第102話 恭平の予想外かつ大胆な行動
手洗いとうがいを終え、僕がリビングに入ると、夕食が並べられていた。
カレーと野菜の盛り合わせ。献立が少々少ない気もするけど、僕と瑠美夏はこれくらいでも十分お腹は満たせるから大丈夫だ。
細かいことを言うと、盛り付けが少しだけ雑になっているけど、瑠美夏が頑張っている証拠なので嬉しく思う。
「さ、早く食べましょ」
「うん」
「「いただきます!」」
僕らは二人して、手を合わせて言った。
「それできょーへー。柊さん、具合どうだったの?」
食事も半分くらい進み、カレーを掬っていたスプーンをカタッとお皿の上に置いて、瑠美夏が朝から気になっていたであろうことを聞いてきた。
その表情は本当に心配している。
「うん。熱があって咳もしていたけど、食欲はあるみたいだから週末ゆっくり休んだら月曜日には来れると思うよ」
「そっか。良かったぁ……」
僕の話を聞いて、瑠美夏は安堵の表情を見せ、スプーンを手に持ちカレーを口の中に運んだ。
「うん。僕が持っていったフルーツも美味しそうに食べてくれたから、熱さえ引いてくれたらもう大丈夫だよ」
「私も後でメッセージを送ろうかしら? あ、でもしんどいならそっとしておいて、月曜日に学校で言ったほうがいいかな……?」
どうやら清華さんの体調を気遣って、メッセージを送ろうか悩んでいるみたいだ。僕も瑠美夏の立場なら送るかどうか迷ってしまうだろう。
「送ってもいいと思うよ。きっと喜んでくれるよ」
「そう、かな? ……うん。あまり遅くならない時間帯に送ってみる。ありがとうきょーへー!」
「う、うん……」
瑠美夏が見せてくれた笑顔に、僕はまたドキッとして、顔を逸らした。
「ねえ、きょーへー」
今日のお見舞いで、きょーへーはフルーツを持って行ったって言ってた。でも、なんとなく気になったことがあるので、私はそれを聞いてみることにした。
「どうしたの?」
「柊さんにフルーツの詰め合わせを持って行ったのよね?」
「そうだけど……」
「……柊さんに食べさせたり、した?」
さっき私の頭の中に、ふとそんなことが思い浮かんでしまった。
私だってないと思うわよ? 昨日は柊さんが『恭平さんが恋に前向きになるまで、恭平さんとは普通に、友達として接しましょう』みたいなことを言っていたし、何より柊さんの性格では言わないと思ってるし、ましてやきょーへーからそんなことをするとは思えない。恋に後ろ向きな今のきょーへーなら尚更。
でも、女の勘というか、虫の知らせというか……なんとなく気になってしまったから、モヤモヤするならいっそ聞いちゃえって思って口にしたんだけど、きょーへーのリアクションは……。
「…………」
頬を赤くして俯いてしまった。
あ、これ……やってるわね。
「……どっちから言ったの?」
「……む、向こうから」
な、何やってるのよあの『聖女』は!?
昨日、自分からあんなこと言っといて、その翌日になんてことしてくれてるの!?
……でもまぁ、柊さんは熱で弱ってるし、好きな人に寄り添いたくなる気持ちはわかるから、今回は仕方ないのかもね。私も同じ立場ならきょーへーにお願いしてたと思うから。
でも、柊さんって、見かけによらず
それにしても、いいなぁ……柊さん。
きょーへーに食べさせてもらえるなんて、すごく羨ましい。私も…………。
そこまで考えて私はハッと我に返った。
ダメよ。私からそんなことは決して言えない。
きょーへーにしたことを忘れたの!? せっかくこうして普通に接してくれているのに、私がわがままを言ってしまったら、修復途中の関係がまた壊れてしまうかもしれない。だから、我慢我慢……。
「どうしたの?」
「え!? な、何が?」
「いや……なにか考えごとをしてるのかなと思ったら、ちょっとだけジト目になってたから……」
「な、なんでもないの! ごめんねきょーへー」
わ、私……ジト目になってきょーへーを見てただなんて……。きょーへーを、に、睨んでないわよね?
あぁもう! 私のバカ! もうこんなこと考えないようにしなきゃ! とりあえず頭をからっぽにしよう。
私は目を閉じ、一度深呼吸をした。
うん。ちょっと落ち着いたかも。
目を開けてきょーへーを見ると、今度はきょーへーがなにか考えているように下を向いていた。
と思ったら、頬が少しだけ赤らんでいって……え? 本当に何を考えているの?
考えがまとまったのか、きょーへーは私の顔を見て、それからスプーンでカレーを掬って、自分の口へ運ぶ……のかと思ったら、それを私の方に出てきた。
「……へ?」
私はきょーへーの予想外かつ大胆な行動に、一瞬だけ思考停止し、なんとも間の抜けた声を出してしまった。
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