第144話 きのこたけのこ論争

 そんなやりとりのあと、僕たちはお菓子選びを再開した。

 瑠美夏が手に取ったのは、『きのこたけのこ論争』でおなじみのお菓子、『きのこの村』だ。

「んふ~♪ やっぱりこれは外せないわよね」

 瑠美夏は上機嫌できのこの村をカゴに投入した。

「僕は断然『たけのこの丘』だけどなぁ……」

 そう。何を隠そう、僕は昔からたけのこ派で、これに関しては瑠美夏とはライバル関係にあるのだ。

「きょーへーは昔からソレ、好きよね。絶対きのこの方が美味しいのに」

「いやいや、たけのこの方が絶対美味しいよ。瑠美夏もちゃんと食べたらわかるって」

「ちゃんとどちらも食べて、私はきのこが美味しいって思ってるのよ。きょーへーこそちゃんと食べたの?」

「食べてるよ。食べたからこそ昔からたけのこを支持してるんだよ」

 ちなみに竜太は普段あまりお菓子を食べないから「どっちでもいい」って言っていた。

「そうだわ! せーかはどっちが好きなの!?」

 今回も僕たちの論争は平行線に終わり、瑠美夏はターゲットを僕から清華に変えた。

「わ、わたくしですか!?」

 清華は、まさか自分にこの話が向けられるとは思ってなかったのか、驚いている。

 でも、二人が違う派閥を支持して決着がつかなければ、新たな人の意見を聞くのは珍しいこともない。

 これで、僕たちの論争はひとまず決着を見るのかもしれない───

「えっと……じ、じつはそのお菓子、食べたことがないんです」

「「え?」」

 ───と思ったけど、そんなことはなかった。

「う、嘘でしょせーか! きのことたけのこ、食べたことないの!?」

「は、はい……」

 瑠美夏は驚き、清華はしゅんとしてしまった。

 でもまあ……僕はなんとなくだけど、清華の返答は予想出来ていた。

「清華は最近までハンバーガーも食べたことなかったからからね」

 そう。清華は僕とデートをしたあの日まで、生まれてこの方ハンバーガーを食べたことがなかった。家の方針かと思ったけどそんなことはなく、今ではたまにだけど、みんなでハンバーガーショップに行って食べている。

 清華は本当に美味しそうにハンバーガーやポテトを食べるから、そんな表情を見て内心ちょっとドキドキしてる。言わないけどね。

「なら、今日食べましょうよ」

「今日ですか?」

「ええ。そしてせーかをきのこ派にするの! んふふ」

 なんでそんなに本気になってるの!? というか、この論争はここまで本気になるようなことでもないでしょ!?

 ……なんか、かすかに『悪女』と呼ばれていた頃にしていた顔をしてるし……。

 でも、清華にお菓子か……。ハンバーガーは大丈夫だったけど、今度も大丈夫なんだろうか……?

 ちょっとあの人を呼んで確認してみようかな。


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