第143話 瑠美夏も恭平とデートがしたい

「ところで清華は、こういったお菓子って食べたことある?」

 清華もお菓子選びに加わって、僕はふと頭の中に浮かんだ疑問を口にしていた。

 清華は本物のお嬢様だ。先月、僕とデートした時までハンバーガーを食べたことがなかったので、もしかしたらお菓子も……という考えが頭をよぎったのだ。

「そうですね。テレビを見ていて、CMでその存在は知っているのですが、実際に食べたことはないですね……」

「やっぱり」

 僕の予想は当たっていた。

「え!? せーかはお菓子食べたことないの!? さすがお嬢様ね」

 瑠美夏も清華の返答にびっくりしている。

 お嬢様として育つと、みんなそうなってしまうのかな?

「ところできょーへー、さっき「やっぱり」って言ってたけど、あんたはせーかがお菓子食べたことないって知ってたの?」

「もしかしたらって思っただけだよ。前にショッピングモールに行ったとき、清華はハンバーガーを食べたことがなかったから、お菓子も……ってね」

「ショッピングモール? ……もしかして二人で?」

「え!? ……う、うん」

 あ、そうだ。瑠美夏は先月に僕と清華がショッピングモールデートをしたの知らなかったんだ!

 あの時は瑠美夏と距離を置いていたし、仲直りしてから今までその話もしなかったし……。

「……せーか、きょーへーとデートしたの?」

「はい。初めてのデートで、わたくしの知らないことを恭平さんが色々教えてくれました」

「ふーん……」

 清華はあのデートを思い出しているのか、頬を染めて『聖女』の微笑みを見せている。

 一方の瑠美夏は、そんな清華をじーっと見ている。

 気のせいかな……ほとんど無表情なのに、瑠美夏が羨望の眼差しを清華に向けている気がしないでもない。

 幼馴染で小さい頃からずっと一緒にいたから、なんとなくわかるくらいだから、もしかしたら違うかもしれないけどね。

「ねえ、きょーへー」

「ど、どうしたの瑠美夏?」

 瑠美夏が僕を見てくる。そんな瑠美夏の頬が少しだけど赤くなった。

「わ、私も、その……きょーへーと、デートが、したい」

「っ!」

 まさかのお願いに僕の顔はすごく熱くなった。

 る、瑠美夏とデート!? しかも瑠美夏からお願いしてくるなんて……!

「私たち、付き合いは長いけど、二人でどこかに出かけたことはないなって思って……ダメ?」

「だ、ダメじゃないよ! 行こうよ!」

 瑠美夏からのデートのお誘いを断るなんてするわけない! むしろ大歓迎だ。

 きっと、瑠美夏と付き合ってると信じて疑わなかった頃の僕なら、もっと喜びに打ち震えているだろうな。

「絶対よ! 約束だからね!?」

「もちろんだよ!」

 とはいえ瑠美夏とのデートはめちゃくちゃ楽しみなので、ちょっと今からプランでも練ってみようかな。

「せーかもいいわよね? 止めないでよ」

「止めませんよ。おふたりで楽しんできてください」

 瑠美夏は清華に同意を求めたけど、清華はあっさりと頷いた。

 瀬川さんに、僕に名前で呼ばれるのはダメって命令した時や、杉内君の脅迫手紙をラブレターと思って取り乱した時の動揺は見られない。本心で言っていることがわかる。

「……ずいぶんと余裕ね」

「瑠美夏さん相手に余裕なんてありませんよ。ですが恭平さんが……おふたりが楽しみにしていることを止める権利はわたくしにはありませんから。ですが……」

 そこで一度言葉を止めて、清華は瑠美夏の目をまっすぐ見た。

 清華……笑ってる?

「わたくし、負けませんから……!」

「っ! ……私だって負けないわよ!」

 二人は互いに不敵な笑みで見つめ合い、僕にはふたりの目から何か熱いものが出ているように見えた。

 そして僕を挟んで互いを見ているものだから、その熱いものが両サイドから僕の顔に当たって、熱くなるような錯覚に見舞われた。

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