第4章

第134話 今日からは学校まで一緒に登校

 そんな騒動のあった翌朝。

 僕は朝食の洗い物をしていると、食器をシンクに運んでくれている瑠美夏からこんな提案をされた。

「ねえきょーへー。今日からは学校まで一緒に行かない?」

「え?」

 洗い物をしていた僕の手が止まり、水道から流れる水の音だけが聞こえる。

「ほら、私がきょーへーを好きって昨日の件で知られたんだから、もう途中から別々に登校する意味、ないなって」

「た、確かに……」

 昨日は色々あって疲れてしまったから、そのことを考える余裕もなかった。

 でも、そうだよね。今まではバレしまった時に瑠美夏や清華に迷惑をかけるんじゃ……っていう気持ちがあったから途中から別々に行こうって言ってきたけど、僕たちの事情をみんなが知った今、一緒に行かなかったら逆に昨日のはなんだったのかって思われちゃうかもしれないし……。

「わかった。一緒に学校まで行こう」

「ほ、本当に!?」

 僕が了承すると、瑠美夏の表情がめちゃくちゃ明るくなった。

「う、うん……」

「やった! 約束よきょーへー。……今日から登校も最後まで一緒……楽しみだわ。んふ~♪」

 僕と学校まで一緒に登校するってだけでこれだけ喜んでくれる瑠美夏に、僕の口は自然と弧を描いて、心臓もドキドキと高鳴っていた。

 僕に告白してくれて以降、けっこう我慢させてしまった部分もあるから、大切な瑠美夏には、もっと喜んでもらいたい。

 ……なんて言ってるけど、僕も瑠美夏と学校まで一緒に行くのはすごく楽しみだったりするんだけどね。


 僕らはほぼ同時にそれぞれの家から出ると、向かいの清華と瀬川さんが住む予定の家を建てている現場の責任者───大和田おおわださんが声をかけてきた。

「おっ、おはよう二人とも」

「おはようございます」

「おはようございまーす」

 こうやって挨拶を重ねているうちに、すっかりと顔馴染みになってしまった。

「君たちは相変わらず仲良いな」

「そ、そうですか? ……んふ~」

 瑠美夏が大和田さんの一言ですごくゆるゆるな表情になった。

「恭平君もこんな可愛い彼女がいて毎日楽しいだろう?」

「か、彼女っ!?」

 大和田さんの一言で、僕の頬わすごく熱くなってしまった。

 でも……そうか。何も知らない人から見たら、僕らの関係は幼馴染カップルに見えるのか。

「ん? どうした恭平君」

「い、いえ! なんでも……」

「大和田さん。残念ながら私ときょーへーは付き合ってないんですよ」

 僕がまだ照れていると、瑠美夏が僕との関係を大和田さんに否定した。ちょっと心が痛んだ。

「え? そうなのか?」

「はい。友達と三角関係で……」

「マジか……」

「は、はい……」

 大和田さんがこっちを見てきたので、僕は頬が熱いまま一言返すのがやっとだった。

 待たせているのはわかってるけど、まだ決められるものじゃないから……。

「まあでも、瑠美夏ちゃんなら負けはしないだろうよ! 頑張れよ!」

「はい! ここに越してくる『聖女』には負けません!」

「え?」

 瑠美夏を応援すると言った大和田さん。だけど次の瞬間には固まっていた。

「ち、ちょっと待ってくれ……。恭平君、瑠美夏ちゃんと三角関係の友達って……」

 ここまで話してしまったら誤魔化しは効かないよね。

 言うしかない、か。ごめん清華。

「えっと……柊清華さん、です」

「………………」

 あ、大和田さんが本当にフリーズしてしまった。

 まさか三角関係のもう一人が、自分たちのクライアントである柊グループの社長の娘であるとは思ってもみなかったんだろう。

 いや、大和田さんだけじゃなく、柊グループの令嬢の存在を知っている人なら絶対に勘づくはずもない。

 僕だって大和田さんの立場だったら絶対思わないよ。

「はは、は……恭平君もやるな。美少女二人に迫られてるなんて」

「あ、あはは……」

 大和田さんはまだ理解が追いついてないみたいで、乾いた笑いをもらしていた。

 僕もどう返したらいいかわからなかったからとりあえず苦笑いをしておいた。

「あ、もう行かなきゃ遅刻するわ! 行きましょ、きょーへー」

「そ、そうだね。じゃあ大和田さん。僕たちはこれで……」

「お、おお……。気をつけてな」

「「はい!」」

 僕たちは大和田さんに挨拶をし、学校に向けて歩き出した。

「恭平君、じつはすごい少年だったんだな……」

 そんな大和田さんのつぶやきは僕の耳に届くことはなかった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る