第3話 暴漢どもに天誅を

 一体何ごとかと声のした方へ駆けてみれば、そこでは今まさに二人の女性が暴漢たちに襲われている最中だった。


 一人はドレスを着た十代半ばくらいの少女で、もう一人はメイド服を着た二十代前半くらいの女性である。


 近くに豪奢な装飾の馬車があるところを見る限り、恐らくはどこかの令嬢が移動中に襲われたのだろう。


 一応護衛の兵士もついていたようだが、あの様子では全員殺されてしまったようだ。


「おら、大人しくしろや!」


「い、いや!? やめてください!? いやあああああああああああああああああっ!?」


 女性を四人がかりで押さえつけ、リーダーっぽい無精髭の男が正面から彼女の服を強引に引き裂く。


「ラティアああああああああああああっ!?」


 少女の方も三人の男に押さえつけられており、女性に対して泣きながら手を伸ばし続けていた。


 そんな彼女たちの姿を隠れて見やりながら、俺は呆れたように言った。


「やれやれ、どこの世界もクズはクズだな」


「いや、種付けうんぬん言ってるあなたも似たようなものでしょうに……」


「ふむ。あなたは何か勘違いしているようだが、俺は別に無理矢理種付けするつもりはないぞ? あくまで同意の上でのプレスだ。でなければ俺の悲願は叶わんからな」


「悲願……。〝たくさんの優しい人たちに囲まれたい〟というやつですか?」


「ああ。俺は俺を慕ってくれる優しい人たちに囲まれて幸せに暮らしたいだけだ。だから俺は女性を無理矢理犯すような真似はしない。確かに種付けおじさんの多くはレイプ魔みたいなものだが、俺はやつらとは違う。言わば〝光の種付けおじさん〟よ」


「なんですかそのまったく信用できそうにない区分けは……」


 至極胡乱そうな顔をするぴのこだが、今は彼女と悠長に喋っている場合ではない。


「さて、お喋りは終わりだ。――《パネルマジック》」


 カッと俺の魔眼が男たちのステータスを露わにする。


 名前:ジャン

 レベル:5

 性別:男

 年齢:28歳

 種族:人間

 職業:戦士(盗賊)

 性歴:非童貞・純潔

 プレス:可

 種付け:不可


「ふむ、なるほど。やはりあの無精髭の男が一番レベルが高いようだな。しかし残念ながら種付けは不可らしい。ケツは純潔らしいがな」


「いや、そんなことまで分かるんですかそのスキル……。怖っ……。てか、〝パネルマジック〟って……」


「まあ〝真実を曝く〟という意味ではあながち間違ってはいまい。ちなみに自分のステータスを偽装できる上、女性だとスリーサイズとカップ数まで分かるぞ。あのメイドさんが〝E〟で少女は〝A〟だな」


「そうですか……。なんかもうどん引き以外の言葉が出てこないんですけど……」


「まあそう言ってくれるな。とにかく行くぞ。今は彼女たちを助けるのが先決だ」


「ええ、わかりました」


「よし」


 その瞬間、俺は身体強化系スキル――《動けるデブ》を発動させたのだった。


      ◇


「おいおい、結構いい乳してるじゃねげごあっ!?」


「「「「「「「「――っ!?」」」」」」」」


 とりあえずリーダーっぽい無精髭を全力で殴り飛ばす。


 なるほど、これが身体強化というやつか。


 恐ろしく身体が軽い上、全身に力という力が漲っている。


 まさに《動けるデブ》の名に相応しい素晴らしいスキルだ。


「な、なんだてめえぶわっ!?」


「がっ!?」


「ぐげっ!?」


 次いで女性を押さえつけていた三人もまとめて《天牙》でぶっ飛ばし、女性をお姫さま抱っこして馬車の前まで飛ぶ。


「「「ぐわあっ!?」」」


 そして間髪を容れず少女の方の暴漢たちもぶっ飛ばした俺は、同様に彼女もお姫さま抱っこで馬車の前へと運んだ。


「ラティア!」


「お嬢さま!」


 ぎゅっと涙ながらに抱き合う二人の様子を微笑ましく思いつつ、俺はぴのこに言う。


「すまんが二人を馬車の中に避難させてやってくれないか? そしてできればカーテンを閉めてもらえると助かる。ここから先は婦女子に見せるようなものではないからな」


「分かりました。でもその、大丈夫ですか……?」


 どこか悲痛そうな表情のぴのこに、俺はふっと笑みを浮かべて言った。


「ああ、問題はない。この世界で生きていくと決めた以上、避けられぬ道だからな」


「……分かりました。ではご武運を」


「ああ。感謝する」


 そう礼を告げた後、ぴのこが二人を馬車の中へと連れていく。


 それを確認した俺は、《天牙》をドアの前の地面に突き立ててこう告げたのだった。


「さあ、処刑の時間だ」


      ◇


 ゲンジの言いつけ通りカーテンを閉めたぴのこに、〝ラティア〟と呼ばれていたメイドの女性が少女を抱いたまま言った。


「あの、外の方はお一人で大丈夫なのですか……?」


「ええ、問題ありません。見た目こそちょっと頼りなさそうですが、あの人はあれで結構強いですから」


「そうですか……。ならよいのですが……」


 やはり見た目の安心感が伴っていないのだろう。


 女性は心配そうに少女の頭を撫で続けていた。


 だが心中穏やかでないのはぴのこも同じだった。


 何故なら今まさに外ではゲンジが〝殺人〟に手を染めているからだ。


 ゆえにぴのこは大丈夫かと問うたのである。


 一度も人を殺したことのないゲンジに〝人を殺すことができるのか?〟と。



『――ぎええええええええええええええええええええええええっっ!?』



 もっとも、あの様子であれば大丈夫だろう。


 多少トラウマになるかもしれないが、先ほどから暴漢どもの断末魔が次々に聞こえてきているし、いずれは慣れると思う。


 むしろこの二人のことを気遣う余裕すらあったくらいだ。


 彼の精神力は思ったよりも強いのかもしれない。


(うん、今はあの人を信じよう)


 そう頷きながら、ぴのこはカーテンの隙間から外の様子をそっと窺う。


 そこで彼女が目にしたのは、



『――孕めええええええっ! 孕めえええええええええええええっ!』



『んぎいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいっっ!?』


 暴漢相手に激しいプレスを決め込んでいるゲンジの姿だった。


「……」


 あれ、思ってたのと違うなぁ……。


 少しの間その光景を黄昏れたような眼差しで見据えた後、ぴのこはそっとカーテンを閉めたのだった。

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