第146話 清華は意外と……

「上原様」

「はい……っ!」

 瀬川さんに呼ばれて、僕はハッとした。

 そ、そうだった。僕が瀬川さんを呼んだのに、肝心の瀬川さんをほったからかしにしてしまった。

 お、怒らせちゃったかな? これは、久々に勃たなくされてしまう危険が……!

 僕が身の危険を感じ、ダラダラと汗をかきながらギギギ……と、ゆっくり瀬川さんの方を見ると、なぜか瀬川さんはスマホを手に持っていて、手を中途半端な高さまで上げている。なんで?

「お嬢様の普段見られない表情をたくさん見られて大変眼福で僥倖なのですが、私に何か聞きたいことがあったのではないですか?」

「そ、そうなんですけど……え? 瀬川さん、もしかして清華を写真に収めようとしてました」

「はい」

 即答だった。

「か、加奈子さん……!」

「ですが、店内は撮影禁止というのを思い出してやむなく……」

 今度はしゅんとしてしまった。どうやら本気で残念がっているみたい。

「わ、わたくしのそのような写真は撮らなくていいんですよ加奈子さん!」

「撮影したあかつきには上原様にもお送りいたします」

「は、はい……」

 あれ? 瀬川さんが清華の言葉をスルーした。かなり珍しい。命令じゃなかったからかな?

 でも、清華の写真か……。ち、ちょっと欲しいな。あとで瀬川さんにお願いしてみようかな。

「……恭平さん。今、何をお考えなのですか?」

「え!?」

 清華を見ると、以前瑠美夏と車で帰るか帰らないかで話をした時、瑠美夏に向けていたジト~っとしたような目で僕を見ていた。

 清華にこんな目で見られるのははじめてだ。

「どうしてそのようなオーバーなリアクションをしてるのですか?」

「い、いや全然そんなことないよ! 清華の写真が欲しくて瀬川さんにお願いしようなんて…………あ」

 し、しまった……! 慌ててつい本音がもれてしまった。

 僕は咄嗟に俯いてしまった。

 清華に内緒で瀬川さんに頼もうとしていたから、それを知って清華に引かれるかもと思うと、背筋がゾクッとして頭が真っ白になる。

 でも自爆してしまった以上、謝って機嫌を直してもらうしかない。

「せ、清華……ごめ……え?」

 僕はおそるおそる顔を上げ、清華を見たんだけど、清華は目を見開いて、頬を真っ赤に染めて、じっと僕を見ていた。

 正直に言ってこの反応……清華は一体、僕が何を考えていると思ったのかな?

「その……ほ、本当ですか?」

「え?」

「本当に……わた、わたくしの写真が、欲しいだけなのですか?」

「本当だ……え?」

 ちょっと待って。なんか、さっきの清華の言葉に含みがなかった?

『だけ』って……僕がそれ以上のことを求めるとでも思ったのかな?

「あの、清華?」

「な、なんでしょう恭平さん……」

 なんだかさっきとは立場が逆転してるなぁ。

「僕が何を考えてると思ったの?」

「し、写真のことだとは思っていたのですが……」

「ですが?」

「うう~……や、やっぱり言えません!」

 清華は身体ごと後ろを向いてしまった。

 その際に髪が翻り、耳が見えたんだけど、その耳も真っ赤になっていた。

「せーかって、案外むっつりよね」

「る、瑠美夏さん!」

 気になるけど、これ以上聞いたらやぶ蛇になるし、瀬川さんのストップも入りかねないので、聞かないようにしよう。


 い、言えません。

 これは絶対に言えません!

 恭平さんがわたくしの写真を撮りたくて、撮影会的なことをしたいのではと思っていたなんて……。

 そしてその機にえっちなことをされてしまうのではと思ったなんて……。

 それが嫌ではないなんて……はしたないと思われてしまうので恭平さんにだけは知られたくありません!

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る