第131話 瑠美夏のカミングアウト
「お前ら……
や、ヤバい! 竜太が本気でキレてる。
男子の集団を睨みながら、一歩、また一歩と男子たちとの距離を詰めている。
「だ、だって本当のことだろ? 上原は坂木の親友というポジションを利用して、小泉さんと柊さんに近づいた挙句、二人を脅して無理やりさっきみたいなことを言わせたんだろう?」
「そうだぜ! それなのに、なんでお前はまだこいつの親友を名乗ってんだよ? こいつはお前を利用したんだぞ?」
「お前ら、恭平がそんなことすると思ってんのか? ……こいつの優しさに救われたヤツが、少なくともここに二人いるのによ!」
竜太はそういうと、瑠美夏と清華を手でさした。キレていても人を指さす行為はしないのはすごいなぁ。
「ど、どういうことだよ……? 上原の優しさ?」
竜太の一言にみんな混乱してザワついている。明らかにさっきまでの勢いは削がれてしまっている。
「私は……」
そんな中、瑠美夏が口を開いた。
「私はついこの前、きょーへーを泣かせるほど辛い思いをさせてしまった。きょーへーの気持ちなんてこれっぽっちも考えてなくて、きょーへーの心を一方的にズタズタにしてしまったの」
「瑠美夏、それは……」
「いいの、きょーへー。……それで一度はきょーへーから絶縁を言い渡されたわ。その時に私はきょーへーが好きだと気づいてしまった。でも、もう遅いんだと思ってたんだけどね、きょーへーは私たちの共通の友達に、私を気にかけてくれと頼んでいたの。立山っていうヤンキーに絡まれて、そいつには怪我を負わせてしまったけど、きょーへーがそいつに頼んでなければ……きょーへーの優しさがなければ、今、私はこうして元気に暮らせていなかったわ。それに……っ」
瑠美夏はそこで言葉を止めた。まだ言いたいことがあるみたいだけど、それを言うのを躊躇っている……そんなふうに見える。……まさか!
「瑠美夏! 待っ───」
「私は前々から、一部の人たちから『悪女』って呼ばれていたの。自分でも本当にその通りだなって思ってたけど、これが私なんだからって思って、『悪女』と言われても
僕の言葉は間に合わず、瑠美夏はクラスメイトに『悪女』と呼ばれていたことを自ら告白した。
『悪女』というワードを聞いて、周りがザワザワとしている。
「でもきょーへーを好きだと自覚してからは変わろうと、『悪女』と呼ばれていた自分を消してやるって決意したわ。遅すぎるかもって思う時もあるけど、でもきょーへーは、私を許してくれて、また幼馴染として私の手を取ってくれたの。だから私は誓った。きょーへーに相応しい女になる……今度は私が悪意あるヤツらからきょーへーを守るって」
瑠美夏が再び喋りだしてからは誰一人として口を開こうとせず、真剣に瑠美夏の話に耳を傾けていた。そして、瑠美夏の話が終わると、男子たちはまたざわざわとしだした。
「ま、マジかよ……」
「ちょっと待てよ。その立山って……」
「あの『
え? あの人、そんな二つ名があったの?
「でもそいつ、
二つ名が一気に可愛くなった。ちょっと混乱してきちゃった。
「聞いたことあるぞ。なんかいっつもエロい事考えていて脳内ピンク色だからってやつだろ?」
うわぁ……。
「そ、そんなやつに目を付けられて、小泉さんは無事だったの!?」
今度は別の女子が瑠美夏に質問を投げかけた。そこは誰しも気になっちゃうところだよね。
「うん。もうダメだって思ったけど、一緒にいた男子がきょーへーに連絡してくれて、助けてもらったの」
「待って瑠美夏! 僕は何もしていないよ。それに、あのヤンキーを倒したのは瀬川さんだし……」
僕がしたことといえば、立山に瑠美夏を解放するように言っただけだから……なんの役にも立ててないよ。
「でもきょーへーがコータに頼んでなければ、せーかも瀬川さんも動くことはなかったし、私もあいつにヤられてた。みんなにも感謝してるけど、でもやっぱり一番助けられたのはきょーへーだって思ってる。あんたが何を言っても、そこは譲らないわ」
「っ!」
瑠美夏の言葉に、そしてその優しい微笑みに僕はドキッとしてしまう。
こうまで言われたら、もうなにも言い返せない。
それから瑠美夏は、キッと睨むように男子を見た。
「きょーへーはリュータの金魚のフンなんかじゃないわ! 私の大切な幼馴染で、私が本気で好きな人よ! そんなきょーへーをこれ以上侮辱するなら、あんたたちを絶対許さないわよ……!」
「「…………」」
何も言えなくなったクラスメイトたち。
気のせいか、瑠美夏のなくなったはずの『悪女』の部分を少しだけ見た気がする。
そして、瑠美夏が話しているあいだ、一言も喋らなかった清華が、一歩前に出た。
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