第2話 清貧

 あの池田屋事件から事態は大きく動いた。尊王攘夷派の長州藩が満を持して挙兵し、京都の守りを固める会津藩排除に動いた。

 新撰組の編成は、そこ迄大きくなっていない為、京都の守りを何処に的を絞るか、長らく話し合いが続いた。結局は、らしくない土方の押しで、挙兵した長州藩の前線徹底排除で、遊撃隊として九条河原に配置して欲しい事を進言し、幕府は必死の守りを固めた。

 ただ、それも正解だったが、この時代の大砲以上のものが御所方面から鳴り響き、失策と悟った。


 歯ぎしりする土方歳三が走り、私沖田総司も続く。残りの隊士は温和な山南敬介に諭されてか追って来ない。こちらにとっては都合が良い。

 寄せる街並みは、既に火が回り始め、京都の町民の叫び声が聞こえる。これも含めての長州藩の調略なのだと、土方に訴える。沖田どうにか出来ないのかと、珍しく懇願するので、私は禁忌とされる歴史干渉をする事にした。

 この大火では万が一の、より多くの未来への始祖が焼け死にかねない。時間管理局の報告は後にする。そして私は叫ぶ。


「アルフィー、来い」


 延焼に照らされる上空から、巨大な影が浮かぶ。光学迷彩のシーカーモードからマシナリィのマニューバー・アルフィーが現れ出でる。

 アルフィーのその姿は、せめて威嚇専用として重装備プランβに珪素造形していた。この江戸時代ではまだ見ぬヘラクレスオオカブトを人型にし、そこに甲冑武者の追加装甲も造形しての、畏怖を感じざる得なくした。

 そう、この江戸時代の18mの巨大甲冑武者とは、誰もが腰を抜かす筈だった。

 アルフィーは屈みながら、イオンクラフトでホバリングしては、右手を差し出す。私が乗り、あいつ土方歳三も、驚きもせずタイミング良く相乗りする。


「だからさ土方、びっくりしないのかよ。おどろおどろしい巨大甲冑武者なんだぞ」

「想定内だ。総司と同行すると、この圧迫感に、相応の影が出来るってことは、巨人兵の類いとは察していた」

「組織保全。分かってるだろうが、長州藩駆逐にアルフィーは使えない。せめてもは、京都の大火を食い止めるだけだ」

「総司、大いに結構だ。俺も乗せろ。お前に何もかも責任は負わせられない。組織ってそう言うものだろ」

「まあか、言うと思ったよ。人間乗せるの、古代エジプトに、アッシリアに、それ以来だな。まあ何とかなるな。アルフィー、開け」


 私達は、アルフィーの右手が導くままに、右腰部の搭乗口に吸い込まれる。

 搭乗者は土方だろうか、万が一があるかもしれないと、折に触れ搭乗席を造形しては、現在その土方歳三が立席に収まる。

 私は、アルフィーと同じくの珪素同体から、アルフィーと一体化し、今日はセンサー系を司る。そして操縦は土方に委ね任せた。


(土方、操縦は自らの感覚が先延びしたと考えろ。全ての感覚は、私が送り込む)

「沖田、どうやって鎮火するんだ、鳶口あるのか」

(あるか、そんな便利過ぎるものじゃない。普通に刀で最大限に凪って、鎮火させろ。いいか、土方は普通にエーテルを出しているから、アルフィーは、その活動エーテルを加速させる)

「払うだけで良いんだな」

(上等だ。氷結原子解体モード、展開。あとはそちらの準備で問題無し)


 立席で土方が自らの佩刀和泉守兼定に全ての念を込め続けながら、スクリーンに鎮火想定範囲が投影される。頃合いはいつか。私達は外で逃げ惑う町民の流れを図っている。私はよりセンスを最大限に上げ、鮮明なイメージを送りつつ解像度を高める。

 そしてアルフィーは巨大甲冑武者の姿で街路を歩み、逃げ惑う町民を避けつつ、大火の渦中に入る。ここならもう町民はいない。


「参る、斬、」


 巨大甲冑武者のアルフィーが抜刀し、上段から氷結原子解体に変換されたエーテルを放つと、巨大刀の軌道そのままに、凄まじい吹雪が舞い上がる。並居るパツンの激しい氷結音が冴え渡り、御所に通じる大通りの大火は軒並み消し去り、要所の火元を断つ。

