第62話 ランチタイム
その後、メンズファッションエリアや化粧品コーナー等を見てまわっていたら、あっという間にお昼時となった。
「そろそろお昼にしようか」
「はい」
僕たちはフードコートがある五階に移動した。
「すごいいっぱいあるね」
このフードコートエリアは、本当に様々な飲食店があって、和、洋、中はもちろん、ハンバーガーなどのファストフード。そしてフードコートからちょっと離れたところには、お高めなイタリアンのお店なんかもある。
イタリアンはパスかな。社長令嬢の清華さんがいるとはいえ、高校生のデートでお高めのイタリアンは敷居が高い気がするし、マナーとかちゃんとしないといけなさそうだ。
マナーは知らないわけじゃないけど、やっぱり高校生が二人で行くところではない。
ハンバーガーもなしかな。初デートでファストフードもなんだか違う気がして。
となると、それ以外なるけど……う~ん。
「恭平さん、恭平さん」
僕が入るお店を決めかねていると、横から清華さんが僕の服の袖を引っ張りながら呼んだ。
「ど、どうしたの清華さん?」
直接触れられたわけではないけど、袖を引っ張られるのも初めてだったので、僕は動揺を表に出さないように清華さんの方を向いた。
「わたくし、ハンバーガーが食べたいです」
「え?」
なんと、僕がなしと切り捨てたハンバーガーを清華さんがリクエストしてきた。
「その、お恥ずかしいのですが、わたくし、これまでハンバーガーを食べたことがなくて……」
「そうなの!?」
「はい。家でも出されたことはありませんし、外出時にお店を見つけても、寄りたいと言う勇気が持てなくて……」
なるほど。食べたことがないから気になって仕方がないのか。
お嬢様の清華さんらしい理由だな。
「でも、それだと今日もハンバーガーを食べるのは許してくれないんじゃない?」
「それなら───」
「それなら大丈夫です」
あ、清華さんが喋ってるのに瀬川さんが割り込んできた。
「ぴゃやぁ!!」
「どういうことですか瀬川さん?」
「……上原様、驚かないのですか?」
……なんで驚かそうとしてるのこの人?
というか、清華さんがめちゃくちゃ驚いてるし。主人を驚かしていいの?
「少しは驚きましたけど、もう三度目ですからね。慣れてきました」
さすがに三回も同じように驚かしてきたら、慣れるというものだ。
「……つまらない」
「え?」
「なんでもありません」
「でもさっき───」
「なんでもありません!」
気のせいかな? さっき瀬川さんから「つまらない」って聞こえたと思ったんだけど……。それにしても圧がすごいな。
まぁ、それはさておき……。
「話を戻しますけど、清華さんがハンバーガーを食べても大丈夫なんですか?」
清華さんはまだ驚いていて呼吸が整ってないので、僕が代わりに聞いた。
「はい。元々旦那様と奥様があまり食されないから出なかっただけで、特に制限をしているわけではありません。ですのでお嬢様が食べたいと仰られたら遠慮なく食べていただいてかまいませんよ」
「で、では……以前もわたくしが食べてみたいと言えば……」
「そうですね。その時はお店に立ち寄っていたでしょう」
「そ、そんなぁ……」
清華さんがショックで頭を抱えた。
ん~、ハンバーガーをそこまで食べてみたかったなんて、僕みたいな庶民にはあまりピンとこないなぁ。
「ま、まあまあ、これで心置きなく食べれることがわかったんだから、早速席を確保して注文しようよ」
「……そうですね。こうなったらいっぱい食べてやります!」
今までハンバーガーを食べられなかったから、その欲求が爆発したみたいだ。
「でも食べすぎると色々と危ないよ。カロリーも高いから」
「う……こ、今回は一個にします」
「それがよろしいかと」
瀬川さんが僕たちから離れたタイミングで、僕と清華さんはハンバーガーショップで注文をした。
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