第115話 2人とハイタッチ

 勝利クラスが宣言されると、試合を観戦していた生徒からどっと歓声が聞こえてきた。主に女生徒だ。

「坂木くんさすがー!」

「坂木くんかっこいい!」

「竜太くん大好きー!」

 など、どさくさに紛れて告白している人もいたけど、竜太はそんなことは気にせずにダッシュで僕に近づいて抱きついてきた。

「やったな恭平! 優勝だぞ!」

「うん。ありがとう竜太」

「何言ってんだよ! 決勝点を入れたのはお前だぞ? あのプレッシャーの中よく決めてくれたよ!」

「それは竜太のパスが良かったからだよ」

 それにあのバスケ部二人相手に一人でここまで粘ってくれたし、やっぱりこの試合のMVPは竜太だよ。

「お前のゴールで俺たちは勝てたんだ。もっと自分を誇れよ恭平」

 そう言って竜太が指さした先を見ると、他のクラスメイトも僕たちに向かって走ってきていた。

「上原ナイスシュートだったぜ!」

「ほんとだよ! まさかお前が決めるなんてな!」

「決勝、お前が出るって聞いたとき反対してごめんな!」

 一緒に戦った三人からもそんな三時をもらい、僕はちょっと涙ぐんでしまう。

 だって、今まで学校行事でこんな活躍したことなんてなくて、いつもみんなの邪魔にならないように空気に徹していた僕が、こんなことを言われる日が来るなんて……。

「ありがとう、みんな……」

「おいおい何泣いてんだよ上原。もっと胸はれって!」

「うん……。うん……!」


 表彰式の前、僕と竜太は体育館の隅でお互いの活躍を称えあっていると、足音が二つ、こちらに走って向かって来ているのに気がついた。

「きょーへー!」

「恭平さん!」

 見ると、それは瑠美夏と清華さんだった。二人とも笑顔だ。

「優勝おめでとうきょーへー! 最後のシュート、すごくかっこよかったよ!」

「瑠美夏さんの言う通りです。わたくし、恭平さんのシュートは入ると確信しておりました。お見事でした恭平さん。とても、かっこよかったですよ」

「せーか私のまねっこじゃん」

「る、瑠美夏さんがわたくしの言いたいことを先に言ってしまうからですよ!」

 まさかケンカが始まるのではと思ってちょっとヒヤッとしたんだけど、そんなことはなく二人とも笑っていた。本当に仲のいい関係になったと思い、二人を見てたら僕も自然と笑顔になった。

「二人が僕の特訓に付き合ってくれたからだよ。本当にありがとう。竜太もありがとう」

「……恭平、そこは二人だけに礼を言っとけばいいんだよ」

 竜太に言われて僕も「あっ」て思ったけど、やっぱり竜太にも一緒にお礼を言いたかったんだ。

「でも、それだと言いそびれるかもしれないからさ」

「まったくお前ってやつは……俺の自慢の幼馴染で親友だよ!」

「僕もだよ竜太!」

 そうして僕と竜太は笑いあい、竜太が右手をゆっくりと上にあげたので、僕はその手のひらに少し遠慮気味に自分の手のひらを打ちつけた。所謂ハイタッチだ。

 康太もこの場にいたら、彼ともハイタッチしたかったなと思いながら、康太とは今度会った時に改めてお礼を言ってからハイタッチをしようと決めて、僕は瑠美夏と清華さんを見ると、二人ともさっきの僕たちと同じように右手を出していた。

「「あ……」」

 だけど、二人の表情は硬いままで止まっていた。

 そうだよね。瑠美夏にもここ数年触れてないし、清華さんにいたっては触れたことすらない。加えて二人は僕が恋愛に後ろ向きになっているのを知っているからバツが悪く、でも引っ込めるのもどうかと思って手を上げ続けている。

 それを見て、僕は自分の右手を瑠美夏の、そして左手を清華さんの手に合わせて二人同時にハイタッチした。

「き、きょーへー!?」

「き、恭平さん!?」

 当然ながら二人はとても驚いて、僕が二人にハイタッチをしたことを遅れて理解したのか、二人の頬がみるみる赤くなっていった。僕も顔が熱いし心臓もすごくドキドキしているのを自覚しながら、二人とハイタッチした両の手のひらをじっと見つめていた。

 出来た。あの新聞の一件以降、恋愛が怖くなって逃げていた僕が、自分から二人に触れることが出来たんだ。

 僕は両手を握りしめ、その事実に嬉しくなり、確かな高揚感を自覚し、俯きながらも自然と笑顔になっていた。

「二人とも……応援してくれて、そして特訓中も支えてくれて、本当にありがとう」

 僕は笑顔のままで、自然と二人に再びお礼を言っていた。

 今なら、あれも出来るかもしれない……!

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