第116話 大きく、そして確かな1歩を……
その日の放課後、僕は瑠美夏と清華さんを自宅に招いた。
二人とも僕のお誘いに二つ返事で、それも即答で行くと言ってくれた。二人は決勝戦ですごく頑張ったから疲れているだろうに……。
申し訳なさを感じるのと同時に、来てくれたことへの嬉しさも感じていた。
そして来てもらった理由は他でもない……二人とハイタッチした時に思った、出来るかもしれないことをやってみるためだ。
日を改めてやればいいのではと思ったんだけど、時間が経つと、いざやると決めたのに、その判断が鈍ってしまうかもしれないからだ。ようは『思い立ったが吉日』、『鉄は熱いうちに打て』だ。
「それできょーへー、どうしたのよ? 急に私たちを家に招いて」
「う、うん。実は、二人に言いたいことがあって」
「なるほど……だから夕飯時じゃなくて今なのね」
「恭平さんはなにか大切なことをわたくしたちにお伝えしようとしているのですね」
「大切なことって……まさか、返事を!?」
「ご、ごめん……それはまだ……」
それも先延ばしにするのは非常に申し訳ないと思っているけど、まだ決めれない。優柔不断と言われるかもしれないけど、ほんの数時間前までは二人の気持ちに向き合えずにいたんだから。
「わたくしも瑠美夏さんも、いつまでも待つつもりです。ですが、それでないとしたら、恭平さんがわたくしたちに伝えたいことというのは……」
「う、うん……」
そうだよ。今なら言えるって思ったんだ。ここで臆病風に吹かれてたんじゃいつまで経っても一歩を踏み出せない。勇気を出すんだ! 上原恭平!
僕は数回、大きく深呼吸をする。今もうるさく鳴っている心臓の鼓動を少しでも抑えるために……僕にとってはとても大事なことだから……ちゃんと噛まずに言うためにも心を落ち着けるんだ。
僕は今、目を瞑っているから分からないけど、おそらく瑠美夏と清華さんは僕が何を言うのか固唾を飲んでその時を待っているはずだ。
僕は気持ちを落ち着けて、まっすぐ、真剣な目で二人を見つける。
「二人とも」
「うん」
「はい」
僕に呼びかけられた二人は肩を少しだけビクッと震わせたけど、それも一瞬で、二人とも僕に優しい笑顔を向けてくれた。
「えっと……改めてになるんだけど、この二週間、僕の特訓に付き合ってくれて本当にありがとう」
「わたくしたちは恭平さんのためならどんな無茶なことだってやりますよ。恭平さんの近くで恭平さんを支えていですから」
「……私が言うなって思うかもだけど、あんたが笑顔になるためなら、私も喜んで協力するわ。今は、きょーへーの笑ってる顔を見るのが何よりも嬉しいから」
この二人が本気で言っているということはすぐにわかった。この優しい声音と、なにより……本気で愛おしそうなものを見る表情。ふたりは僕のためだったらなんだってやるだろう。そう思うとたまらなく嬉しい。
もちろんそれに甘えるだけじゃダメだ。僕だって……頼りないかもしれないけど、二人のためならなんでもするつもりだ。
だから、今のままじゃいけない……僕が一歩を踏み出すんだ!
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