第127話 本気で怒らせたらダメなタイプ

「…………」

「ねえせーか。さっきから黙ってるけど、なにかいい案ない?」

 確かに、清華は手紙を見てからずっと沈黙したままで、さらに俯いているから、清華の長く美しい黒髪がカーテンなって表情をうかがえない。

「…………ふ」

「ん?」

 今、清華が笑ったような気がするけど……。


「……ふふ、そうですか。恭平さんに、わたくしの命の恩人に脅迫、ですか」


「「「!?」」」

 え? え!? せ、清華さん……もしかして、すごく怒ってます?

「ち、ちょっとせーか? 落ち着きなさいよ」

「わたくしはいたって冷静ですよ。瑠美夏さん」

『聖女』の微笑みをはりつけたその笑顔は、綺麗だったけどとても怖いものがあった。

「瑠美夏にキレている時にも思ったけど、柊さんはマジで怒らせたらダメなタイプだな。怖ぇ……」

 最後の方は声が震えていた竜太。僕も同じだよ。

「恭平さん! よければまた、わたくしのお屋敷で寝泊まりをしませんか?」

「え?」

「はぁ!?」

 清華が驚きの提案をしてきたもんだから、僕はポカンとしてしまった。

 リアクションの薄かった僕に代わってかはわからないけど、大きな声を出したのは瑠美夏だ。ベンチに座っていたのにガタッと勢いよく立ち上がった。

「だ、ダメよそんなの! 何言ってるのよせーか!」

「ですが、恭平さんが脅迫されたことにより、そのものが恭平さんに危害を加えないとも限りません! 自宅にいる時に襲撃してくるかもしれません。でしたら、わたくしのお屋敷はどこよりも安全です。決してまた恭平さんと一緒に暮らしたいからなどという不埒な考えはしていません!」

「……ならなんで最後、目を逸らしたのよ?」

 せ、清華は嘘がつけない性格だから、自分の願望まで言っちゃったんだろうな。

 というか痴れ者って……昨今聞かないけど、これは瀬川さんの影響なのかな?

「と、とにかく恭平さん! わたくしに、恭平さんを守らせてはくれませんか?」

「……ごめん清華。それは出来ない」

 僕は少しだけ逡巡し、清華の提案を断った。

「ど、どうしてですか!? それだと恭平さんが危険な目に……!」

「それだと清華が危険な目にあうかもしれないじゃないか」

「大丈夫ですよ。わたくしには加奈子さんがいますので」

 確かに瀬川さんなら、清華をしっかり守ってくれるだろう。瀬川さんがいたら……。

「でも、相手はこの学校の生徒だよ。さすがの瀬川さんも校内には入れないから、その間にもし、この手紙を送ってきた張本人が接触してきたら、間違いなく清華まで危険が及ぶ。そんなのは嫌だ。大事な人が傷つけられることろは見たくないんだ」

「恭平さん……」

 もし、清華と瑠美夏が僕と一緒にいる時に犯人が行動を起こしたら、間違いなく二人に危害が及ぶ。

 二人が僕を大切に想ってくれるように、僕も二人が大切だ。

 大切な人が傷つけられるのは、自分が傷つくのより怖い。

「それに、誰かと一緒にいると、犯人が行動を起こせなくなるかもだし」

「そんな! 危険です! 恭平さんが囮になるようなこと……」

「そうよ! あんただって無事ではすまないかもじゃない!」

「まぁ、そうなったら瀬川さんに頼るようにするよ」

 僕は見た目通り、喧嘩とかはからっきしだ。

 だから、もし荒事になってしまったら、その時は瀬川さんに頼るしかなくなる。

 そんなことまで僕一人でって言ったら、きっと清華も瑠美夏も納得はしてくれない。

 だから、落とし所として、瀬川さんに僕のボディーガードを一時的にお願いするということで、納得してもらうことにした。

「わかり、ました……」

 清華はしぶしぶといった様子でそう零すと、スマホを取り出しどこかへと電話をかけた。

「加奈子さん、清華です。実は───」

 清華は瀬川さんに今回の件を説明し、僕のボディーガードも頼んでくれた。

『かしこまりました。上原様の身も、私がお守りします。上原様、よろしくお願いします』

「こ、こちらこそ。ご迷惑をおかけしますが……」

『お嬢様の命の恩人を守れること、誇りに思います』

 そんな大袈裟な……。

「よろしくお願いします」

『かしこまりました』

 僕はスマホを清華に返した。

 瀬川さんの声はいつものクールな感じだったけど、その奥底に熱を帯びているように感じた。

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