第54話 自覚と誘い
今日は中間テストが全て終わった翌日の木曜日。
テスト勉強のかいもあって、僕は中学の時以上の手応えを感じていた。
柊さんも竜太も、僕と同じように言っていた。
テストが終わったら、クラスメイトの一人がすごく慌ただしくバタバタと走り回っていた。……確か彼は、新聞部の人だったかな?
この新栄高校の校内新聞って好評って聞くから、テストが終わって、その新聞を作るのに忙しいんだろうな。
そして、学校を休んでいた瑠美夏もテストを受けた。
僕は内心で瑠美夏に対して言ってしまったことへの気まずさがあったけど、瑠美夏の顔つきは違っていた。
瑠美夏の表情は、どこか決意に満ちたような、笑顔だったけど、そんな感じがした。
瑠美夏のあんな笑顔、久しぶりに見た気がする。
そして僕は、柊さんに、以前にも増してドキドキするようになっていた。
テストは月曜日から水曜日の三日間あったんだけど、帰ったら自己採点を一緒にやったり、夕食後も次の日のテストの確認をしたりと、ほとんど一緒にいた。
柊さんと一緒の空間に二人きりでいるだけでもドキドキするのに、頻繁に向けてくる『聖女』の微笑みやメガネ姿。それに距離が近いときもあって、僕はもう、自分の中に芽生えたこの気持ちをはっきりと自覚していた。
僕は、柊さんが好きなんだ……。
今は、瑠美夏よりも柊さんに対する好きって気持ちが強い。
でも、まいったな……。
こんな気持ちが芽生えても、柊さんと付き合えるはずもないのに。
叶わない恋心はどうすればいいんだろう。
柊さんはあの美貌で、おそらく中学時代からすごいモテていて、同性や教師の人望も厚かったはずだ。
そんな彼女に告白したところで、モブの代表みたいな僕となんて付き合ってくれるはずもないし。
これ以上気持ちが大きくなる前に、ここを出た方がいいかもしれない。
「あら? 上原さん、どうしたのですか? そんなに難しいお顔をして」
「え? ひ、柊さん!?」
僕は考えごとをしながら綺麗で豪華な廊下を歩いていたため、正面から来た柊さんに気づかなかった。
目の前に突然好きだと自覚した人が現れて、僕は思いきり後ずさってしまった。
「だ、大丈夫ですか!?」
「だ、大丈夫、大丈夫。あはは……」
僕はなんとか作り笑いで誤魔化した。
「そうですか。もしなにかありましたらなんでも仰ってくださいね」
そう言って、僕に満面の笑みを見せてくれた柊さん。
僕はそんな柊さんにまたしてもドキドキしてしまっていた。
柊さんはそのまま僕に一礼をして、そのまま僕が歩いてきた方向に向かって歩を進めた。
「待って! 柊さん」
立ち去ろうとした柊さんを、僕はつい呼び止めてしまった。
「はい。何でしょう上原さん」
移動を開始していた柊さんを再び呼び止めてしまったのに、振り返った柊さんは笑顔だった。
普通なら、怒ってもいい場面だと思うんだけど。
って、そうじゃないだろ。ただ呼び止めただけならそれは程度の低いイタズラにしかならない。
「えっと……その……」
僕はなかなか切り出せずにいた。
別に用がないのに呼び止めたわけではない。ちゃんと言おうとしていることはあるんだ。
でも、いざ言おうとしたら緊張しちゃって、うまく言葉に出来ないでいた。
「…………」
柊さんは、それでも僕の言葉を待ってくれている。しかも笑顔で。
一言言うだけじゃないか。勇気を出せ。上原恭平!
「その、よかったら……今度の休み、どこかに行かない?」
「はい。いいですよ」
即答だった。
考える素振りなんか見せなく即答だった。
「え?」
「? どうしたんですか上原さん」
柊さんは、僕のリアクションが不思議だったのか、首を傾げた。
多分、伝わってないんだろうな。
「えっと、いいの?」
「はい。もちろんです」
「……二人っきりでって、意味だけど」
「…………え?」
柊さんは固まってしまった。
やっぱりちゃんと伝わっていなかったようだ。
言った僕も、ほとんど断られるだろうと思って言った。
でも、こうして瑠美夏以外の異性を自分から誘うのは初めてだったから、ものすごく緊張した。
僕が瑠美夏と付き合っていたと思っていた時期も、誘ったけど全部断られて、一度だって二人でどこかに出かけたことはない。
柊さんも、同じだろうな。僕なんかの誘いを受けるわけないよね。
「えっと、それはつまり……で、デートのお誘いと、受け取って、よろしいのでしょうか?」
「う、うん」
「……坂木さんは、いないんですよね?」
「そう、だね」
ここ最近は竜太も一緒にいたからなぁ。やっぱり二人きりだと警戒されるかな?
「ち、ちょっと待ってくださいね」
「う、うん」
柊さんは後ずさって僕と距離を取り、身体をくるりと回れ右して百八十度回転させた。
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