第64話 ゲームエリアにいたのは……

 昼食を食べた僕たちは、ショッピングモールを当てもなく歩き、いつしかゲーム筐体が立ち並ぶエリアの近くまで来ていた。

「ここからはゲームエリアだね」

「ゲームエリア……」

 そういえば、清華さんってゲームセンターみたいな場所って来たことがあるのかな? そういう僕も小さいとき以来だけど。

「清華さん。ゲームセンターって来たことある?」

「ないですね。興味がないと言えば嘘になるのですが、立ち寄ったことはありません」

「そっか……」

 清華さんはお嬢様だもんね。なかなかこういった娯楽施設みたいな場所には行かないか。

 でも、清華さんの表情からして、入ってみたいと思っているのも確かなようだ。

 う~ん……僕の独断で清華さんをゲームセンターに連れて行っていいか分からないから、ここは聞いてみよう。

「瀬川さん」

「お呼びでしょうか上原様」

「ぴっ……!」

 僕が呼んだら音もなく瀬川さんがやって来た。しかも二秒で。

 少なくとも僕たちの近くにはいないみたいだったのに……もしかして瀬川さん、どこかの戦闘民族の血が流れているのでは?

 そして今回も突然やって来た瀬川さんに驚く清華さん。でも若干耐性がついていたのか、大声を出さなかった。

「えっと、清華さんってゲームセンターに入っても大丈夫なんですか? その、家の方針で禁止されてるとか……」

「特にはございません。旦那様も奥様も、お嬢様には行動制限は設けてはいませんから、未成年の方が行けない場所以外は行っても大丈夫ですよ」

 まぁ、清華さんがそんな危ない場所に行くなんてことはないだろうけどね。

 でも、だからこそ一博さんと清美さんは、清華さんの行動を制限してはいないんだろうな。

「わかりました。ありがとうございます瀬川さん」

「恐縮です。なにかございましたらまたお呼びください」

 瀬川さんは僕たちに一礼し、踵を返して遠ざかっていったんだけど、すぐに人混みに紛れて消えてしまった。

 そんな瀬川さんを見て、ボディーガードってすごいなーなんて語彙力のない感想を思ってしまった。



 そうして入ったゲームエリア。

 近くにいる時から聞こえていたけど、様々なゲームの音が聞こえてくる。

「すごい。……本当にいっぱいゲームがありますね」

 清華さんは予想外の光景に半ば放心状態だ。

 僕たちがこのエリアに入って最初に目にしたのはクレーンゲームだ。

 大小様々なクレーンゲームがあり、プライズにはぬいぐるみやフィギュア、お菓子など様々だ。

 僕も久しぶりにゲームセンターに来たけど、今ではこんなに様々な景品があるんだな。

「恭平さんはクレーンゲームは得意ですか?」

 歩きながら景品を見て回っていると、清華さんが声をかけてきた。

 ゲームの音がうるさかったけど、なんとか聞き取ることが出来た。

「あまり得意ではないかな。僕もこういうところに来たのは数年ぶりだから」

「そうなのですね。それにしてもここは、見てるだけで楽しい場所ですね」

「そうだね」

 僕も楽しい。清華さんが言ったように、景品を見ているだけでもワクワクする。

 でも、一番の理由は、やっぱり隣に清華さんがいるから……。

「ん? よぉ上原」

「え?」

 近くで僕を呼ぶ男の人の声がしたので、僕はそっちを向いた。

 するとそこには、私服姿の君塚君がいた。

「君塚君! どうしてここに?」

「暇つぶしにちょっと足を伸ばしてここまで来たんだ。お前は……って、『聖女様』とデートかよ!?」

 君塚君は僕の隣にいる清華さんを見てギョッとした。

 いくら僕の事情を知っているとはいえ、清華さんと二人でいるのを見たらびっくりするよね。

「えっと……恭平さん。こちらの方は?」

「そ、そうだよね。えっと───」

 僕は二人にお互いを紹介した。

「ほら、前に僕の帰りが遅くなった日があったでしょ? 彼と話をしてたからなんだ」

「そうだったのですか」

「まぁ、俺も小泉と一緒にやらかした詫びをどうしてもしたかったからな」

「詫び? ……では貴方が」

 清華さんの目つきが変わった。

『詫び』という一言で、君塚君が瑠美夏の彼氏役をしていたと理解したようだ。

「『聖女様』も、本当にすまなかった」

「清華さん。僕はもう気にしてないから、あまり君塚君を睨まないであげて」

「……わかりました。君塚さん。すみません」

「い、いや! 『聖女様』が謝ることないだろ。悪いのは俺なんだから」

「その、出来れば『聖女』と呼ばないでいただけるとありがたいのですが……」

「あ……そ、そうだよな。誰だって嫌だよなそんな大層なあだ名。悪い……柊さん」

「いえ……。これからよろしくお願いします。君塚さん」

「っ!」

 君塚君にお辞儀をした後、『聖女』の笑顔を見せた清華さん。その笑顔を見た君塚君は思わず息をのんでいた。

「なぁ、上原」

 君塚君は僕の腕を肘でつついてきた。彼の顔はほのかに赤く染っていた。

 僕らは清華さんから少し離れたところで顔を近づけてヒソヒソと話をする。

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