第130話 地雷を踏み荒らす男子達

 確か彼は清華が好きだったはず。直接聞いてはいないけど、クラスのみんなで行ったカラオケで、杉内君が清華を見る視線は明らかに清華に恋している目だった。

 それにしても、普段大人しい彼がここまで声を大にして叫ぶなんて……。

「なんで上原なんだよ! おかしいだろ! なんで上原みたいな取り柄のないやつが柊さんと小泉さんに好かれるんだよ!? ありえないだろ!」

「……」

 杉内君……そんなふうに思っていたのか。

 ……確かに、杉内君の言う通り、清華と瑠美夏が僕に惚れるなんてありえない……。事情を知らなければそう思うのも無理はない。僕の隣に竜太というイケメンがいるから尚更。

「……そ、そうだ」

「確かにおかしいよな」

「坂木ならわかるが、上原に惚れるとか意味がわからん」

 杉内君の猛抗議に、これまで沈黙していた男子が少しずつ口を開いた。

「せっかく苦労して! お前、上原が……坂木の近くをちょろちょろとするだけの金魚のフンが、ふたりと馴れ馴れしくしてんじゃねえよ!」


「……あ?」

「……きょーへーが」

「……金魚の、フン?」


 竜太たち三人がボソッと呟いた。隣にいる僕だけに聞こえたけど、これは……まずいのでは?

 そして、杉内君も聞き捨てならないことを言った。

「あんな手紙って……まさか!」

 今朝、僕の下駄箱にあんな脅迫状まがいな手紙を入れたのって、杉内君だったの?

「ああそうさ! 昨日もお前がうちのクラスの二大美少女と馴れ馴れしくしてるのが我慢ならなかったんだよ! 上原なら上原らしく、身の程を弁えろよ! お前が柊さんと小泉さんに似合うわけないだろ」

「そうだそうだ!」

「上原に惚れるやつなんていないだろ」

「もしかしたら柊さんたちは上原に脅されているんじゃないのか?」

「マジか!? お前最低だな上原!」

「バスケで逆転シュート決めた時は良い奴だと思ってたのによ」

「柊さんも小泉さんも坂木も、そんなやつといつまでも仲良しごっこをする必要なんてないだろ!」

 男子がさらにヒートアップしてきた。ど、どうしよう……。

「ち、ちょっと男子落ち着きなよ」

 清華と瑠美夏に話を振った女子は、まさかこんな事態になるとは思ってなかったらしくおろおろしている。

 このままでは収拾がつかなくなってしまう。

 昼休みもそこまで長くないのに、さらに事態が大きくなってしまって、騒ぎになってしまう。

 実際に、既に近くにいた他のクラスの人たちや、上級生の何人かが僕たちのクラスの前まで来て野次馬になっていたり、僕たちのクラスの男子に混じって僕に悪口を言ってくる人なんかもいる。

 この人たちも、瑠美夏と清華に好意を寄せているのだろうか?

 改めてだけど、瑠美夏と清華の人気の高さを思い知らされる。

 そんな二人ともが僕に好意があると知ったら、納得できるものではない……よね。

 こんなに言われるのは、やっぱり僕だから……なんだろうか?

 これが竜太ならどうなっていたのかな? 多分ここまで騒ぎ立てる人はいなかったはずだ。

 杉内君の叫びを皮切りに、炎の如くみんなを飲み込み、そして僕に悪意ある言葉を投げかけてくる。

 覚悟はしていたつもりだったけど、やっぱりちょっとキツいな。

 でも、ここで逃げ出したら瑠美夏と清華に顔向けなんて出来ない。二人の想いに応えるためにも、僕もなにか言わないと。

「みん───」

 僕がみんなに僕の話を聞いてもらうようにお願いしようとしたのとほぼ同時に、竜太が近くにあった机に思い切り手を置いた。

『バンッ!』という音が教室、そして近くの廊下にまで響いた。


「……よぉ、お前ら」

「あんたたちが言いたいのは」

「それで全てでしょうか?」


 突然の大きな音、そして三人の言葉にクラスのみんなは静まり返った。

 そばにいた僕は、三人から発せられる怒気を肌で感じ、僕が怒られてるわけでもないのに汗が吹き出していた。

 こ、これ……どうなるの?

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