第124話 早くスーパーに行かないとだけど……

「じゃあきょーへー。そろそろスーパーに向かいましょう」

「そうだね」

 予想以上に話し込んでしまった。早くスーパーに行って夕飯の買い出しをしないと食べる時間が遅くなってしまう。

「恭平さん、瑠美夏さん。よろしければ車に乗ってください」

 清華と瀬川さんに挨拶をして瑠美夏とスーパーに向かおうとした時、清華からありがたい提案をされた。雨足もさっきより強くなっているから、正直渡りに船だ。

「瀬川さん。いいんですか?」

 だけど、運転するのは瀬川さんだ。いくら清華が瀬川さんの主人であっても、ドライバーに許可を取らないといけないと思った僕は、瀬川さんに聞いていた。

「もちろんです。お嬢様の決定ですし、私もおふたりをこの雨の中歩かせるのはいかがなものかと思っていましたので」

 瀬川さんもそんなふうに思ってたんだ。

「ありがとうございます瀬川さん。じゃあ───」

「ちょっと待って」

「え?」

 僕が瑠美夏に車で送ってもらおうと言おうとしたら、その瑠美夏が僕を手と口で制止してきた。

「ど、どうしたの瑠美夏?」

「せーか、瀬川さんも。申し出はありがたいんだけど私は歩いていこうと思ってる」

「「「え?」」」

 僕たち三人は、瑠美夏の予想外の返答に驚いていた。

「ど、どうして瑠美夏? この雨だと食材も濡れちゃうかもしれないし、ここは二人の厚意に甘えてもいいんじゃ……」

「でも、それだと二人は遠回りになってしまうでしょ? 確かに二人の申し出はありがたいと思ったけど、やっぱり手間をかけさせるのは申し訳ないと思うの。ね? だから二人で行きましょきょーへー」

 た、確かに瑠美夏の言うことにも一理あるかも。

 清華のお屋敷は僕たちの家やスーパーからはここから逆方向だ。いくら車とはいえ、清華と瀬川さんに遠回りを強いてしまうのは悪い。僕はちょっと甘えすぎていたのかもしれない。

「……だね。清華、瀬川さん。せっかく言ってくれたのに申し訳ないんですが、やっぱり歩いて───」

「待ってください!」

「え?」

 今度は清華が僕を手と口で制止してきた。なんか、話が進まないなぁ……と思いながら僕は内心で苦笑した。

 それから清華はゆっくりと瑠美夏に近づいていく。近い距離でお互い見つめ合う美少女だけど、なんか清華の目がすごくジト~ってしてるのは気のせいかな?

「……瑠美夏さん」

「……なによ? せーか」

「恭平さんと二人きりで帰りたいから、わざと歩いて帰ろうとしてませんか?」

「え?」

 そうだったの? でも確かに、それだと二人きりで帰ることになるか。

「……そうだけど、あなたたちを気づかったのも本当よ。せーかのことだから、買い物のあとに私たちを家まで送るつもりだったんじゃない?」

「もちろんです。大切なおふたりをちゃんと家まで送り届けたいと思ってます。ね? 加奈子さん」

「はい。私もお嬢様と同じ考えです」

 清華と瀬川さんの気持ちはとても嬉しいしありがたい。でも……。

「そうなると二人が屋敷に帰るのがさらに遅くなってしまうわ。授業で疲れてるんだから、早く帰って疲れを癒したいでしょ?」

「別にそこまで疲れては……」

「いいから。せーかの気持ち、嬉しかった。ありがとうせーか」

「る、瑠美夏さん……」

 瑠美夏は清華にニコッと笑みを見せると、僕の方へとやって来た。

「じゃあ行きましょきょーへー。あ、スーパーの帰りは荷物持つから傘、させないでしょ? だから私の傘に一緒に───」

「る~み~か~さ~ん!?」

 いい感じに話がまとまったと思ったけど、瑠美夏の一言で清華が恨めしげな声を出しながら瑠美夏に近づいてきた。

 これじゃあいつまで経っても帰れないと思った僕は、瀬川さんが運転する車に乗せてもらうよう頼んだ。

 瑠美夏はブーブー言っていたけど、最終的には折れて車に乗った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る