 西暦2000年代でもないのに、これ程迄にエーテルを具現化出来る土方に、ぶっつけ本番でまあにもなるが、取り急ぎここ迄にした。

 これ以上、巨大甲冑武者が京都を闊歩したら、町衆に陽炎からの幻影ではないと怪しまれる。


 そして、それでも翌朝迄に京都は大きな延焼が進み、どんどん焼けとして、焼け野原になった。もっと被害を抑えられたかもしれないが、巨大甲冑武者は、どうしても朧にしないといけない。

 これこそが、各方面に睨みを効かせる最低限の被害だったとは、私沖田総司も土方歳三も京都守護職松平容保公も内諾した。


 ただ、西暦1万2000年の時間管理局に、事の次第を時空間パケットで送った所、4ヶ月の往復を経て、私は主任調査官を罷免された。

 何故にもなったが、どんどん焼けの瓦版で巨大甲冑武者が既に大いに触れ回っており、やはりやり過ぎたかがあるので、罷免はやむ得ないと大いに反省する。


 副長土方歳三に、実際の長未来の時間仮曲実務が罷免されまして、あはは、ここはこっそり名前を変えての新撰組活動をと、相談した所、長未来であってもあちらの上司を蔑ろにするなと、こっ酷く叱られた。

 そして、見た目巨大甲冑武者のマニューバ・アルフィーを抱えている以上、京都での懇意でもあっても、何処もひしめき有っており相応の下宿先は紹介出来ないと。新撰組放免は困難があった。

 妥結点としては、新撰組そのものを、この機会に壬生屯所から大きな西本願寺にも移転し、私は何となく衛生係として新撰組にとどめ置かれた。

 その際、歴史上そのまま、沖田総司は労咳で治療に入ったが、私は沖田総司の双子の姉沖田睡蓮として合流した事になった。

 沖田総司何を女装したかになる筈も。珪素造形で小ぶりな歯にし、より胸部臀部を強調した為、新撰組に未だ未来人がいても、何ら疑念も無い。ここ軒並み皆が本気で姉上様と、陽気に怪我の処方と相談に当たる。

 まあ未来医療の大凡を、機器無しでも、読み込んでいるので、治りが何故か早いと、衛生係としてそれなりの信頼を得る。



 それから、歴史通りに江戸幕府が瓦解して行く中で、どうしてもの諍いになった。

 新撰組も大きくなり、図らずも総長山南敬助が動いた。山南も同じく未来人で西暦5500年から来ている。

 宗教史観の大きかった西暦なので、人々が為すがままに殺されて行く事に、どうしても心が痛んだ。山南は史実より早い大政奉還をと、新撰組局長近藤勇はそれは形式に過ぎないと破却し、新選組の方針と食い違った。そして山南が姿を消す。いざあちらの維新に合流したのではと、脱走の一報が飛んだ。


 副長土方歳三は、規律故の烈火の怒りと、山南の無念さを具に読み取る。

 ここは真正面に山南を責めても、相手は未来人で手強いとに大いに悟る。そして下された密命は、私が再び沖田総司となり、マニューバ・アルフィーで山南を捜索する事になった。

 まず山南は、政策欲強い新選組分離派と合流するかと思っていたが、特異点信号を自ら敢えて発信し、一人で大津で待っていた。そう相手が土方ならば、穏便に私を寄越すと思い、どうしても話したかったらしい。


「総司さんの未来の派遣先は結局分からないですが、私の西暦5500年の聖院大会議が、史実通りに切り上げろとの宣告です。そうでしょうね。私が宥和と足掻いたところで、歴史は多少のブレがあっても揺り返す事でしょう。ですが、私の願いで一人いや百人は救えるかもしれません。それは果たして悪い事なのでしょうか。私は今でも未来への帰還を躊躇しています」

「いや、山南のお人柄だったら、この先の戦いを一つや二つ軽く食い止められるよ。でもさ、そっちの時代の聖院大会議って、実際政策悪人が跋扈しちゃってるでしょう。悪い事言わないから、帰還に従った方が良いよ。と言っても、西暦7000年には聖院大会議は解体しちゃうんだけどね」

