達として、お付き合いするのはどうですか?」

「え!」

 

 天流さんは顔を上げた。


「よく考えたら俺たち、学校で話したこともなかったじゃないですか。お互いのことをまだ全然知らないですし。だから、お友達から始めたいです」

「お友達……」

「ダメですか?」

「ううん。ぜひ影川くんとお友達になりたいです。私、学校に友達いませんから……」

「え?たくさん友達いるじゃないですか?」


天流さんは学校の陽キャグループといつも一緒にいる。

よく廊下ですれ違うけど、しっかり青春をエンジョイしているとばかり思っていた。


「あれは……本当の友達じゃありません。表面だけの付き合いというか。学校の子には誰にもVtuberのこと言ってませんし……」


もしかしたら俺は、天流さんの表面だけを見て、青春していると思い込んでいたのかもしれない。


「ごめん。勝手に決めつけて」

「いいんです。これからは影川くんが、私の友達になってくれますから」

「うん。俺でよければ仲良くしてください」

「嬉しいです。そうですよね……友達から恋人になって、それから先もありますもんね!」

「え?それから先って……?」

「なんでもありません!もう遅いから送って行きますね!」


天流さんは笑いながら、俺の手に握った。


「影川くんと本当の友達!嬉しいなあ!」


よくわからないけど、喜んでもらえて嬉しい。


「ふふ……餌付け作戦成功です……♡」

「何か言いました?」

「なんでもないです!行きましょう!」


俺は一抹の不安を覚えながら、天流さんの家を出た。


……明日、学校でとんでもない騒ぎが起きることを、俺はまだ知らなかった。


 

 








 

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