睡蓮と隼人
判家悠久
第1話 精査
1863年。徳川家の将軍家茂の上洛につき、その全てを警護しようと集められたのが浪士組になる。出立は七番隊迄で帳面では総勢234名となっているが、実際は約1200名迄が犇めき合い。壮絶な振い落としを掛けた。
何故、ここ迄集まざる得なかったか。これは時間旅行の垂直時間軸の節目であり、時間旅行のデバイスを持つ何れの時代も、ここを逃すと2回目は1万年後になる為、出発地点江戸へと、飛び越えやって来た。
浪士組運営としては、怪しい輩を弾く為に、苦肉の策の急務三策で、精鋭が揃う筈だった。
しかし、時間旅行者の多くは、その埋め込みデバイスとサイバネスティックで、この時代の志士を弾き飛ばし、体躯優勢になっていた。
そう西暦4500年のサイバネスティックブームの時間旅行者は、私の西暦1万2000年の時間管理局では、甚だ大迷惑の分類で、大量に紛れ込むだろうと、大監察として私歌姫が急遽派遣された。
とは言え、たった一人の少数精鋭で有り、現地協力者は必要だ。私は率直に、後に直臣になる新撰組の重鎮に接触し、素直に時間旅行者による歴史改変がおきかねないと、丁寧に説明した。その流れから、ひょっとしたら徳川幕府が前倒しで消滅するかもと、懇切丁寧に話した。
「歌姫よ、徳川の大事、そんな事は分かってるんだよ。如何に義に殉じて、武士として誇りを示せるかが、どの時代になっても、正義とは何ぞと留まる諸兄がいるんじゃないのか。誰が彼とか、規律さえ守れば、別に構わんよ」
「土方さ、まあね、言っちゃおうか。殉じるのそれにはあなたも含まれるんだよ。この時代の価値観では、誠こそ大人だろうけど、まだあなた達は若いんだよ、何か凄く勿体無い。いいかな、大凡の物事は、話し合いの呼びかけの多さと、金品のより多さで軟化する。もうちょっとさ、頭を使いなよ」
「故にだ、俺達も散々折り合いは着けてきた。それでも避けられない。その一時解答を察して止まないから、より義をの時間旅行者が大挙しているんだろう。俺達もそれ程愚かでは無い。その志が優秀な奴だけ拾う。決して、最悪の歴史にはしない」
「土方も頭が回るな。私の話だけで、歴史改変を理解か。ただな、規律のそれもそこそこにな。こんな人数いるなら、時間旅行で持って来た武器で暴れては駆逐して、血を流し過ぎては、生まれる筈の生命が途絶え、未来に悪影響与えるからな。そうとは言え、この大人数、どうしても歴史改変だよな。まあ、今、ここが分岐点だね」
「度胸は買おう。さてだ、ここ最近、知ったか振りが多いな。歌姫さんよ。女子というのはどうしても心配性かい」
座位のままで、鍔のカチャリの音と共に、土方が上段から刀、和泉守兼定が迫る。でしょうね、しかない。私はこの日の為に、西暦1万2000年の世界で、ブレインメモリに日々、聖院の秘書である剣術を蓄積して来た詰め込んできた。私も長い剃刀を振るかの鮮やかさで抜刀し、正確無比に西洋突きで、私達の完全間合いを保った。
そのまま合間見え、穏やかな時間が流れる。
「賢明だ。その手で人を斬った事は無いが、刃の強烈さを知っている。歌姫よ、一体何人と戦った」
「さあね、500年戦争に途中参加して、戦線はそこそこ。そもそも私を人間扱いしてるけど、私は珪素組織の人型演算生体にしてマニュピュレータと呼ばれる準生命体さ。超長時間の時間往来では、人間の生身の身体が干からびちゃうから、まあだよね。やたら多い西暦4500年のサイバネスティックブームの連中は人体改造してるから、1割の生身でも辛うじて来れるのが、ほとほとだよ。何処かで聖院がご裁断下されば良いのだけど。もはや、この垂直時間軸の歴史は、未来人の思惑が介入してこそもあるしな。まあ、無理をさせないだけが時間管理局の大目付だからさ」
「話はやっと半分しか分からないが、組織とはそういうものだ。大人の分別大いに結構。歌姫改め沖田総司、浪士組の帯同を推挙しておく。忍んで女性は軽く20人はいるが、その性格そのままに開放的になるなよ。道中夜鷹に金を費やせる程の男子はいない。襲う襲われるの規律を乱す事は、決して罷りならんからな」
「待てよ、土方、私が沖田総司って。総司は、八王子の同郷でしょう。名前が被っては歴史改変がね、」