「そうなりますか。そうとは言え、未来に帰っても、希少塩確保問題が有り、戦争は永遠の問題です。過去の幾つか裁断と配慮で、正せるきっかけが生まれると思いませんか」

「それさ、そちらの聖院大会議の幾人は知ってると思うけど、私の西暦11000年には地球が完全淡水化しちゃうんだけどね。地球相手にたった一人の人間がなんて、どういうヒューマニズムでも難しいよ。山南さ、土方の立場的にも、山南を見逃すのはどうも難しいんだよ。でもさ、このまま新選組に連れて帰ると切腹だろうから、ここでロハにしないかな」

「困りましたね。屍をただ重ねる時代を見捨てろと」

「山南さ、そんなヒューマニズムはさ、私は人型演算生体であっても分かるんだけど。まずはこう汲み取って、自分を大切にしようよ」

「ですが、追っ手が、沖田総司である以上、不調法は許されません」

「そういうと思ったよ。ここに来る途中で、冬カボチャ買ったから、これ山南の頭にして持って帰る。それで良いよね」

「それは勿体無いから、後に美味しく食べるのですね」

「そういう、さり気ないジョークを言えるのに、はあか。まあ新選組も生臭くなって行くのも、まあだよね」


 山南敬介はタイムループで元の時代西暦5500年に戻った。

 新撰組では、床に伏せる沖田総司が泣く泣く、兄上分の山南敬介の打ち取ったとの、男の美談として、そっと置かれた。



 巡り、幕府は急先鋒の改革論者に押されるがままに、選りに選っての悪手を摑まされて行く。

 その時点では最適であっても、幕僚を多く抱えすぎた大組織故に、舵取りはただ重く、変節と共に意思の対立が切り刻まれる。それは新撰組もお構いなしに、江戸幕府の寡勢に成り下がり、東北での戊辰戦争で大きな岐路に立つ。


 新選組局長土方歳三の武士として命果てる迄の主戦論と、新撰組局長代理齋藤一の会津終結論で、意見が大きく割れる。

 何れも土方歳三の去就に纏わる事だが。私の主張は、ここ迄戦線を引っ張った以上、近藤勇同様に打ち首にされるのは確実と。齋藤一は、豊作地帯会津を作法良く譲歩すれば、幕府と維新派交換条件を交わし、不敵な不殺を解く。

 そう、いつもは右も左も押し並べて重んじる齋藤が、どうしても譲らないものだから、私達は止む無しに至り、会津城外郭で、同時にマシナリィを呼び出し、後に引けない戦いに至る。


 凄まじい駆動音が鬩ぎ合い、対峙する。土方が遮二無二出ては御法度と叫ぶも、私のマニューバー・アルフィーと、齋藤一のグランギニョール・セカンドナンバーの巨人が、がっぷり四つに組む。


 その見た目は、齋藤が西洋剣士絡繰機械の剥き身、私が巨大甲冑武者と、その軋み渡る音で見守る会津陣営の味方は慄いている。江戸時代でも有り、ここは戦乱に明け暮れる事から土地神様がとのそれで、地域性特有のバイアスに引き込まれて、ややセーフに心から委ねる。


 私は時間管理局の仲間から漏れ聞いている。特に西暦6300年の連中はロストテクノロジーを多く抱えており、争いは一切避けろと。

 齋藤一のグランギニョールは、スキャンの通り、全てが真鉄で出来ており、飛行形態への可変機能も見受けられ、搭乗席も完全にシールドされている。

 成る程、これなら制約も無く生身で時間旅行出来る。何よりは筋肉に相当するものが製鋼複層バネで出来ており、そっちの出力が段違いの上過ぎて、私のマニューバーは、今丘陵地隊を下にと押されるまくる。


 そう私のマニューバーは時間旅行においては最長の1万2000年から渡来するも、全ての技術の頂点では無い。珪素素材で屈強に見えるが、今もこう押される。

 この実戦、西暦6300年代の輩はかなり好戦的で、ここ迄デバイス技術の頂点に行き着いたのかと、ただ歯噛みしか無い。そのお陰と察するしかないが、超長未来の聖院では、西暦6300年代は強い禁忌として、奥の院の書物にしか無く、私はセンスだけで去なそうとするのが精一杯だ。

