第138話 今晩の夕食は……

 数日後の放課後、僕たち四人は揃って校門に向かっていた。

 竜太は部活なんだけど、今日は校門まで一緒に行くみたい。

「あれ? 瀬川さんの隣に誰かいる……」

 今日は校門のすぐ近くに黒い高級車を停車し、車から出て主である清華を待っていた瀬川さんの隣に、明るい髪色の短髪が目立つ男子生徒がいた。

「あれ、コータじゃない?」

「そうですね。あの髪色は君塚さんですね」

 確かにあれは康太だ。だけど、いつからいたんだろう? 早く授業が終わったのかな?

「おっ、ようお前ら」

 僕たちに気づいた康太は手を挙げていて、その隣にいる瀬川さんは深々と頭を下げている。

「お嬢様、皆様。お疲れ様です」

「「「「ありがとうございます瀬川さん(加奈子さん)」」」」

 労ってくれた瀬川さんにお礼を言う僕たち。

「んじゃ、俺は部活行くわ。またな」

 竜太はそれだけ言うと、僕たちから離れ、部室に向かって歩いていた。

「竜太、また明日ね」

「部活、しっかりやんなさい」

「坂木さん、頑張ってください」

 遠ざかっていく竜太にそれぞれ声をかけると、竜太はこちらを見ることはなかったけど、手を挙げてくれた。

「ところで康太。今日はどうしたの?」

 竜太を見送ったあと、僕はどうして今日、康太がここに来ているのかを聞いた。今日は特に集まる予定もなかったしね。

「たまにはみんなと一緒に帰りてーなって思ってな。俺だけ学校違うし、大切なダチに会いてーなって」

「康太……」

 そんなこと言われたら嬉しくなるよ。毎日は無理でも、たまにはこうして康太とも一緒に帰る時間を作ろう。

「おう。だからお前の家まで、俺が護衛するぜ!」

「護衛って……もうアレは解決したのに」

「何があるかわからんからな」

「ぐぬぬ……今日こそはきょーへーと二人っきりで帰れると思ったのに……」

「瑠美夏さん。そうは問屋が卸しませんよ?」

「あはは……」

 瑠美夏は康太を恨めしそうに見ていて、そんな瑠美夏を清華がにこにこしながら見ている。

 なんか、この二人のこんなやり取りも定番になってきたなぁ。

「ま、まあまあ……。でも康太。僕たちこれからスーパーに寄るから、帰りが遅くなっちゃうかもだけどいいの?」

「気にすんな。うちはほーにん主義? だから、ちょっとばかし遅くなっても文句は言われねぇよ。荷物持ちなら任せろ!」

 あまり親が厳しくないのかな? 門限とかもないのかもしれない。

「……康太。よかったら夕飯は一緒に食べない?」

 ふと、僕の口から自然とそんな言葉が出た。

「え? ……マジか!?」

「うん。康太には瑠美夏の件やバスケの練習でお世話になりっぱなしだったからね。それに、前に僕の作ったカレーを美味しいって言ってくれたでしょ? あれ、嬉しかったから……」

 お誘いは勢いで口から出たけど、この理由は本心だ。

 僕が柊邸でお世話になっている頃は瑠美夏のことは康太に任せっきりで、ろくにお礼も出来てなかった。

 バスケだって、康太の協力があったから、あの決勝ゴールを決めれたってのもある。

 それに、純粋に康太と一緒にご飯を食べたいから。

「恭平、お前……」

「だから、どうかな?」

「……断るわけねぇだろ。ありがとうな、恭平」

「うん!」

 やった。今日の夕食は楽しくなりそう。

「あの……恭平さん」

 康太と夕食を食べることを決めた直後、清華が遠慮気味に僕を呼び、見るとおずおずと手を挙げていた。

「どうしたの清華?」

「その、わたくしもご相伴にあずかりたいのですが……だ、ダメでしょうか?」

「ダメなわけないよ! 僕は大歓迎だよ。あ、よければ瀬川さんもどうですか?」

「……私も、よろしいのですか?」

 瀬川さんはきょをつかれたみたいに驚いている。まさか自分にも声がかかるなんて思ってなかったのかな?

「もちろんですよ。瀬川さんをのけ者みたいにするわけないじゃないですか」

「……ありがとうございます上原様」

 瀬川さんは深々と頭を下げた。いやいや、そんな大げさな。

「そうだ。竜太も誘わないと……って、瑠美夏?」

 さっき別れた竜太に連絡しようと思ったら、瑠美夏の視線を感じたのでそちらを見ると、瑠美夏はほんの少しだけど頬を膨らませていた。

「あ……勝手に決めすぎたよね。ごめん瑠美夏」

「確かにきょーへーと二人きりになれないのは不満があるけど、でもみんなで食べるのも楽しいだろうから謝る必要なんかないわ。私こそ、その、きょーへーに謝らせてしまって、ごめんなさい」

「うん。……ありがとう瑠美夏」

「きょーへー……」

「こほん!」

「「!?」」

 僕と瑠美夏が見つめ微笑みあっていたら、突然清華が大きな咳払いをした。び、びっくりした……。

「恭平さん。坂木さんに連絡をお願いしてもよろしいですか?」

「わ、わかった……」

 清華は満面の笑みなんだけど、その語気は強かったし、笑顔の裏には別の感情が見え隠れしたように感じたけど、これは深く考えたらダメなやつだ。

 僕は素早くスマホを取り出して、竜太に電話をかけた。部活、まだ始まってないといいけど……。

「恭平も大変ッスね瀬川さん」

「ええ。本当に……」

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