第6話 何故そんな目を…?

「卒業生代表、ティレル・クアイエッセ」

今日は私たちが通うアシェンプテル学園の卒業式。

と言っても私の卒業じゃなくて1学年上のティレル様の卒業式で私は来年。

ラド様の兄、ティレル様は成績優秀者ということで現在答辞を行うところだ。


「校庭の桜、梅の木に蕾が出来、膨らみ始める季節になりました。

本日は私たちにこのような素晴らしい卒業式を開いていただきありがとうございます。

ご多用の中ご臨席いただきました多くのご来賓の皆様、先生方、保護者の皆様、王族、貴族の皆様、在校生の皆さん、卒業生代表の私から御礼申し上げます。この3年間、私たちは多くのことを学び、成長してきました。

この伝統ある本校の校門をくぐった瞬間の重圧な雰囲気は私をやる気にさせました。

この3年間私たちはこの本校で、相手を思いやる心と最後まで諦めずに進んでいく力、友を信じる心を手に入れることができました。

このアシェンプテル学園は今後、私たちが進む道に必ず生きることでしょう。

在校生の皆さんとは接点があまりありませんでした。

ですが、私たち卒業生は、在校生の皆さんのことを信じています。これからアシェンプテル学園の歴史を守り、受け継いでくれることを。

最後なりましたが、私たち卒業生、在校生たちの学校生活を支えてくださった全ての方々に改めて感謝を申し上げると共に、アシェンプテル学園の益々の発展を祈って、答辞と致します」


ティレル様がお辞儀をすると共に、場は拍手でいっぱいになった。

そして第176回卒業式が終了した。


「ティレル様、今日は愛想良く話してたね」

「今日は卒業式だからね。新聞記者も来てるし。そうじゃなかったらあんな笑顔は見せないわよ」

まぁ、こんなこと本人の前では言えないけど。

「誰の話をしてるんだ?ウィンド姉弟」

「わ!」

私とアインの後ろには先程笑顔で答辞をしていたティレル様がいた。さっきの話を聞かれたみたい。

「あら、ティレル様。卒業おめでとう御座います」

「話をすり替えるな」

やっぱり騙されてくれないか。私は少し不満な顔をした。

「エリーナ令嬢。ラドが呼んでる」

「ラド様が?」

「待っているから来てくれと言っていた」

珍しい。ラド様はいつも私の元に来ていたのに待っているから来てくれなんて……どうしたのかしら…

「分かりました。すぐに行きます。それでどこですか?」

「案内しよう」

「姉さん、僕も行きます」

「アインはここで待ってて」

アインは寂しい顔をして私を見た。

私はそんな弟を宥めるような声で言った。

「大丈夫。すぐ戻ってくるわ」

まだ寂しそうな顔をする弟を置いて、私とティレル様は、ラド様の元へ向かった。


アシェンプテリル学園は歴史ある学校ということから学校全体、特に庭が大きく、入学生は必ず2度3度道に迷ってしまうくらいだ。

学校の端から端に行くまでなら最大15分はかかるが上級生になる度に、生徒たちは近道を通って行くことがある。

「ティレル様。ラド様はどちらにいるのでしょうか。もう彼此20分はかかってると思いますが……」

3年もここにいたティレル様がこんなにかかるわけがない。しかもあの近道を使ってない。

「ティレル様。少し疲れてしまいました。そこのベンチで休んでも?」

「ああ、構わない」

私は近くにある、木で出来たベンチに座った。ティレル様も私の隣に座った。

「すまない。まだ道を覚えれてないんだ」

嘘。ティレル様は暗記をするのが得意。一度聞いたことはすぐに頭の中に記憶するほどの記憶力。

「いえ、私もまだ覚えきれていませんから」

私はティレル様に偽物の笑顔を見せた。

「それにしてもここは人気がないですね」

「そうだな。昼はここで過ごせばよかった…」

嘘。ティレル様は読書などでここをよく使っていたわ。何ならティレル様が教室にいない時は図書室かここを探せばいる。と言われるほど。

「そろそろ行こう。時間がない」

「何故です?時間ならまだありますよ。そんな急がなくても、私は逃げませんよ」

まだ昼だと言うのに太陽は雲に覆われて辺りは暗くなった。

葉と葉が掠れる音がした。

風が私とティレル様の間を通った。

いや、私とティレル様に変装している者の間を通った。のほうが当たっているだろう。

「貴方は、誰ですか?」

私が問いかけるとティレル様の目がどんどん変わる。いつもの綺麗な琥珀色が、暗くなり、まるで今の空模様のよう……

「……バレてましたか」

「当然よ。ティレル様は私のことを『令嬢』なんてつけたりしないわ」

そう答えると、彼は後ろを向き、ティレル様の顔をした覆面を取った。

「私もまだまだですね。では、今日は引き返すとしましょう」

「待ちなさい」

私は去ろうとしている彼を呼び止めた。

「さっきの問いがまだよ。貴方は、誰?」

彼は振り向き答えた。

「そうですね……Lとでも、呼んでください」

そう答えた時の彼の目は、今にも涙が溢れそうでとても…………………











悲しい目をしていた。


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