 こんな事になるならオープンにしろよも、齋藤一のフィジカルがそのままグランギニョール・セカンドナンバーに反映されては、蹴り飛ばされ、丘陵を転げ落ちて行く。鈍い轟音に、山体崩壊音で、会津兵がより慄く。


 まずい、質量が乗りすぎて、ゴーストで済まなくなっている。私はここで金糸を放射状に開き、各人の思考と直接繋がる。


(土地神様がお怒りだ、会津ももうお終いだ)

(どちらのダイダラッボチ様が、会津を守って下さる)

(子供は見たらいけない、来ないで、)

(砲撃用意、足を砕け、いいから、)

(総司、俺を乗せろ、叩っ斬ってやる)


 土方、やなこった。今乗せたら、土方のエーテル全開で、アルフィーが本気で機能不全になる。

 と言っても、グランギニョール・セカンドナンバーが本気なら、アルフィーのコアを確実に貫いている筈。

 敢えて土方を乗せて、天秤に計る選択。

 いや、グランギニョール・セカンドナンバーにも金糸を結んだが、思考がカットされている。何がしたい齋藤一。というか、探信音五重に放っても、固すぎる。何処までスタンドアローンの戦闘兵器なんだよ、おい。


 唸る関節のブーム音。センス、覆いに来る。私は咄嗟に重珪素刀で受け身を持つと、齋藤一のグランギニョール・セカンドナンバーは背中に背負った大西洋大剣を振り抜き、重珪素刀を木っ端微塵にする。

 凄まじい剣圧で、マニューバー・アルフィーと機関の1/3警報信号が届く。まずい、これでは即退却のプログラムが勝手に発動する。このまま戦って、珪素造形のフレキシブルコアの何処かでも破砕されたら、再生機能不備で超長未来に帰投出来なくなる。


 後悔、いや、この連戦で連れ添う中で、土方の事になるとこいつ斎藤一は、土方のお気に召すままと肩を持ってしまう。それがこんな成り行き。私はああそうかいと、どうしても感情的になる。その感情って、一体何なんだよ。土方は私だけを見ていればは、土台無理な話か、くそ。


 まずは追い詰められた失態だ。次のグランギニョール・セカンドナンバーの繰り出しで一刀両断かと思った時、グランギニョール・セカンドナンバーのその細身にどこに力があるのかと、重装備のマニューバ・アルフィーが上に蹴りあげられ、器用に立ち姿へと起こさせる。

 そして間合いを為すがままに図られる。間も無く金糸を伝った秘匿回線のパルスが届く。


「沖田、これは土方本人にも言うな。あいつの生き様全てに、未来がより良く繋がる。この先の史実では行方不明の推定死亡だが、それはままならぬ。ここで体裁良く投降させて、大いに子孫を繁栄させる。そして分かるな、沖田総司の、その身体が珪素なら、女性としての引き際も肝心だ」

「付け入るんじゃないよ!」


 同時に、互いの巨体同士の均衡の間合いが消え去り、私のアルフィーは渾身の右パイルドライバーストレートをお見舞いするも、齋藤一のグランギニョール・セカンドナンバーの感触は無く残影を撃ち抜いたのみだ。そんな事って。

 そのグランギニョール本体は既に丘陵の上におり、神速を使えるマシナリィかと歯噛みした。金糸の秘匿回線のパルスがまたも。


「どうだ分かっただろう。実力は互いにスキルスキャン出来た筈だから、勝った負けたの野暮は言えん。いや、そうだな、止む得ないか。沖田、その持てる力で、あの土方の側にいつ迄も付き添ってやれ」

「最後に、言わすかよ!」


 金糸を伝って、私達を見つめる皆の、嗚咽混じりの恐怖感が伝わる。訳も無い、巨人同士の格闘戦なんて、遥か遠過ぎる未来でも経験も伝聞も数例だ。撤退。そして応。

 かくして東北の巨人二体は、シーカーモードで月夜の中に溶け消えた。


 その翌日から、新撰組は最終地箱館と由来会津にそれぞれ志願という形で綺麗に別れた。共に戦う意義は同格と、誓いの盃を交わし、最後は言わぬ別れを丁寧に置いた。あいつ齋藤一は何を悟ったか、私が土方の側にいると、頬が緩む。お好きにしなさいだ。




