第61話 『聖女』は恭平の好みの服装を知りたい
僕たちが最初にやってきたのは、二階にあるアパレルショップが立ち並ぶエリアだ。
「服屋さんがいっぱいですね」
「うん。目移りしちゃうね」
メンズファッションよりも、レディースファッションを取り扱っている店舗が多いな。
普段着で使いやすそうなものから、ちょっと派手めなもの、ガーリー系等、どれも柊さんに似合いそうだなぁ。
「き、恭平さんは、女性に着てほしい、好みの服装とかはあるのですか?」
「う~ん……でも柊さんならなんでも似合いそうだけど」
「……名前」
「え? ……あっ」
しまった。ついいつものように苗字で呼んでしまった。
「今日は、お互い名前で呼び合うと決めたはずですよ」
「ご、ごめん。……清華さん」
清華さんを少し不機嫌にさせてしまったことに反省しながら、僕は頬をプクッと膨らませている清華さんに見惚れていた。
どんな表情も可愛くて綺麗とか、反則でしかないよ。
「いえ。まだ慣れていませんものね」
柊さんはくすくすと笑った。
なんか、その言い方だと清華さんは僕を名前で呼び慣れているように聞こえるけど……実際清華さんに名前で呼ばれたのは、あの夜が初めてだった気がするけど……。
「それで、さっきの質問なのですが……」
「あ、ああ。そうだね……やっぱり清華さんなら何を着ても似合うと思うよ」
「恭平さんにそう言っていただけるのは嬉しいのですが、やはり今日はデートなのですから、普段聞けない恭平さんの好みを色々と聞きたいのです」
ダメか。正直僕はファッションについて全く詳しくない。
メンズでも知識が皆無なんだから、女性ものだとさらにちんぷんかんぷんだ。
でも、今日はデートだし、好きな人をガッカリさせたくない。
僕は周りにある数軒のアパレルショップをキョロキョロと見渡す。
「あ……」
僕の目に飛び込んできたのは、マネキンに着せられていた一着の白いフレアスカート。
白って清楚な清華さんにとても良く似合う。今着ている白のロングスカートもとてもよく似合っているし、生地にプリントされている花もいい。
だけど、僕が見たこのスカートは、ちょっと……いや、けっこう丈が短い。
これを着ている清華さんを見たいって気持ちはあるけど、ミニスカート姿が見たいって言ったら、清華さんに幻滅されるかな?
「このスカートですか?」
清華さんが僕の見ているスカートに気づき、マネキンに近づいていく。
スカートを見ながら想像するんじゃなかった。
「……少々丈が短いですね」
「あ、いや、……ごめん」
咄嗟の言い訳が思いつかず、僕は謝った。
これで僕は清華さんにミニスカが好きなやつ認定されてしまうのかな……。
「なぜ謝るのですか?」
「え?」
「わたくしはこのスカートの見たままを述べただけで、このスカートを気に入っていないわけではありませんよ」
「そ、そうなの?」
てっきり拒否されるものとばかり思っていたけど、意外と好感触なのかな?
「ええ。これより制服のスカートの方が短いですし、それに───」
そこで一度言葉を区切り、清華さんは僕に振り向いた。
「───恭平さんの好みを知れましたから」
「っ!」
目を細め、白い歯を見せて笑う清華さんに、僕は思わず息を呑んだ。
その顔も、セリフも……ズルいよ。
「では恭平さん。このスカートを買ってそのまま着てきちゃいますので少し待っててくださいね」
その後、清華さんは店員さんを呼び、マネキンが着ているスカートと全く同じものを購入し、本当にそのスカートを穿いて戻ってきた。
「えっと……ど、どうでしょう? 恭平さん」
「に、似合ってるよ……」
「良かったです! ふふっ、恭平さんからお褒めの言葉をいただきました♪」
僕はミニスカートをはいた清華さんを直視出来なかった。
僕が選んだやつをとくに嫌な顔をせずに着てくれたっていうのもあるけど、最大の理由はやはりスカートから伸びる清華さんの長く美しい脚だ。
制服のスカートの方が短いけど、それは学校指定の靴下を履いているから、ここまで照れることはない。
だけど今の清華さんは完全な生足! シミやキズなんか一つも無く、スラリと細いその脚につい視線が行ってしまうのは、思春期男子と清華さんに行為を寄せているから抗いようがない。
ささやかな抵抗を見せて視線を上に上げようものなら、オフショルダーのニットから覗く清華さんの美しい肩、そして大きな胸ゆえに形成され、ニットからチラリと見える谷間。
さらに視線を上に上げると、清華さんの美しい顔があって……。
……ちょっと待って。僕、清華さんを見れない?
「あの、恭平さん?」
「な、なに?」
「どうしたのですか? さっきからわたくしと目を合わせないようにしていますが」
「え~っと……」
どうしよう……ここで正直に言ってしまったら、清華さんに引かれかねないぞ。
清華さんはこの美貌と抜群のスタイルゆえに、男子女子問わず普段から注目を浴びている。
当然僕が正直に言ったところでそこまで気にするとは思えないんだけど、もしもってことがあるから……。
「…………から」
「え?」
「せ、清華さんが、綺麗すぎる……から」
「っ!」
僕が黙っていると、清華さんの表情がどんどん曇ってきていたから、僕は思い切って本音を言った。
僕の本音を聞いた清華さんは、本当に驚いた表情をして、顔が一気に真っ赤になった。
……あれ? 思っていたリアクションと違う。
「「…………」」
またしても気まずい空気が流れる。
こういった時、瀬川さんがどこからともなく現れて、この空気を壊してくれるんだけど、今回は来ない。
「……その」
瀬川さんの登場を期待していた僕に、微かにだけど、清華さんの綺麗な声が届いた。
「え?」
「とても、嬉しいです。……恭平さんに、褒めていただけて」
「っ!」
清華さんは頬が赤いまま、目を細め、『聖女』の微笑みを見せてくれた。
何回か見てきたはずなのに、今回のその微笑みは、今まで見てきたどの微笑みよりも美しく感じた。
それと同時に、すごく愛おしいとも、思ってしまった。
「さ、移動しましょう。恭平さん」
「そ、そうだね」
お互いの顔の熱が引かないまま、僕たちは移動を再開した。
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