第4話 ケツ裂き地獄

「……ふう、これで最後か」


 どさり、と泡を吹いている暴漢をプレスから解放した俺は、周囲を見やってそう独りごちる。


 すると、タイミングよくぴのこが俺の肩に乗って言った。


「いや、何してるんですかあなたは……」


「無論、処刑だが?」


「処刑って……。これどう見てもただの強姦ですよね? え、本当に何やってるんですか……?」


 素でどん引きしている様子のぴのこを、俺は「まあ落ち着け」と宥めてから言う。


「確かに俺はこいつら全員にプレスをした。だが別段やつらの肉体に何かをしたわけではない。よく見てみろ。誰一人としてズボンを脱がしてはいないだろう? 穴も一切開けてはおらぬ」


「あ、本当だ……。え、じゃああの悲鳴は一体なんだったんですか?」


「もちろんやつらが脳内で俺の巨根にケツを裂かれた際の悲鳴だ。言わば〝幻術〟よ」


「幻術……。まさかスキルを?」


「ああ。種付けおじさんたる俺の誇る幻術スキル――《ケツ地獄催眠姦じごくさいみんかん》だ」


「なんて聞くに堪えない名前……」


「まあ今の俺にはまだ人を殺すことはできないからな。ならば永劫に続くケツ裂き地獄の中で、自分が犯される恐怖におののきながらモンスターどもにでも食い散らかされればよいと考えたわけだよ」


「うわぁ……。意外とエグいことを考えますね……」


 再度引いている様子のぴのこに、俺は馬車の扉付近からこちらの様子を窺っている二人を見やって言ったのだった。


「そうだな。確かに俺のやったことはエグいことなのだろう。だが彼女たちの受けた苦しみを考えれば大したことでもあるまいよ」


「……まあ、そうですね」


「ああ。ちなみにレベルが上がってケツで天国を見られる幻術スキルも覚えたんだがお一つどうだ?」


「いや、いりませんよそんなもの!?」


      ◇


 ともあれ、メイド服の女性ことラティアさんと少女――ミモザお嬢さまに丁寧にお礼を告げられた俺は、彼女たちの屋敷があるという近くの町まで護衛を引き受けることになったのだが、その前に殺されてしまった兵士たちをどうしようかと悩んでいた。


 後ほどお嬢さまの家の者たちが遺体を回収しに来るとは言うが、こんなところに放置しておくのも可哀想だからな。


 埋めておいてもモンスターに荒らされそうだし。


 なのでどうにかならないものかとぴのこに相談したのである。


「そういうことでしたら〝アイテムボックス〟を使用するのはどうでしょうか?」


「ほう? 使えるのか?」


「ええ。命あるものを収納することはできませんが、ご遺体であれば素材類と同じ扱いになりますからね。収納できるはずです。もちろんその時の状態が保持されますので、腐敗などが進む心配もありません」


「なるほど、わかった」


 そう頷いた俺に、「あ、それと」とぴのこが人差し指(?)を立てて忠告する。


「アイテムボックスを使えるのはあなただけなので、適当に誤魔化せるようにしておいてくださいね」


「ああ、了解だ」


 再度頷き、俺は教えられた手順でアイテムボックスに亡骸を収納していく。


 と言っても、意志を持って対象に触れるだけなのだが。


「よし、これで全員だな。屋敷に着き次第転移させるので安心してくれ」


「本当に何から何までありがとうございます、ゲンジさま。彼らはお嬢さまとも親交がありましたので、後ほど皆で丁重に弔って差し上げようと思います」


「ああ、そうしてくれると嬉しい。彼らの尊い犠牲があったからこそ、あなたたちの命があると言っても過言ではないからな」


「はい、心得ております」


「うむ。では参ろうか。俺が馬を引いて歩くゆえ、あなたはお嬢さまの側にでもいてやってくれ。その方が彼女も安心するだろうしな。なんならぴのこを連れていっても構わん」


「承知いたしました。お心遣い本当に感謝いたします」


      ◇


 そうして俺たちが辿り着いたのは、〝ルーファ〟というそこそこのでかさを誇る町だった。


 モンスターなどの侵入を防ぐためか、周囲をぐるりと高い外壁に囲まれており、入り口には全身を鎧兜で固めた兵士たちの姿もあった。


 ラティアさんが事情を説明してくれたおかげですんなりと中に入ることもでき、俺たちは目的の屋敷前へと到着したのだが、


「ふむ、でかいな」


「でかいですね」


 そこに聳えていたのは宮殿かというくらいのでかさを誇るお屋敷だった。


 というか、ほぼ宮殿である。


 少しここで待っていてほしいとのことだったので、俺たちは玄関前でほかのメイドさんたちに収納しておいた遺体を引き渡しながら時間を潰す。


「もしかしてお嬢さまはお嬢さまではなくお姫さまだったのか?」


「まあおじさまは初耳だと思いますが、馬車の中で聞いたお話だとなんちゃら辺境伯のご令嬢らしいですからね。さすがにお姫さまとまではいきませんが、それでもそこそこ高い爵位のお嬢さまなのではないかなと」


「なるほど」


 ふーむ、と改めて屋敷を見上げていると、ラティアさん(きちんと着替え済み)が戻ってきて言った。


「お待たせして申し訳ございません。旦那さまが是非お会いになりたいとのことですので、私のあとについてきてくださいませ」


「ああ、承知した」


 頷き、俺たちは言われたとおり彼女のあとをついていく。


 これだけ広いと掃除も大変だろうなぁなどと考えている間に応接室についたらしい。


 ラティアさんがノックをすると、中から低めの男性の声が返ってきた。



『――入れ』



「失礼します」


 そうして俺たちの前に姿を現したのは、俺よりも少し上くらいであろうダンディなおじさまだった。


 お髭の素敵な気品に溢れる男性である。


「あらやだイケオジ……(ぽっ)」


「……(照)」


「いや、あなたじゃないですよ……。なんでこの流れで自分だと思うんですか……」

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