第2話 異世界へ
というわけで、本当に剣と魔法の世界とやらに転生させられてしまったわけだが、
「ふえぇ~……。なんで私がこんな目にぃ~……」
よよよと小デブのひよこになった女神が人魚みたいな体勢ですすり泣く。
本来女神が転生者とともに来ることはないらしいのだが、彼女の上司にあたる神々がなんか面白そうだから記録とってきて的な感じで出向を命じたらしい。
で、女神としての力をほとんど封じられ、可愛いマスコットになってしまったというわけだ。
「大丈夫だ。今のあなたも十分可愛いぞ、ぴのこ」
「誰が〝ぴのこ〟ですか!? 私には〝ニケ〟という由緒正しき名前があるんです!?」
「ほう、神話に伝わる勝利の女神と同じ名だな。もしかしてあなたがその〝ニケ〟なのか?」
「い、いえ、それは別人というか、私は全然関係ないんですけど……」
「そうか。じゃあ〝ぴのこ〟でいいな」
「いや、なんでですか!? 〝ニケ〟だって言ってるでしょう!?」
いきり立って訂正してくる女神に、俺は腕を組んで言った。
「ふむ。だが今のあなたは女神ニケではなくただの太ったひよこだ。しかも自らの意思とは別の思惑で今この場にいる。であれば〝ぴのこ〟の方がよいのではないか? こう言ってはなんだが、せっかくの機会だからな。俺と同じく新しい生を楽しめばよいと思うのだ」
「……まあ確かにあなたの仰りたいことも分かりますけど……」
「だろう? たまには別人になって長い休暇を楽しむのもよいではないか。まあ女神であるあなたにとっては束の間かもしれないがな」
俺がそう笑いかけると、女神もまた薄らと微笑んで言った。
「そうですね。確かにこんな機会は滅多にありませんし、あなたの仰るとおり楽しんでみるのもいいかもしれません」
「ああ。それにな、女神ニケよ」
「?」
「〝ニケ〟のままだったらこの旅路の中であなたが本来の姿を取り戻した時に、『行くぞ、ぴのこ』『嫌……。今は〝ニケ〟って呼んで……あんっ♡』みたいなプレスができんだろう?」
「あの、その未来が絶対来ないよう今すぐ私を殺してもらっていいですか?」
「ふっ……」
「いや、なんですかその〝おませさんめ〟みたいな顔は……」
◇
「ともあれ、だ。俺のステータス画面を見てくれ、ぴのこ」
「あの、私まだぴのこ受け入れてないんですけど……」
ぶつくさ言いつつも、女神ことぴのこが俺の肩に飛び乗り、眼前に表示された半透明の画面を覗き見る。
名前:未設定
レベル:1
性別:男
年齢:36歳
種族:種付けおじさん
職業:種付けおじさん
文字通りこいつは俺のステータスが可視化されたもので、本人と女神のみ見ることができるという。
ページを横スクロールするとスキルや装備類、HPやMPなどの詳細なデータも見られるようだ。
「ここを見てくれ。俺の名前が〝未設定〟になっているのはどういうことなんだ?」
「いや、それよりも種族まで〝種付けおじさん〟になってるのは一体どういうことなんですか……。というか、〝職業:種付けおじさん〟って……」
「まあ生き様のようなものだからな。当然、種族であり、職業でもあろうよ」
「えぇ……」
どういうこと……、とどん引きしたように呟いた後、ぴのこは言った。
「……まあそれはそれとして、お名前に関しては一応転生後ですからね。皆さん新しくしたいだろうということで、その場で設定していただくことになっているんです。もちろん元のお名前がよければそちらでも構いませんよ」
「なるほど。ではせっかくだ。〝ゲンジ〟とでも名乗らせてもらおうか」
「あら、意外と普通のお名前ですね。何か由来でもあるんですか?」
「うむ。〝
「……すみません。聞いた私が馬鹿でした……」
がっくりと肩を落とすぴのこ。
「まあ落ち着け。あれは俺が二十代も半ばに差し掛かった頃の話だ。いつものようにエロゲーを満喫していた俺はあることに気づいてしまった」
「……あること? まさか登場人物のロリキャラを自分好みに育成したくなったんじゃないでしょうね?」
「いや、違う。〝義母〟だ」
「……義母?」
「そうだ。俺はいつの間にやら可愛いヒロインよりも先にエロい義母やヒロインの母親ばかりを攻略していることに気づいてしまったのだ……っ。思えばあの頃くらいから俺は人妻好きだったのかもしれん……」
「いや、知りませんよ……。てか、知ったこっちゃないですよ……。なんなんですかそのしょうもない告白は……」
本当に知ったこっちゃなさそうな顔をしていたので、俺はともあれと話を切り替える。
「その話はまた今度にしておこう。とにかくここでの俺は〝ゲンジ〟だ。〝種付けおじさん〟のゲンジ。ちなみに俺を呼ぶ時は〝おじさま〟と呼んでくれ。一度若い娘にそう呼ばれてみたかった」
「はいはい、分かりましたよ、おじさま。それでこれからどうするんですか?」
「うむ、とりあえず近くの町のギルドにでも行こうと思う。こういう時はまず冒険者登録から始めるのが鉄則――」
と。
「――きゃああああああああああああああああああああああああああああああああっっ!?」
「「――っ!?」」
ふいに女性の悲鳴らしき声が辺りに響き渡ったのだった。
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