第125話 ラブレター?

 翌朝、学校に到着した僕はスニーカーから上履きに履き替えるために、靴を脱いでいた。

 瑠美夏とは途中まで一緒に行き、新栄の生徒が増えてきたタイミングで僕が少しだけ早く学校に到着するようにしている。

 僕がそうしてほしいと頼んで、瑠美夏が笑ってそれを受け入れてくれたんだけど、その笑顔はやっぱりどこか寂しげだった。

 僕も、出来れば瑠美夏と一緒に学校の門をくぐりたい。だけど、瑠美夏は今やこの新栄高校の人気者だ。そんな瑠美夏が僕と一緒に登校しようものなら、僕も瑠美夏もたちまち周りの生徒に囲まれてしまうだろう。

 瑠美夏は「むしろそれは望むところよ!」って言ってくれたけど、瑠美夏に負担をかけてしまうのは間違いないので、僕はそれを良しと出来なかった。

 付き合っていないのに、不躾な質問の餌食になるところは見たくない。

「上原くん、おはよう」

「お、おはよう。小泉さん」

 僕よりちょっと遅れてやって来た瑠美夏が、僕に他人行儀な挨拶をしてきて、僕も同じように返した。

 もちろんこれも僕がお願いしたことだ。

 学校にいるあいだは、今まで通りクラスメイトの関係でいようと。

 当然清華にも同じことを言った。

 僕は瑠美夏と今日二度目の挨拶を交わし、上履きに履き替えるために、自分の下駄箱を開けた。

「あれ?」

 すると、僕の上履きの上に、何やら紙があった。

 これは……封筒?

 僕は下駄箱から封筒を取り出す。

 表には達筆な文字で『上原恭平様へ』と書かれている。ただ、男子が女子かは判別できない。

 裏に差出人の名前が書かれているのではと思い、封筒を裏返すと、差出人の名前はなく、封筒が開かないための猫のシールが貼られているだけだった。

 男子はこんな猫のシールを使ったりしないだろうから、やっぱり差出人は女子……?


 まさか、僕にラブレター!?


 いやいや、落ち着くんだ僕。

 僕にラブレターだなんて、そんなわけないじゃないか。

 清華と瑠美夏以外に僕を好きになる珍しい人なんていないって。

「……何持ってるのよ?」

「え?」

 この謎の封筒に意識を集中していた僕は、すぐ近くから聞き慣れた女性の声で現実に引き戻された。というか、ずいぶん低い声だったな。

 そして、声のした方を見ると、瑠美夏が信じられないものを見るような目で僕が持っている封筒を見ていた。

「あ、あんたそれ……ら、ラブレターじゃ……!」

 瑠美夏はぷるぷると震える手で僕の持っている封筒を指さしている。


 反対側の手には、しっかりと自分宛のラブレターを持って……。


「じ、自分だって持ってるじゃないか!」

「私はいいのよ! どうせ断るんだから!」

 ち、ちょっと! こんなところで告白の返事を言っちゃダメでしょ! 万が一送り主が聞いていたらどうするのさ!?

 というか、下駄箱でこんなやり取りしてただのクラスメイトを装うなんてもう無理だから、僕は普通に接するようにした。

「僕のは多分、違うと思う。心当たりがなさすぎるもん」

「まさかせーか!?」

「いや絶対に違うでしょ……」

 清華は僕に直接告白をしてるんだから、今さらラブレターを送るなんてことはしないでしょ。

「なら開けて確認しましょうよ」

「え!? もしかして、今ここで?」

「当たり前じゃない!」

 それはさすがに……僕宛てなんだから僕以外に見られるのは良しとしないでしょ。

「ぼ、僕、トイレに行ってから教室に行くよ!」

「あ、ちょっと!」

 僕はそれだけ言うと、走ってトイレの個室に駆け込んだ。

「ふう……」

 ここなら瑠美夏も追っては来れないから、ゆっくりと中を確認することが出来る。

 でも、本当なんなんだろうこの手紙?

 僕宛てのラブレターじゃないのは間違いないから、もしかして竜太に好意を寄せる誰かが僕と繋がりを持って竜太に近づこうとしているとかかな?

 でも、竜太って本当にバスケ一筋だし、恋人より友達と騒いでいたいみたいだから、特別な人を作る予定はないんだろうなぁ……。

 おっと、今はそんなことを考えるよりこの手紙だ。早く開けないと予鈴が鳴ってしまう。

 僕は猫のシールを丁寧に剥がし、封筒から二つ折りになった手紙を取り出す。裏側に折られていて表側が少し透けている。

 あ、長文ではないみたいだ。これならすぐに目を通せそうだ。

 僕は手紙を開いた。

「え…………?」

 そして予想だにしなかった文面に固まった。


『柊清華ト小泉瑠美夏ニコレ以上近ヅクナ』


 まるで怪盗が予告状に使うであろう新聞の文字を切り取って貼り付けたような一言だけがあった。

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