第107話 深まる友情

「どど、どういうことですか!? ……けほっ、けほっ!」

 小泉さんの言葉を理解したわたくしは、ベンチから立ち上がり大声を出してしまい、そのせいで咳も出てしまいました。

 バレーボールの話題からわたくしたちの近くにいた加奈子さんも珍しく驚かれています。

 バスケットの練習をしている男性陣も、わたくしの声が耳に届いたのか、こちらを見ていました。今はシュート練習をしているようです。

「大丈夫柊さん!? と、とりあえず落ち着いて、座って」

「そ、そうですね。失礼しました」

 わたくしは取り乱したことを小泉さんに謝罪し、「こほん」と咳払いをしてベンチに座りました。

 しかし、言い訳をさせてもらえるのなら、さっきの話を聞いて動揺するなというのが無理な話だと思います。

 今の状態の恭平さんがか……間接キスをご自分からなさるなんて思えません。やはり小泉さんから言い出したと考えるのが普通、ですよね?

 ということは、恭平さんは小泉さんに言われたから間接キスをしたということになります。

 しかし、いつ、どのようなシチュエーションで?

「その、柊さん───」

「小泉さん!」

「な、なに?」

「お嬢様。病み上がりなのですから落ち着いてください」

 加奈子さんに言われて我に返ったわたくしは、また謝罪をして深呼吸をしました。

「それで小泉様。どちらからなさったのですか?」

「……加奈子さんも気になってるのですね」

 かくいうわたくしも気になっていますので加奈子さんのことは強く言えません。しかし、どちらからという答えは小泉さんからと決まっ───

「……えっと、きょーへーから」

「恭平さんからですか!?」

「なんと……」

 まさか恭平さんからするとは思ってもみなかったので、わたくしはまたベンチから立ち上がり叫んでしまいました。

 加奈子さんも目を見開いて驚いています。

 そして当然ながら男性陣もまたこちらを見てきます。

 わたくしはなんとかペコッと謝罪の意味を込めたお辞儀をしたのですが、内心はそれどころではありません。

 え? 本当に恭平さんから間接キスをしたのですか!? うらやまし……ではありません!

「ど、どのようなシチュエーションで恭平さんと間接キスをされたんですか?」

「えっと、実はね───」

 小泉さんは訥々と間接キスに至った経緯を話しはじめました。

「───それでその……間接キスをしました」

 わたくしは小泉さんのお話を聞いているあいだに、頬が熱くなっていくのを感じました。また熱が上がったとかではありません。

 というより、間接キスをしたのは、わたくしが発端だったのですね。

 うぅ……小泉さんにまた一歩先を行かれてしまいました。

 わたくしも頑張らないといけないのですが、恭平さんは今、ゆっくりと恋に前向きになろうとしている大切な時期です。わたくしが余計なことをしてまた後ろ向きになってしまったのでは元も子もないので、やはり今しばらくはアプローチは避けた方がいい……ですよね。

「だから、柊さんの謝罪は受け取れない。というか謝る必要もないからね。……謝らないといけないのは、むしろ私のほうだから」

「小泉さんも謝られる必要はありませんよ。わたくしたちはお友達ですけど、恭平さんを巡ってのライバルですし、それに約束を先に破ってしまったのはわたくしなのですから」

「柊さん……」

「ですから、謝ろうとしないでください」

 わたくしは小泉さんの手を取って笑顔でそう言いました。

 わたくしを見た小泉さんも笑顔になってくれました。やはり彼女は笑顔がとてもよくお似合いです。

「それでね、柊さん。私から一つお願い……というか、頼みがあるんだけど」

「頼み、ですか?」

 このタイミングでの小泉さんからのお願い……一体なんでしょう? わたくしは小首をかしげて考えます。

「柊さんのこと……名前で、呼んでいい?」

「あ……」

「私たち、友達だから、いつまでも苗字で呼び合うのも、ね?」

 そうですよね。さっきもわたくしから『お友達』と言いましたし、わたくし自身、これからもっと小泉さんと仲良くなりたいと思っています。それなのに苗字で呼ぶのは、やっぱり壁を感じてしまいます。

「ぜひ、名前で呼んでください。瑠美夏さん!」

「ありがとう。せーか」

 わたくしたちは先程以上の笑顔で笑いあいました。

 いずれ親友と呼ぶようになる瑠美夏さんと、本当の意味でお友達になれたと思った瞬間でした。

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