第3話 彼の地

 あの時、箱館で土方歳三がほぼ致死したのは、西暦1869年6月20日。

 収容したマシナリィのマニューバー・アルフィーの造形再生を循環させても、土方の最低限の復調には3ヶ月半かかると見立てた。造形再生しながら、光学迷彩のシーカーモードを展開し続けるのは難しいので、蝦夷の大雪山中腹洞窟に隠遁させた。

 たまに生鮮物を求めて麓にも降りたが、現地民とは巡りあえていないのは、逆に警戒されているかだった。しかし、生物の足跡を分析する程に、大雪山は未だ聖なる山々の扱いかで、事なきを得ている。


 この間に、西暦12000年の時間管理局に、行方不明者の土方歳三を保護と時空間パケットを送ったが、3ヶ月後に回答が漸く来た。


 さてになる。私歌姫は、とっくに時間管理局の主任調査官を罷免されており、一現地人としての救命活動ならば、至極当然の事と構わんよと、その口調そのまま聖院の伝統的女子教皇の裁量で只管恐縮した。その構わんよは、何もかも悟られている様だ。


 もっとも。西暦1863年から1869年の大凡6年間は、時間旅行者としては今回帰還出来る3年5ヶ月の猶予を超えており、なる様になるしかなかった。

 いざこの時代の人間として暮らそうも、人型演算生体であるマニュピュレータの寿命は半永久で、どう自由に生きようかは、今も悩み続ける。

 ここで、臨死超えて来た土方が、そこ迄大別嬪さんを御所望と言うのなら、どうしてもを慮った。しょうもないより、ずっと働き詰めだったしの同情で、移籍地を最大検討した。



 そして土方の弾痕が癒えた機を待って、平行次元ナンバー2345の西暦1871年のネーデルラント王国の湖畔に辿り着いた。


 本来の平行次元ナンバー1001の垂直時間軸の時間旅行も出来るが、土方が行方不明の世界なので、万が一の不都合があっては困ると、同分岐の平行時間の時間旅行に入る。そして無事到着したのは何よりだ。

 私達はネーデルラント王国の現地人と交流した会話の中から、やはり職の豊かな中心街のアムステルダムで生活する事にした。

 そして乗って来たマニューバー・アルフィーは運河を適時に自動回遊させて、ヨーロッパでの戦乱の気配は無いもの、何かのアクシデントには備えた。



 早速、土方歳三改めハヤト・コープマンが嘆いて下さる。いや何故フランスじゃ無いんだ。フランス語だったら、従軍したから分かるぞと。

 ハヤトはもう30代半ばと、この時代なら凄いおじさんの分類なんだが、何を肩の荷が下りて遊ぶ気満々なのだ。このまま屋外カフェのテーブルをひっくり返そうとしたが、それだったら飽きる迄見定めろに、周りのお客さんが見ているから丁寧に置いた。

 そして、ハヤトは呆れる程に人と通りを真摯に見つめる。人事畑を歩んで来たか、数えて三日で、アムステルダム良いだろうと、漸く乗り気になって下さる。そもそもネーデルラント人には駆け引きが一切ないので、いたく気に入った様だ。


 この私沖田睡蓮改めスイレン・コープマンだが、そう気付いているだろうが、ハヤトと一緒の姓になっている。


 きっかけは他でも無い、アムステルダム巡りをしている中で、聖ニコラス教会に入り、アンリ司祭から、夫妻扱いされたからだ。ここからは史実半分を交えつつ、こいつハヤトが中々踏ん切りつけず、見た目夫婦なんですけど中々式を挙げてくれなくと。二人の親が今は解散している連合東インド会社に在籍していたので、心機一転してアムステルダムと頑張ろうと。次第にシナリオのその気になっていた。

 そしてアンリ司祭は、あなた方の宗派はと聞かれmカトリックですと答える。京都在住時に教会に何かと警邏に行ってたので、まあ唯一の宗派であるには違いなかった。

 ネーデルラントはプロテスタントが多いので、そこはカトリックのコミュニティのより正しき一員として、私達は快く歓迎された。


 そこからカトリックコミュニティでとんとんに、住居に、世話人に、就職に、そして直ぐに結婚しなさいになった。私達、いや私達しかいないのだが。いや心の準備も、準備はあっという間に進んで行った。