「いいか、沖田総司という洒落た奴なんていない。歌姫を見て、その響き、そのまま俺が今名付けた。何なら沖田睡蓮にするか、俳人でもあるまい。これは俺なりの仁を通させて貰う。そのまま貰っておけ」
この席上の、近藤勇は考え性だが、土方歳三は頭の切り替えが早い。
それからの浪士組の振い落としは、実践として刀をそのまま繰り、未来人のサイバネスティックが奮う腕を凪落とす。本物の武士とはレイコンマレイ1秒の電子伝達を、本能で見切れるらしい。
そしてその無様を見て、西洋カラクリとは、夷狄寄りか、とっと出て行けと、西暦4500年のサイバネスティックブームの連中は全て排除した。
それでも未来人は残っているが、見た目がキッチュな西暦6300年の植民惑星開拓ブームのカウボーイスタイルの一人以外は、まあ砕けて手懐けるかだった。
果たして、いざ上洛へと向かう。隊列に加わった未来人の大凡は、先々の新撰組に心を馳せて意気揚々だ。その中には未来人の女性もいたが、有り勝ちな歴史人物グルーピーの快楽主義者では無かった。
ただ、浪士組いずれも、野性味と清廉さの魅力が同居しており、本能的な女性がつい浮かんでは、その高き志があっても、逆らえず色事に傾倒して行った。
土方も若いから、特に思想派のかなり手堅い未来人女性を手篭めにしては規律違反として、数日後には放免している。
知ってて本当酷いな、土方にもなる。この先戦場で女性を庇って死んでは、その浪士が守るべき最低1000人を損なって良いのかで、容赦無く女性隊員は振り落とす方針らしい。
それならば、私とは情交しないのかになったが、弟分と契っては己の仁を損なうと、一端の事を言う。まあそれはそうかと、礼儀として襟元だけはきつめに閉めておく様にはした。
そして上洛し、浪士組は何度か名前を変え、近藤勇派閥は新撰組になった。
その京都の治安と言うと。未来人の歴史マニアは、全て新撰組に入りたい訳では無い。
維新に入って、逃走に明け暮れ戦略を構築したがる知能犯もいる。
後の歴史では、維新は大きなる改革派だが、その過程では単なるテロリストなので、時々の法整備を鑑みるとどうしても駆逐しないといけない。従って、私も新撰組の構成員ならば、維新派は決して容赦はしない。
そんな中で、私は西暦3300年からやって来た監察方山﨑丞と情報を交わす。山崎は渡航西暦が一番若いので、史実忠実派の堅物だ。
史実では分かっていても、池田屋集結の確証は得がたく、地道過ぎる調査の積み重ねで池田屋騒動を無事収めた。
新撰組はその勇名を馳せては、有象無象の隊士が増えて行く中で、あいつは現代人、あいつは左腕にタイムルーパーあるから未来人と、篩い分ける。
それでつい齋藤一の話になるが、情報を積み重ねる。
未来人の確証たる証拠が、可視不可視でも見当たらない。スタイリングは時代にそぐわぬ奇抜だが、やたら剣術が冴えるので、未来人現代人どっちなのかと、どうしても深い疑念のままだ。
ただ私歌姫の私見としては、過去西暦6000年以降ともなると、何らデバイスが無いのに時間跳躍して、逃した報告も上がっている。確かに、この西暦から初期マシナリィがロールアウトしているので、それをメインフレームに添え、齋藤一として、新撰組に随伴している可能性はかなり高いと。
それでどうするかは、もし私沖田と齋藤が、それぞれ組長の直接対決をしたら、責任を重んじる土方が、真っ先に自らの局中法度で切腹するだろうだ。
土方だけはまずいと、齋藤一とは尚も適度な距離を取る。齋藤は繊細ではあるが、ブチギレるタイプでは無いので、そうそうの談義で会合は着地させる。
そして日を巡り、あいつの話題になる。危機管理の塊坂本龍馬。
戸籍から死に様迄、どう考えても現代人では無い、未来人の戸籍購買者のそれでしか無かった。
山崎は、どうせ暗殺されるのだから放っておきましょうの史実論法史観。私沖田総司としては、発想が江戸時代に相応しくない改革論者。ただ、より多くの民衆を煽るとどえらい目に合うと、自然と警戒を強める。
その坂本龍馬、阿保は阿保の道理で、この新撰組の詰所の壬生屯所に、然もありなんの隊士服で堂々と昼寝をしやがる。
こんな状況がどうしてなのか、私にはさっぱり分からない。
ただ新撰組はブレイクしており、現地人に関わらず、適時に未来人が紛れ込む。その常時は、超長距離から登場して来た光学迷彩のシーカーモード中のマシナリィにも演算させるが、タイムルーパーを可視化するのがそこそこだ。
