底辺Vtuberの俺のたった1人のチャンネル登録者が、学年一の美少女で大人気Vだった件。強引にコラボさせられたら、1日でトップVになったのだが。今更付き合いたいと言われても、もう遅い。

水間ノボル@『序盤でボコられるクズ悪役貴

プロローグ

第1話 幼馴染とキスをした?

「……え?私と付き合いたいって?」 


 俺の幼馴染、早瀬遥(はやせはるか)は驚いた顔をした。


「いいよ。翔(かける)となら」

「よっしゃあああああ!」

 誰もいない高校の教室に、響く俺の歓喜の声。

「あたしも嬉しい!」


 遥は机越しに身を乗り出して、俺の手を握った。

 制服の薄いブラウスの下で、たゆんっと胸が揺れている。

 

 俺と遥は幼馴染だ。

 幼稚園から高校までずっと一緒だった。

 黒いツインテールのさらさらの髪に、丸い瞳がかわいい。

 それに……胸も大きい。

 いやいや、そんなところを好きになったわけじゃない。

 子どもの頃、遥と一緒にずっとゲームをしたり、夕食を作ったり……

 遥の優しいところが好きになった。

 

「ねえ……チューして?」

「チ、チュウ?」


 遥はイタズラぽっく笑った。


 チュウ……キス、口づけ、接吻。

 まさか今日、そこまで行くとは考えてなかった。

 1回目のデートで手をつなぎ、2回目のデートでハグをして、3回目のデートでキスをする。

 4回目のデートでお泊まりして、それからもちろん……


 俺がキョドっていると、


「もう……私がするから、翔は目をつぶっていて」

「おう……」

「しっかり目を閉じていてね」


 俺は目を固く閉じていて、唇をすぼめた。


「そう……もっと唇を突き出して。チューしづらいでしょ」


「うん……」


 女の子と初めてのキス。

 俺の全身はぶるぶると震えた。

 ……俺はDT(童貞)だ。

 女の子とキスはおろか、手を繋いだことさえない。


「恥ずかしいから、絶対に目を開けちゃダメだよ。心の準備があるから……」


 遥も恥ずかしいんだ。

 中学になってから、遥とは少しづつ疎遠になっていった。

 俺は陰キャに、遥は陽キャになった。

 付き合う友達も遊ぶ場所も、全然違っていった。


「わかった……」


 俺は唇を突き出して、じっと遥のキスを待っていた。

 もしも誰か教室に来たらどうしよう?

 明日から学校中で話題になる。

 クラスで一番かわいい陽キャ女子が、俺みたいな陰キャとキスしていたんだから、学校中の男子を敵に回すに違いない。


 遥の吐息が鼻にかかった。

 8月の暑い日。

 遥の甘い匂いが俺の鼻腔をくすぐった。


 ……さっきから3分は経った。

 うん。女の子はきっといろいろあるんだろう。

 俺は紳士だ。女の子をちゃんと待ってあげないと。


 ……10分は経ったかな?

 いつまで待たされるんだろう。

 やっぱりキスは早かったのかな?


 キスはまた今度しよう、と言ってあげないと。紳士として。

 俺は目をうっすらと開けた。


「あれ?遥は?」


 遥がいない!

 

 教室には俺しかいなかった。

 俺は誰もいない教室で、エアーキスをしていた……

 もしかして……恥ずかしくなって逃げちゃったのかな?

 うんうん、きっとそうだ。そうに違いない。

 ……俺はそう信じたかった。


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