 そしてアジアから微笑ましいカップルが来たとの評判から、カトリックコミュニティを大きく超えて晴れがましいものになった。

 それはそれは、超長未来の聖院主催の結婚式に勝るとも劣らない結婚式を挙げられたので、何故だかどうしても泣けた。何故泣けるか分からなかったが、それは嬉しいからでしょうと、皆々にとても親身に祝福される。


 西暦11735年に人型演算生体のマニュピュレータとして生を受けて、ほぼ戦争しかしていないのに、戦いこそが普通だと感じていた。

 そして今回任務を逸脱し、特定の小うるさい武士に、愛情が湧き上がる。その相手が近過ぎたハヤトなのはどうかだったが、私達の経緯は戦士と看護婦に体良く収まるも、そこは誰彼漏れ無く情愛と諭された。それで漸くしっくり来た。人間の付き合いではよくある事らしい。



 アムステルダムに来て1年。私スイレンはメモリのテキストを参照しているので、語学堪能で接客も上首尾と、早々にカフェの給仕長になった。

 ハヤトはイギリスとフランスと従軍していたので、語学の理解能力の展開が早い。ネーデルラント語も働く内に覚え、出来る出来ないをはっきり示す事から、肝胆相照らし、今では上客を掴んで離さない。

 ただ、ハヤトは箱館で左肺を撃ち抜かれており、医療手術珪素組織で完璧に塞いでも、まま引き攣る事があるらしく、私が何かに連れ港湾の職場に強引に迎えに行く。

 そうでもしないと新撰組時代の様に働き詰めるので、ハヤトお前何歳だよと、容赦無く張っ倒しアパートメントに連れ帰る。職場ではまたかと微笑ましく囃し立てられる。

 ハヤトも昔だったらそこで応酬しての腕固めなのだが、夫婦になったのか、私はやけに丁寧にされる。


 都度の就寝時に、私スイレンは常時愛人二人迄は許すからと、やや泣きながら切り出すと、ハヤトは朝までずっと背中から抱きしめてくれる。私だけを愛し続けてくれる。その日々は、ただ何もかもが幸せだった。



 何もかも順調で、蓄えもそこそこになった時に、ハヤトから切り出された。生家の石田散薬を売り出したいと。

 製造方法は勿論知っているだろうが、成分の牛革草に変わるものかあるのかに対し。ハヤトは、ずっと懐袋の種を入れていたからと、成分分析では種子の状況は良好だった。

 そして、カトリックコミュニティの伝手を辿って、畑を借り、水捌けも良いことから、牛革草は無事生育した。そして天日干しにし、黒焼きにしては、三手加えて粉末にし、果たして石田散薬は、オリジナルに近いものに仕上がった。

 効能は捻挫・筋肉痛・切り傷に強い事は、治験者何れも目に見える効果を示した。

 そしていざ行商になると、そのまま製品名石田散薬では、遥かに遠方でも誰かに察せられて足がつきかねないので、イザヨイ薬として販売した。評判は、運河港湾の肉体労働者が多い為か、上首尾の評判を上げて行った。



 私達のイザヨイ製薬は、口コミ多しから経営は堅調に推移する。ここで生産を増やそうかになるが、ハヤトは、ごく身内の方が楽しいからと、元石田散薬の生家に育ったハヤトに諭される。

 でもな、購入者さん達がイザヨイ薬無いと、しんどい時はえらいしんどいぞで、販売店の情報を受け貰いながら適正在庫は心掛けた。その手堅さから、工房一棟も購入出来て、私達はアムステルダムに邸宅を構える事も出来た。



 そんなある日、商工会の会長宅のファミリーパーティで、不思議な青年に出会う。会長宅の大きな庭で、一心不乱で池の睡蓮を模写していた。


 ハヤトが声を掛け、私が料理を取り分けた皿を持ちよると、青年オスカルはこれはこれはと自分語りと、クロッキー帳をパラパラと捲った。まあサロンのゲストなら売り込みは必死な類ではあった。

