第2話 幼馴染の裏切り
朝、俺が教室へ行くと、クラスのみんなが俺をジロジロ見ていた。
いったいなんだ?
俺みたいな奴が教室で注目されるわけないのに……
もしかして……遥と付き合ったことがバレたのか?
でも、どうやって?
昨日は遥と二人きりだったはずなのに。
「影川くん。これ……見た?」
同じ文芸部の紅未来(くれないみく)さんが、スマホを俺に見せてきた。
黒縁メガネとショートボブがよく似合っている。
紅さんとは小説の趣味が合うから、俺が教室で話せる唯一の女子だ。
「え……これって……?」
画面には、信じられない光景が写っていた。
昨日の俺と遥が映った動画だった。
クラスのグループラインに、今朝、流されたものらしい。
「……ごめん。ちょっとこれ借りるね」
俺は紅さんのスマホを取って、教室の隅で陽キャグループと一緒にいた遥の元へ行った。
「遥……これ、見たか?誰かが昨日のことを隠撮したらしいんだ」
遥と陽キャグループの連中は、キョトンとした顔で俺を見た。
「ぎゃはははははははははははは!」
突然の大爆笑。
「翔、ごめーん!あれ、賭けだったの」
「賭け……?」
俺は事態が飲み込めない。
「陰キャのあんたを何ヶ月で落とせるか、みんなで賭けてたの。あたしは1ヶ月で落とせると思ってたけど、3ヶ月もかかちゃった。翔のくせにチョロくなくてムカついたわー」
たしか3ヶ月前に、遥から急にラインが来て、一緒に帰ったりゲーセンに誘われた。
あれは、嘘だったのか?
「影川のあの顔、マジウケたわ!タコみたいに口をこーんなふうにしちゃって!」
陽キャグループの一人が、俺のキスの真似をした。
「ははは!めっちゃ似てるわ!」
遥が手を叩いて笑った。
「遥……お前……」
俺は怒りで拳を握りしめた。
「……ごめんごめん。本当に冗談だったの。翔と付き合う気はまったくないから。期待させちゃって悪いね」
「本気でお前が早瀬と付き合えると思ってたのかよ。マジ引くわ!ははは!」
陽キャグループの連中は笑った。
「翔、ひとつアドバイスしてあげるね。一生ないだろうけど、女の子と付き合う時のためにね」
遥は急に真面目な顔をした。
「なんだよ。今更……」
「あたしに告白する前に、これ、見せてくれたでしょ……やめたほうがいいよ」
遥はスマホの画面を見せてきた。
俺のVtuberの動画だ。
俺は3ヶ月前からVtuberを始めた。
遥がどうしても見せてほしいと言うから、嫌だったけど俺のアカウントを教えた。
「……翔の配信、めっちゃつまんないよ。正直才能ないから」
「どこがつまんないんだよ?」
「陰キャが無理に陽キャを演じようとしているところが、痛々しいの。翔は違う自分になりたいと願っているみたいだけどさ、そんなの無理だよ。陰キャはリアルでもネットでも所詮、陰キャのままだし、どれだけきれいなガワをかぶっても、中の人は陰キャだって視聴者にはバレてる」
「うわ〜遥、辛辣ぅ〜!」
陽キャグループが囃し立てた。
「すっごい気持ち悪かったから、3秒でブラバして、バットボタン100回押しちゃった。女の子に告白する前にあれを見せるのは逆効果だし、チャンネルごと消しちゃったほうがいいよ。黒歴史にしかならないし」
俺のチャンネルは、配信を50回もやっているのに、チャンネル登録者がたった1人しかいない。
毎回、再生回数は10回も行かない。
俺の憧れているトップVのココロナナシさんが、「Vtuberなら陰キャでも輝ける」と言っていた。
その言葉を信じて、俺はVtuberを始めた。
「強く生きろよ。底辺Vの影川くん♡」
陽キャグループの一人が、俺の肩をポンポンと叩いた。
「翔って、いいところがひとつもないの。わかった?」
「……わかったよ」
わかるわけがなかった。
ただ……遥は俺が好きじゃないことはわかった。
俺は黙って、遥の前から立ち去った。
その日、俺は何事もなかったかのように、授業を受けていた。
放課後に文芸部で合評会があったけど、俺はパスすることにした。
「紅さん。みんなにごめんって伝えておいて……」
「影川くん、大丈夫?」
紅さんが心配してくれた。
「大丈夫。気にしないで……」
同情されるのも惨めな気がした。
俺は紅さんを振り切るように、学校から出た。
しかしこの後、俺の人生が一変する出来事が起こる……
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