 それから土方と私のいる箱館新撰組転戦し、空白地帯になった箱館に拠点を移した。

 榎本武揚総裁はただ宥和的で、蝦夷共和国を認めさせる為にもイギリスとフランスに根回しをしたが、幾度と無く維新に破却された。

 たかが蝦夷の割拠地だろうも。土方は将来性を鑑みると故に蝦夷だと。ロシアを味方に引き込むと、駆け引きは大きいと語る。まあ土方に、ロシアの変節幾多とはの史実を諭そうも、でもな睡蓮とはの長い推論になるので、そうかなに止めている。


 そして維新は、その破竹の北上の勢いから函館山を奪取した。深い朝靄の中、土方はいの一番要衝に向かうべく軍をまとめた。選りに選って、ここも正史かで、私沖田睡蓮は従軍看護婦として、やっと土方に同行を認められた。


 何よりは、拠点中の拠点砦弁天台場を奪還すべく、勝手知ったる裏道を抜けながら、行けると踏んだ矢先に、乾いた銃声が響き連なった。


 先頭の土方がよろけ、私が駆け寄ると、箱館新撰組土方歳三のどうしても自慢の西洋スーツの左肺から血が溢れる。

 おい、お前が何で態々流れ弾に当たる。剣術より近代戦術と言っておきながらの不始末がこれかよ。

 私は、土方の出血止まらずの弾痕付近を触診した。鉛玉は貫通している。この弾痕なら臓器にも当たらず、骨も砕かずだが、この出血では大動脈を切られている。

 ここで手術か。いや連れて来た手勢が混乱していて、どうしても胸をメスで開ける場所も無い。自軍に何度も落ち着けと言うが、足並みは乱れる。

 それならば。私は、土方の口から、今も夥しく流れる血を顧みず、口付けをした。自然と泣けて来た。

 人型演算生体のマニュピュレータには、愛と呼ばれる感情は残念ながら無いと、聖院からも優しく諭されるも、それは違ったらしい。

 この昂ぶる人間らしき揺れ幅、これなら別れの口付けでも良いと思ったが、私は惜しみなく医療手術珪素組織を口を通じて注ぎ込み、その出血量から塞がって行く感触を得て、そして土方の弾痕塞がった。


 あとは輸血だが、医療用輸血液はマシナリィのマニューバー・アルフィーの中にストックしている。

 そして誰憚らずアルフィーと叫ぶと、上空からシーカーモードを解除し、重装備プランβを施した巨大甲冑武者のマシナリィのマニューバー・アルフィーが現れる。

 マニューバー・アルフィーのその大振りの異質さから、拠点砦弁天台場より只管弾丸を浴び、仕舞いには大砲の弾も飛び交う。さすがは中核がロシア軍艦故に激しいか。

 ただ、奇襲兵の砲弾の操練が計算に慣れていない為に、狙いは明後日に飛ぶ。それでも万が一の至近弾は、アルフィーのバリアであるロゴスで、私達を守り切る。

 そうなのだ。史実の土方歳三の去就は何の事は無い、付き合いの深い私歌姫が連れ去る事になる。


「土方さ、武士としての役割と素養は、この箱館迄で十分に発揮されただろう。もう武士はお終いにしようよ。それで、何処に行きたい」

「ああ、大別嬪さんのいるところ。ただ、天国は勘弁してくれ。可愛いらしい天使達に、こっ酷く怒られて来た」

「それかよ、致死ぎりぎりで言うな。そもそも、阿保じゃ無い、何んだよそれ、大のつく別嬪って、なあ、」


 私の涙が滴り、一滴二滴いや数え切れぬ程に、土方の頬を濡らす。もっと愛情のある言の葉を言いそうだったが、こいつ土方、何処までも憎たらしいが募り、意識やっとの土方の太腿をつねり続ける。


 そして、砲火が巨大甲冑武者に何故効かぬか狼狽している。弁天台場が臆した機微で、アルフィーの右手が優しく私達を掬い、立ち上がる。

 おおさ土方。存分に条件を満たした所に連れて行ってやるから、感極まって吠えずらかくなよ。


 爆炎とまだ朝靄の続く中で、私達は蝦夷の函館から姿を消した。

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