 ハヤトは売り込みに情を寄せる事がまま有り、クロッキー帳を丁寧に捲るが、西洋とはこういうものかと、私に問い掛ける。

 まあ印象はなという所で、私は大いに固まった。この時間軸が自由に往来する採光の異質ぶりは何だ。

 私は、西暦1万2000年の世界で結晶保存されている美術品の数々を、メモリから只管捲った。あるにはあったが、こんな出会いがあるのかだった。


 そして私スイレンは、オスカルのフルネームはと尋ねる。するとオスカル=クロード・モネと素っ気も拘りも無く答える。ああ、まさかの印象派の中心人物のその方だった。

 私はハヤトにあれこれと話し、だからこいつは大物だと話すも、この時代に画集というものは存在しないので、とにかく凄過ぎる奴だけは理解した様だ。

 そして、ハヤトはこれも良き出会いだからと、私達夫妻の肖像画を描いてくれれば奮発するで、スイレンその意をでもある睡蓮も写実に入れる様にと一言加えた。

 オスカルは天性の直観から、その庭園橋立に立ってくれと、必死に促す。時間にして90分。その間に何事かで商工会の会員がオスカルを窺って行くも、感触の薄い商工会の会員達は、またハヤトは優しいなで早くも踵を返す。この接触、歴史的瞬間なのに、西洋美術の評価は一朝一夕では無いんだなと、ただ逡巡した。


 オスカルが歓喜し出来上がったと感に咽ぶ。クロッキー帳の作品は、私の名前を模した睡蓮No. 1と、オスカルに名付けられた。画像は、庭園橋立にいる私達夫妻と、池に映える自由自在採光の明るい影、そして何よりの中心は池に静かに佇む睡蓮だった。

 ハヤトはまず俺達夫婦だろうと、流石にやり直しを切り出すも、私は大絶賛の声を上げる。

 私はオスカルに、どうかこのままの描写で大作を書くべきも、いやもっと構想の大きな作品も描きたいと表情豊かに終える。まあそこは、晩年の苦闘を今奪っても可哀想かにもなる。

 私はクロッキー帳1枚の相場3倍のギルダーで支払い、ホクホク顔ではある。生涯の宝とは得てして御縁があればこそと知る。

 ハヤトは、余りサロンの連中は甘やかすなと言うも。私が声を潜めながら諭す。何を隠そう、これがオスカル=クロード・モネの大作の睡蓮のごく初期の縮尺作品で有り、その大作である睡蓮連作は後々に国家財政を大きく補助すると言う、西暦1800年代の身も実もある骨太な美術絵画で、その成り立ちに立ち会ったんだぞ、と懇切丁寧に話す。

 ハヤトは、睡蓮No. 1の出来がこうピントが甘いと、俺達の生き様がこれかと、居間に飾って皆に知らしめられるのかと、強引に閉じる。武士時代の伊達さが、あのなとても面倒くさいぞと切り返す。


 そこから1週間は冷戦に入ったが、ハヤトが折れて。大分分かってきた3m離れて良さが通じる。いやそうじゃないだろうと、この採光の時間の変遷を感じろに、あのオスカル=クロード・モネが私達の肖像画を描くなんてどういう運命なのかを、全身全霊で解く。

 ハヤトは、ああ女性はそういう記念を大切だよなと。まあ女性扱いするなら良いかで、私は必死にもどかしさを抑えて、また折れた。まあ折れたついでに、その3mの距離に仲良く並ぶと、図らずも良い夫婦でしょう。知らなかったのか。だから、でまた痴話喧嘩に突入する




