隣の美少女は配信者

舞黒Glam

第1話 引っ越し

「あ”ぁ・・・」


倒れるようにベッドに寝伏す。ゾンビのようなうめき声が思わず出る。

今日も疲れた。なぜあの人は俺にだけ異様に厳しいんだ。そんな性格だからいつまでも独り身のままなんだ。なんてことは面と向かって言えない。言ったが最後消されるだろう。•••あれ?副料理長としての俺の立場とは?


なんてことを考えていると隣から物音が聞こえた。俺の住んでる部屋は角部屋でその隣には人は住んでいない。俺の知らない間に誰かしら引っ越してきたのか、このおんぼろアパートに。このアパートは見た目はそこまでぼろい印象を受けない。しかし、それは見た目詐欺なだけ。中に入ってみればあら不思議、隙間風もあるし、何より壁が薄い。それ故に些細な音が隣の部屋にも届く。ほんと難儀なものだ。


閑話休題。明日は休み。飯は店で済ませたし、歯を磨いた。隣の事も、やるべきことも明日の俺に任せて、今日はとっとと寝て体を休めよう。


―――――――――――――――――――――――


ピンポーン


・・・ん。チャイムがなり、目が覚める。時計を見ると9時30分。こんな朝早くに一体誰だ?なにも頼んだ覚えがないからは宅配ではない。じゃあ何かの勧誘だろう。なら無視するか。まぁ眠いから誰が来ても居留守を使うが。


ピンポーン コンコン


・・・。


コンコン 「すみませーん」


・・・ちょっとしつこいな。


「すみませーん。いらっしゃいませんかー?」


・・・はぁ。目が冴えてしまった。文句の一つでも言ってやろうと仕方なく体を起こし、扉を開けた。


「はい。何の用ですか」


「あ!おはようございます」


扉の前に立っていたのは社交的な印象を受ける美少女。顔が小さく、目が二重ではっきりとしてる。実はアイドルだったりするのだろうか。

将又女優だったり。どっちにしてもこんな美少女が一体うちになんのようだ?


「昨日隣に引っ越してきたものです。お昼頃にお伺いしたのですがいらっしゃらなかったので、改めて参りました。この時間帯しか予定が空いていなく、朝早くからすみません。こちらつまらないものですが、よかったらどうぞ」


昨日は土曜だから休みじゃない。それだけ聞くと休みが一日しかないように思われるが、そんなことはなく、日曜と月曜が休みなため、十分に休みは取れてる。疲れが取れているかはまた別の話。


「ありがとう。何かあったらなんでも気軽に相談してくれ」

「ありがとうございます!早速で申し訳ないのですが、この近くに安いスーパーとかありませんか?」

「それならここを出て右に曲がって5分ぐらい歩いたところにあるよ」


引っ越し先からそこまで離れていないのに知らないことがあるのか?まぁいい。とりあえず眠いし、寝るか。美少女とはそれで終わり、扉を閉じた。そういえば彼女の名前を聞いていなかったなと思ったところで意識が途切れた。目が冴えたのは気のせいだったらしい。


次に目が覚めたのは昼を優に過ぎたころだった。ぐぅ~と腹が鳴る。・・・飯にするか。昼飯にしてはだいぶ時間が遅く、夕飯にしては少し早い時間。せっかくだからちょっと時間をかけ、手の込んだものにすることにした。


料理を作るには兎にも角にも冷蔵庫に何があるか知らなきゃなにもできない。中身を見ながら作るものを考えていると、隣の部屋から話し声が聞こえた。どうやら誰かとゲームをしているようだ。


聞き耳を立てているわけではないのに聞こえてくるのがこのアパートの長所(?)でもある。挨拶したときに一つ教えておけばよかったか。気を取り直して調理を再開しようとすると、


『あ、チェイサーさん。1000円ありがとうございます!』


投げ銭。それは視聴者から配信者へ応援や愛、お礼の気持ちなどを伝えるために投げる与える金のことを指す。普通誰かとゲームをしているときに1000円ありがとうございますという場面はないだろう。そのことから示されることはただ一つ。隣の美少女は配信者だ。

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