第2話 関係
配信者か、懐かしいな。俺も高校生の頃憧れてしていたな。結局人が全然来なくて思うようにいかず辞めたっけ。
『あ、お腹が鳴った。…恥ずかしいんで、今の忘れてください///』
『段々夕食時になってきましたね。あー、お腹が空いてきましたー。え、まだ早いって?やめてください、私を食いしん坊みたいに言うのは!あ、なほぐさん。500円夕食代、ありがとうございます!』
彼女はこんなおんぼろアパートに引っ越してきたが金はあるのだろうか。ここは都内色んな物件があっただろう。その中からここを選んだぐらいだ。そこまで経済面で余裕はないはず。俺も上京した頃は金銭面でいつも悩んでいた。少女が一人は大変だろう。何かできないものか。そういえば腹が減ったとかなんとかいってたな。丁度いい料理でも持って行ってやるか。
そうと決まればさっさとやるか。冷蔵庫に食材はまだある。手の込んだものは逆に遠慮されるかもしれない。豪勢すぎるものはよしておこう。現在時刻は5時。一般的な夕食時間は知らないけど、まだ時間はあるはず。持っていくと喜ばれそうなもの…。よし、角煮を作ることにしよう。
まずは下茹でから、豚バラブロックを適当な大きさにカットし、大きめの鍋で1時間ぐらい茹でる。その次にプルプルになった豚肉を煮込んで、いい感じに豚肉に調味料が絡まったら完成。時間は大体6時半ぐらい。いい感じの時間帯だろう。
調理している最中も『お腹減ったー』とずっと言ってたから食事はまだのはず。できたものをタッパーに詰め、家を出る。壁が薄いことからわかる通り隣とはそこまで距離は離れていない。
ピンポーン
チャイムを鳴らすと少し経ってから「はーい」と声がする。
「どちら様ですか?」
扉を開けず、扉越しから声が聞こえる。これですぐに扉を開けてきていたら説教でもしてやるつもりだったが、一端に警戒心はあるようで安心した。
「隣の206の者です」
「あぁ、朝の…」と声がし、扉が開いた。
「あの、どうされましたか?もしかして、騒がしかったりしましたか?」
目がしっかりと覚めた状態で見ると改めてわかることがあった。彼女の笑顔は表面上でしか笑っていない。奥にあるものは寧ろ真逆の感情。声も一切と言っていいほど心を許していなく、警戒心剥きだした。
「いえ、別件で来たんです。実はこれ、引っ越し祝いとして持ってきたのですが、よかったらどうぞ」
配信を聞かれていることがばれるのは本人にとって恥ずかしいし、何よりばれているのはまずい案件だろう。適当に話を逸らすことにした。差し出したタッパーに目線を向けていたので、料理ということを伝えると、少し表情の力みが抜けた。
「すみません。失礼だとはわかっているのですが、受け取れません」
今日初めて知り合った男から料理を渡されたら誰でも怪しみはするだろう。対応としては正解だが、俺としては受け取って貰いたいため、ここで引くことはない。
「いや、全然遠慮しなくていいですよ。何ならこれ少し作りすぎたんで、おすそ分けみたいなものですし」
「いえ、全然遠慮なんてしてないです。本当に大丈夫なんで」
次々に言葉を上げていくと、その分嫌そうな表情が表に出てくる。
是が非でも渡したい俺VS絶対に受け取りたくない彼女の構図ができてしまった。
それからも終わることはなく、気づくと3分ほど口論(?)を続けていた。いまだ受け取ろうとしない少女に段々イラついてきた俺は強硬手段をとった。
「あーもう。なんでもいいから早く受け取れ。別に捨ててもいいから。じゃーな」
無理やり手に持たせ、自分の部屋に戻る。突然のことに数秒ぽかんとしていたが、俺が部屋の扉を開けた辺りで意識を取り戻した。扉が閉まる直前「ちょ、ちょっと」と声がしたが、無視を決め込み、その日は飯を食べて、寝た。食事中隣から「うまっ」と声が聞こえたときは思わずガッツポーズをしたよね。
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