第112話 決着。女子バレー
そこからの試合展開は、まさに一進一退だった。
こちらのクラスが清華さんと瑠美夏を中心としたチームプレーで怒涛の追い上げを見せ、十三対十三のイーブンにすると、それで本気になった相手のクラスも、なんとか突き放そうと必死に攻撃を加えるけど、清華さんと瑠美夏がことごとく相手のスパイクを拾って攻撃に繋げている。
瑠美夏の成長が本当に目覚しいもので、瀬川さんの特訓の成果が出ている。
「おいおいこれ、マジで勝てるんじゃないか!?」
竜太も応援に熱が入る。
いや、竜太だけじゃない。いつの間にかうちのクラスを応援する生徒が増えている。
「柊さん! 頑張って!」、「小泉さん、ナイスレシーブ!」、「いけー『聖女様』!」などなど、うちのクラスの二大美少女への声援が鳴り止まない。
そして瑠美夏と清華さんのプレーに触発された、コートにいるクラスメイト四人の士気も上がり、六人が一丸となって相手に立ち向かっている。
一方の相手のクラスは完全にヒールになっていて、これは精神的にかなりくるものがあるので、バレー部の二人のプレーには精細さがなくなり、息もすごく上がっている。
だけど息が上がっているのはこっちのクラスも同じで、特に清華さんと瑠美夏の消耗は著しい。
スコアは十四対十四のイーブン。デュースがないから次の得点で勝敗が決する。
こちらのサーブが相手のコートに向かって放たれ、バレー部員の一人がこれをレシーブ。
ボールは高く舞い上がり、すかさず落下予測地点にもう一人のバレー部員が行き、これをトス。
「いいトスよ。さすが!」
トスに合わせてサーブを拾ったバレー部員が飛び上がる。
これを決められたら負けてしまう……うちのクラスは五人がスパイクに備える。
「防ぎます!」
清華さんが残り少ない力を振り絞り、相手のスパイクをブロックするためにジャンプする。しかし……。
「甘いわね『聖女様』!」
「あ!」
相手はスパイクをすると見せかけて、指でボールを軽く押すようにして、清華さんのブロックをかわした。
まさかこの土壇場でそんなフェイントをするとは思わなかったからか、五人全員の反応が遅れた。
「まずいぞ! 落ちたら負けだ!」
竜太が叫ぶ。
僕も万事休すかと思った。だけど───
「まだよ!」
ボールが地面に落ちる直前、瑠美夏が頭から滑り込んでギリギリでこれを拾い、ボールはまた舞い上がる。
この瑠美夏のファインプレーに会場のボルテージは最高潮になり、大きな歓声が上がる。
「誰でもいい! せーかにつなげて!!」
「わ、わかった!」
クラスメイトの一人がぎこちない手つきだが正確なトスを上げる。
それに合わせて清華さんが最後の力を振り絞り高くジャンプ。
「「させない!」」
相手はバレー部員二人がジャンプし、両手を上げてブロックしようとする。
「決めろ! 柊さん!」
僕の隣にいる竜太も声を大にして叫ぶ。手すりから身を乗り出している。
清華さんがスパイクを打つ直前、僕は清華さんと目があった……ような気がした。
それが合図となったのかはわからないが、僕も手すりを掴んでいる両手に力が入り、竜太同様に身を乗り出し、そして……。
「──────!!」
「っ!」
清華さんの強烈なスパイクが相手のブロックを打ち砕き、ボールが相手コートに落ちた。
試合を観戦していた人からの声援はいつしか止んでいて、別のコートで試合をしている人たちの声と、清華さんが打ったボールがバウンドする音だけが聞こえている。
「し、試合終了! 勝利クラスは───」
審判の先生が僕たちのクラスの勝利を告げると、割れんばかりの歓声が木霊した。
あ、瑠美夏が清華さんに抱きついて、あんなに嬉しそうにはしゃいでいる。
他のクラスメイトの女子も、清華さんと瑠美夏の元に集まって、みんなで勝ち取った優勝を喜びあっている。
「マジで凄かったな! 瑠美夏と柊さんはもちろんだけど、他の女子も頑張ったよな」
「そうだね。すごい試合だったよ」
「こりゃあ俺たちも負けてられないぞ恭平! こっちも優勝すんぞ!」
竜太は僕の肩をぽんと叩き、階段へ向けて歩き出した。
僕は小さくなる竜太の背中から、階下のコートに再び視線を移動させると、僕のクラスの女子はまだ喜びを分かちあっていた。
今、間違いなく彼女たちはひとつになった。みんなで勝ち取った勝利だ。
「おめでとう……二人とも」
僕は誰も聞こえない声量で、瑠美夏と清華さんを祝福し、竜太のあとを追って駆け出した。
「ほらせーか。勝ったのに何ボーッとしてるのよ?」
「い、いえ……」
「ほら、次はきょーへーの応援をしなきゃだし、移動しましょ」
「そ、そうですね……」
瑠美夏さんはそう言うとコートの外に行ってしまわれたのですが、わたくしはそのまま動けずにいました。
疲れている……というのもありますが、でも歩けないほどではありません。
それに、スパイクを打つ直前からわたくしの心臓の鼓動が早くなって、一向に収まってくれません。
理由は……明白です。
スパイクを打つ直前、わたくしと恭平さんの視線が真っ直ぐにぶつかりました。
それだけでも嬉しかったのですが、その後の恭平さんの行動……手すりから少しだけ身を乗り出した恭平さんが、叫んだように思えたんです。
『清華!!』と……。
瑠美夏さんも、他の皆さんも気づいていないということは、恐らく恭平さんは口だけを動かしていたんだと思うのですが、でもわたくしにははっきりと聞こえたんです。
恭平さんに名前で……それも呼び捨てにされて、限界だったわたくしの身体から力が湧き上がり、あんなスパイクが打てたんだと思います。
恭平さん……ありがとうございます。
この勝利は、恭平さんがわたくし達を応援してくれたからこそ手にできた勝利です。
今度はわたくしが……わたくしと瑠美夏さんが恭平さんに力を与える番です!
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