第145話 うみゃあ
「瀬川さん」
「? なんで瀬川さんを呼んでるのきょーへー? ここにはいな───」
「お呼びでしょうか上原様」
「うみゃあ!」
「ぴゃあ!」
僕が瀬川さんを呼んだら、本当にやってきた。
ショッピングモールの時は二秒で来たけど、今回は五秒くらいかかった。……五秒でも十分すぎるくらい早いけどね。
瀬川さんに聞きたいことがあって呼んだのに、今の僕の頭には別のことでいっぱいだった。それは───
「……うみゃあ?」
瑠美夏が先程発した言葉に、僕は驚きを隠せなかった。
だって、小さい頃から一緒にいたのに、そんな声聞いたことがなかったから……。
「ち、ちょっときょーへー! 今のは違うの……えっと、と、とにかく忘れてよ!」
「可愛い……」
あんな驚き方をするのも、今こうして顔を赤くして、僕に必死に忘れるよう訴えかけてるのもすごく可愛くて、僕の口から自然と出てしまった。
「か、可愛い!? え? 本当に……!?」
「う、うん……」
僕に可愛いと言われた瑠美夏と、思わず口にしたことに気づいた僕の顔は紅潮した。自分のはどのくらい紅潮してるのかはわからないけど、多分今の瑠美夏と同じくらい赤くなっているはずだ。
「き、恭平さん! わた、わたくしはどうでしたか!?」
「う、うん。もちろん清華も可愛かったよ」
というかそこまで慌てなくても……。
「そ、そうですか。あ、ありがとうございます……えへ~♡」
「っ!」
せ、清華の表情がめちゃくちゃへにゃっちゃった。
いつもの嬉しそうな表情が『へにゃ』っとするなら、今の清華は『へにゃへにゃ』だ。
でも、どうして二人ともいつもより顔が緩んじゃってるんだろう? なにか変わったやり取りあったっけ?
「きょーへーに可愛いって言ってもらえた……んふふ♪」
「恭平さんはご自分から滅多に言わないですもんね~♡」
な、なるほど……。だからこんなに嬉しそうにしているのか。
僕が二人に自分から可愛いって言ったこと……確かにないかも。
瑠美夏と付き合ってたと思ってた頃から……あまり言ってないし、清華にも……ないね。
清華とデートした時、服装の感想を求められた時に言ったけど、あれも自分から自然と言ったものではないし、今日だって流れで言ったわけで……。
もっと自分の気持ちを素直に口に出してもいいのかもしれない。
驚いたリアクションではなく、普段の何気ない仕草で可愛いと感じたら言うようにちょっと意識してみよう。
「…………」
そんな僕らのやり取りを、僕に呼ばれたはずの瀬川さんがじっと見ていたんだけど、僕はそれに気づいてはいなかった。
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