 そんなある西暦1890年に、ネーデルラント王室のエンマ・フォン・ヴァルデック=ピルモントが、王の夫の死後、王太后としてネーデルラントの摂政についた。

 体制は如何せんの急仕立てで、実務経験者を尊ぶと、誰かが噂が飛び交う。そこに商いにやたら詳しい、私達コープマン夫妻が宮殿に仕える運びになった。


 ただ実際のエンマ王太后は、私達の東洋人の商才よりも、刃物慣れしている機微の働きを漏れ聞いていた様だ。

 エンマ王太后曰く、一人娘ウィルヘルミナが10歳にしてあまりの卒の無さから、徹底的に人の在りようとはを叩き込んで欲しいとの、一抹の不安を覚えての招聘だった。

 ハヤトは、習い事は10歳では既に遅く、3歳にして覚悟が決まっていなければ、ただ形を覚えるだけだと、けんもほろろに断ってくれる。

 相手が、その王太后にして摂政でも、物怖じしないのがハヤトらしくはある。どう、どちらに助け船出そうかと思い倦ねると、エンマ王太后が切に訴える。

 戦争ともなると、真っ先に餌食になるのは女性で、ウィルヘルミナはその先頭に立たないと行けない。武芸は未熟であろうと、その覚悟だけは母親として覚えこませない行けないと。一母親を切り出されては、ハヤトも引き下がる事を止め、週一で宮殿に通う事になった。


 ウィルヘルミナ王女は、刀の扱いは四肢が柔らかい為に、ハヤトから徹底的に重心を落とせと、号泣しながら稽古に着いて来る。

 とは言え、ハヤトは土方歳三として近代戦争の洗礼を浴びたので、銃器の取り扱い方をやたら丁寧に教える。そこから近代戦術とは指南になり、根気の付いてきたウィルヘルミナ王女の物覚えはとても早かった。



 そして迎える西暦1901年に、既に女王となったウィルヘルミナは、緊縮から盛大な事が嫌いと言いながらも結婚式を上げる。私達コープマン夫妻もすっかり白髪になり、いや、私は珪素造形で合わせているも、無事微笑みのままに見届けた。

 今ではウィルヘルミナ女王も、ハヤトの中で可愛い娘扱いだ。ハヤトさ、お前が何で泣くのかよと背中を叩くも、まあかなり可愛がった男親相当なら、そうだよなにもなる。


 コープマン家は何かにつれの問題がある。私は珪素生命体で有り、妊娠が出来る筈も無いので、養子を取ろうかになる。ハヤトはそれを打ち消し。もうイザヨイ製薬の従業員全てが大きなファミリーだから、今更だろうになる。

 まあファミリー、それだよなは、うちらの満遍なくのファミリーに絡んで来たゴロツキ野朗どもの拠点は、軽く12程はお構いなく潰している。

 ここはもはや新撰組の性分未だかなのだが、着いていく私も、本当に恐れ多い扱いなので、ファミリー皆に、もはやうんざりされている。


 そしてハヤトは、平行時空間差はあるもののも60歳超えになり、全盛期程の筋肉はやっと一般人に落ち着く。適時に私がメディカルチェックはするものの、どうしても衰えはやって来ている。


 それから西暦1910年に、ハヤトはベッドに深く沈み、イザヨイ製薬のファミリー全員に見送られて、老衰で天寿を全うした。

 私は、この瞬間、そう分かっていても、置いていかれる別れはどうしても嫌だと、憚らず泣いた。

 人型演算生体であるマニュピュレータなのに、もうハヤト・コープマン事土方歳三の事になると、えらく寂しく、とても切なくなる。


 やっと一段落ついて、夫英雄土方歳三の死亡を、超長未来へ時空間パケットで告げると、返信は6ヶ月後に来た。5つの平行次元のルートを辿り、西暦12005年に帰投する様にと。いや何故、まさかだった。

 一定の滞在時間が長いと帰投不能になる為、帰還厳命されていたのに、それは新撰組と同行して守れなかっただが。いやそれは、垂直時間軸の一元論の話であって、そう超演算の回避ルートはどうしても有ると、時空間パケットを何度も見返しては、深く悟った。


 そして時間管理局の厳重注意として、5つの平行次元で活躍しない様にと言い渡される。

 既に平行次元で、イザヨイ製薬と言うサクセスストーリーを描いたと言うのに、何故触れないのだろう。そこは仁有りきから大目に見られたと言う事か。


 私は、本来の時間管理局に復職する為に、東洋の実家に戻る名目で、イザヨイ製薬を重役達に委ねた。

 一言添えたのは、どうしても欧州で大きな戦争が起こるであろうけど、イザヨイ薬の鎮痛薬の販売は偏る事がなき様にと、厳しく言い渡した。



 旅立ちの日。ある晴れた初夏の日差しの中で、手にしたものは大鞄だけだ。

 ハヤトが何かと記念だからと買ってくれたものが、所狭しと入っている。その中には、晴れがましい私達の夫婦の肖像画、印象派の第一人者オスカル=クロード・モネによるクロッキー画の睡蓮No. 1もある。