そこで稽古と称し、力量試しとして、新撰組の名うてが、未来人のサイバネスティックの身体をを容赦無く膾切りにする。
全く、日々の警邏もしつつ粛清など、京都守護職松平容保様にも報告するも。実力第一主義と、明らかに気に入っている齋藤一を擁護する向きだ。さてどう絆したか、会話の節々で腕の立つ未来人もようこそになっている。
そんな事を思い起こす程に、苛立ちも沸き立っては、無作法に寝そべる偽隊士才谷梅太郎事坂本龍馬を、大きく蹴り上げ、叩き起こす。
私と山崎は、才谷梅太郎を詮議室に招き、本性坂本龍馬がどう言う魂胆だと詰め寄る。
すると、もう土佐藩脱藩したし、文化人で有り商人でもあるので、入隊に何の垣根があろうか。何より今は金子も無く、短期間で稼げる新撰組に入隊したとの事。
ここでこっ酷く、新撰組の有りのままを伝えた。報奨金は確かにあるが、警邏から派生した大捕物でも懸賞金は激しく出ない。そもそも報奨金はやりくり必死な会津藩からの出費で有り。ここを勘違いする輩が多すぎて、羽目を外しては借金を踏み倒し、新撰組いや会津藩に泥を塗る輩が絶えない。
こいつ坂本本気かで、シーカーモード中のマシナリィから金糸を伸ばし、私にも結線し、思考を読み取る。
すると坂本の思考の分岐は凄まじく、最先端時代のデバイス張りに無制限に分岐している。いや瞠目すべきは、瞬時にこの中から適切に回答を見つけている。調子の良い奴、それはそこ迄頭が回れば最適化するだろう。
念の為全身トレースするも、生体電流で流れるデバイスは埋め込まれていない。どんな頭脳なんだ、ほとほと溜め息しかない。
そう、坂本龍馬がこの時代に生まれたのが実に不憫だ。せめて出版書籍が全国に配本される時代ならば、良いベストセラー作家になれたものを。またそこから待望されて、参政権で議員になれたものを、実に早過ぎた人材だ。
検証として、坂本龍馬は正しく本能で躍動する、物騒な江戸末期の輩だ。それ故に、全方位の保守層、そしてリベラルな未来人にとっては大きなしこりになる。時代をたった一人で変えられては、そのあとの政権運営には暗雲しかない。
どうするんだよ私沖田総司。
くっつ、こんな時でも土方歳三は連日幕閣会議に召集されて、判断がどうにも下せない。
全く土方、お前が幕閣会議に呼ばれるのは現場の意見を聞くとのお飾りなんだよ。今や人気急上昇の新撰組も同意し、幕府に準じているの既成事実が欲しいだけなのに、全く。
こいつ、坂本龍馬、いっそ仲間にするか。そもそもこの先大政奉還させるんだったら、京都守護職松平容保を後ろ盾にした方が、十分に睨みは存分に効くだ。
いや、それはいなたいノイズが走る。と言うべきかこいつ坂本龍馬はだ。
ますます舌は爽やかになり、あの新撰組ならば、西方の綺麗所が集まる。百歩譲って、それで職務に邁進するなら、ああ認めるさ。ただ、私の顎のラインを見据えて女性剣士と看破している。それとなく珪素造形で上下左右の奥歯太くするか。いや。
「一昨日来やがれ、この政治家もどき」
坂本龍馬、そいつを蹴り上げた筈が、右足をむんずと掴まれた。こいつ見える口で、北辰一刀流もその手順か。
そして、お茶目たっぷりなのか余裕なのか、私の右足裏を坂本龍馬がペロリと舐める。仰け反り、ヒーだ。こいつ女の扱いが段違い過ぎる。
堪らず山﨑丞が、坂本龍馬を中庭に放り投げ、鍔を鳴らした所で、私が制して、お開き、釈面を言い渡す。
この坂本龍馬の余裕、トレースせずとも分かる。懐に拳銃忍ばせている。仮に私に弾が命中しても、珪素組織の身体に何ら損傷は無い。
問題は新撰組本詰所の壬生屯所で、一番隊組長沖田総司が急襲された方が、行く行くの幕府の求心力が下がる。
坂本龍馬がどちらの陣営に付こうが、壬生屯所に転がり上がった段階で、値踏みした坂本龍馬の大勝利だった。
仲間でも躊躇い無しに銃口を向けるセンスは、意見が真っ二つになるだろう。仮にの同輩。万が一土方歳三を消されたら、歴史が仰向けに倒れる。私は堅実に坂本龍馬を弾いた。
坂本龍馬さ、それでも、先々暗殺されるって、どう言うこった。
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