第101話 元『悪女』は帰宅した恭平を出迎える

 僕が帰ることを伝えると、清華さんは瀬川さんを呼んで、彼女の運転する車で家まで送ってもらった。

 おかげで予定より早く家に帰ってくることが出来た。

 瀬川さんの車が発進し、僕は向かいの大きい家を見る。

 解体作業が少し進んでいて、現場の人たちが片付けをしていた。朝も早かったのに、こんな時間まで仕事をしてるなんてすごいなぁ。

 僕は踵を返して自分の家……ではなく、その隣の瑠美夏の家に入った。

 昨日のカレーがあるから新しく何かを作る必要はないけど、もう食べてるのかな?

「おかえりきょーへー」

 僕が玄関の扉をそっと閉めると、リビングから瑠美夏がスリッパをパタパタと音を鳴らしながら玄関にやって来た。

「た、ただいま」

 こんなこと、今までなかったから困惑してしまうな。

「もうご飯食べる?」

「そうだね。なんだかお腹すいちゃって」

 清華さんの屋敷でいろいろあったし、心配やドキドキで気を張っていたから、瀬川さんと別れてからは緊張の糸が切れたみたいに空腹感がおそってきた。

「準備してあるから、すぐにでも食べられるわよ」

「え? 本当?」

「うん。サラダを出して、カレーを温めるだけだから、さすがに私でもできるわよ。柊さんの屋敷で何があったかは後で聞くとして、早く食べましょ」

「わかった。ありがとう」

「お礼を言うのは私の方よ。……きょーへー、いつもありがとう」

「っ! う、うん……」

 瑠美夏の心からのお礼と、花が咲いたような可愛らしい満面の笑みに、僕の心臓は大きく跳ねた。

 今に始まったことではないけど、今日は特に、清華さんと瑠美夏にドキドキさせられる。

 それだけ、二人が僕に抱いてくれている気持ちは本物なんだって理解できる。

 僕の心は未だに恋愛に前向きにはなれていない。でも、以前よりは前向きになれている……かもしれない。

 まだ時間はかかりそうだけど、二人の気持ちにちゃんと向き合っていけるようにならないとね。

「ぼ、僕……手を洗ってくるよ」

「うん。私はカレーをもう少し温めておくわね」

 僕は鼓動が早いまま、瑠美夏にその背中を見送られながら洗面所へと向かった。


 さっきのきょーへー……私がお礼を言ったら顔が急に赤くなったわ。

 それって、私にドキドキしてくれた……って解釈して、いいのかな?

 都合のいい考えってわかってるけど、そう思うと私もすごくドキドキするし、顔も熱くなる。

 嬉しい……好きな人にドキドキしてもらうのって、こんなにも嬉しいことだったんだ。

 でも、きょーへーは今は恋愛に臆病になってるから、調子に乗ってやりすぎないようにしないと。

 普通の幼馴染として接することを意識しないと……もう、やらかすのは嫌だから。

 それにしても……さっきのきょーへーのドキッとした顔、可愛かったわ。

 いつか、そんな顔が何度でも見られるように頑張らないと。

 そのためにも、今は柊さんと協力して、きょーへーに恋する気持ちを取り戻す。

 焦らずに……ゆっくりと……。

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