 そのエポックメイキングな名画は、正直後々資産運用の為に、イザヨイ製薬に預けようと思ったが、オスカルの手記にも、一切の目録にも、上がらないと言う事は、私が持っておくべきと了解した。そもそも手放す気はさらさら無いの記念作だからだ。




 そして、5つ平行次元を渡り歩き最後の平行次元ナンバー9113の1944年の9月2日。ウェールズのカーディフのクラシックなヘアサロンで身支度を整えていた。


 今の若返った姿は、大戦事中でシックなスカート丈も、男装でネイキッドな日本人の沖田総司だ。そう、あいつ土方歳三の最大の相棒だった時代のスタイルだ。

 同体の女性沖田睡蓮でも良かったが、ついオリエンタルな艶めかしさが出てしまうので、この御時世では如何なので控えている。ヘアカットのオーダーは、そう総髪からの卒業として、本来のミディアムボブに仕上げに入っている。


 やたら大きくクラシックなラジオからは、第二次世界大戦の戦況が逐一流れる。

 ノルマンディー上陸作戦である程度の夜明けは見えてきた。本来の垂直時間の近似値なので、酷い状況は後に見えて来るだろうが、その悲しみは、きっと皆が許容出来ると信じている。

 ラジオは次のコーナーとして、オランダ亡命政府のウィルヘルミナ女王の演説になる、あの淑やかなウィルヘルミナがね。とやや乳母目線になるが、ウィルヘルミナの物分かりの良さは、それは昔からそうだったと、つい微笑んでしまう。


 カットの仕上げに入る中で、小憎たらしいあいつの事も思いだす。西暦6300年からの使者齋藤一。

 土方をどうしても生かせは、時間を超えての男ならでの友情かと思ったが、土方がウィルヘルミナ王女に叩き込んだ武芸戦術全般が、どうしても徹底抗戦として花開いたかになる。

 つうか齋藤、もう一言あれば、土方が、いや私が、まあ、結果穏やかに生活出来たのならなばもあって、ど酷く正解なんだがね。いや、どうしても割り切れん。何処かで出会ったら、今度こそ打ち勝つさ。


 そう新撰組のあれこれで、ここまで時間滞在したら、こんな戦争一辺倒の珪素組織の人型演算生体にしてマニュピュレータの私でも、あいつ土方歳三に情というものが湧いてしまうのだろうか。

 そこは、ウィルヘルミナ女王の一言で瓦解する。スイレンはそこ迄愛して愛されていたのですよ。分かっていても、いざ、にこやかに確と言われると、そういうものかと、より愛は深まって行った。


 そうだな、ああ、覚えてるよ、このブレインメモリの中に全てに。

 都合1113回も、愛してるぜとあいつに言われた。ふん、最後迄照れやがって。

 これならさ、初めて出会った浪士組出発準備の時に男装しなきゃ良かったよ。それがつい馴染んで、沖田総司と言う回り道してしまったのが、まあ、未来人の歴史好きが多過ぎて、時間管理局の主任調査官なら、職務忠実にもなる。私は基本大真面目だ。


 そして、活躍的なミディアムボブは仕上げられ、鏡台をじっと見つめる。昔はあんなに張り詰めていたのに、普通にオールオーバーな日本人ぽくなっている。

 あいつ、土方歳三、ハヤト、がこのミディアムボブを見たら、どう思うのだろう。

 土方歳三時代に、自ら髪をバッサリ切ったのに、私には何かと綺麗な黒髪だと、好い加減切ろうと思うと先手を打たれる。

 ベーだ。鏡ごしに女主人が高笑いする。ふん、こんな小粋さも、ああ、あいつ土方歳三を和らげる為に、何度身を張ったやら。


 そして、天国の隼人、私を変わらず愛しているか。私睡蓮はそれ以上さ。愛しているよ。

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睡蓮と隼人 判家悠久 @hanke-yuukyu

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