第105話 練習日当日、公園に集まる六人
そして翌々日の日曜日のお昼すぎ、僕は瑠美夏と一緒に、家から少し離れたところにある、バスケットゴールがある公園へとやってきた。
公園に入ると、竜太がすでにいて、バスケットボールを持ち、ゴールを見据えていた。
竜太が立っているのはフリースローラインがある場所。そこからボールを持ち上げ、ゴールめがけてシュートして、ボールは綺麗な放物線を描き、ゴールリングに当たることなくボールが入った。
「よ、来たか恭平、瑠美夏」
竜太は僕たちに挨拶をすると、走ってボールを取りに行き、僕たちのそばまでやってきた。竜太の額から一筋の汗が流れ落ちる。とても爽やかだ。
「相変わらずすごいね竜太」
「サンキュ。てか、なんで瑠美夏までジャージなんだよ?」
一昨日、自分の家に帰ったあと、本当に竜太から電話がかかってきて、今日のことを教えてもらった際、僕は動きやすい服装で来るようにと言われていたのでジャージをきてきたんだけど、瑠美夏もジャージを着用していた。
別に瑠美夏は身体を動かすわけではないはずなのに。
「私もなにか手伝えることがあるかもしれないから着てきたのよ」
「なるほどな」
「ありがとう」
「べ、別に……私がしたいから着てきたんだから、お礼を言われることじゃないわよ」
瑠美夏は頬を赤くし、顔を逸らしながらボソボソと言った。
「なんだ? ツンデレか?」
「違うわよ! そんなことより早く始め───」
「悪い待たせた!」
「あ、康太」
瑠美夏の抗議の声を遮るようにして、康太がやって来た。
「よぉ恭平。今日はバスケの特訓なんだってな?」
「うん。だから経験者の康太もいろいろ教えてくれると嬉しいよ」
「任せろ! 他ならぬお前のためだ。俺も一肌脱いでやるぜ!」
「ありがとう康太」
やっぱり康太は、本当に友達思いだなぁ。
二人に教えてもらうんだ。少しでも上達するように頑張ろう。
「ん? どうした小泉、ヒステリックか?」
瑠美夏を見ると、まだ少し頬を膨らませていて不機嫌だった。竜太があんなこと言うから……。
「あんたたちは揃いも揃って……」
あぁ、康太が変なこと言うから瑠美夏がまた不機嫌になったじゃないか。
その時、公園の入り口付近に、見慣れた黒い車が停車した。あれってまさか……。
そう思った僕の予想は正しくて、運転席から出てきたのはいつものスーツに身を包んだ瀬川さんだった。
「え? あれって瀬川さんだよな? じゃあまさか……」
康太も驚いていたが、瀬川さんはそのまま後部座席のドアを開け、そこから長い黒髪をポニーテールにした清華さんが出てきた。
「え!? 柊さん!?」
瑠美夏も驚いている。
清華さん……身体はもう大丈夫なんだろうか?
それにしてもどうして今日ここに集まるって知ってるんだ? というか、近づいてくる清華さんを見て気づいたけど、清華さんもジャージを着用している。
「皆さん、ごきげんよう」
僕たち四人は、清華さんがお辞儀をする様子をただ見ていたけど、いち早く瑠美夏が清華さんに近寄っていった。
「柊さん。もう身体は大丈夫なの?」
清華さんの両二の腕を優しくつかみ、心配そうに聞く瑠美夏。
もしかしたら、清華さんが体調を崩して一番心配していたのは瑠美夏なのかもしれないな。
「はい。おかげさまで熱はすっかり下がりました。小泉さん、ご心配いただきありがとうございます」
「良かった。……本当に」
瑠美夏と清華さんのやり取りを、近くで見ていた僕たち男性陣は、自然と笑顔になっていた。
「ん? 柊さん、体調崩してたのか?」
あ、そっか。康太は学校が違うから清華さんが休んでいたのは知らないんだ。
「はい。そのため金曜日は学校をお休みしました」
「そうだったのか……。でも治ったみたいで良かったよ」
「ありがとうございます君塚さん」
「きっと恭平のおかげだな」
「え、僕!?」
何を言ってるの竜太!?
いやいや、僕はお見舞いに行ったけど、したことといえば話し相手になったりフルーツを持ってきて、そのフルーツを清華さんにた……食べさせたくらい……だし。特別何かをやったというほど大袈裟なことはしてないよ。
「えぇ、それはもう!」
だけど、清華さんは竜太のその言葉に肯定してしまった。
僕がリンゴを食べさせた時のことを思い出しているのか、清華さんはすごくにこにこしている。そして若干頬が赤い。
「恭平お前、柊さんに何をしたんだ?」
「な、何もしてないから! ほら、早く練習始めよ!」
僕は照れくささから康太の質問に答えず、落ちていたボールを拾ってみんなから離れていった。
清華さんに頼まれたからとはいえ、そんなこと、みんなに言えるわけないじゃないか。
「……逃げたな」
「あぁ」
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