第52話 『悪女』の本心
土曜日の夕方。私は自分の部屋のベッドで体育座りをして、額を膝につけていた。
月曜日の昼休み、屋上できょーへーと話をしてから、学校を早退し、火曜日以降は学校に行っていない。行く気になれなかった。
「どうして、なんで私の中にこんな感情があるのよ?」
あいつが、きょーへーが事ある毎に私の彼氏アピールするのがウザかった。
だからあの日、君塚に協力してもらってあの計画を実行した。
それが成功して、きょーへーは私の彼氏アピールはしなくなり、私もせいせいした……はずだった。
月曜日の昼休み、きょーへーが自発的に私を苗字で呼んだことによって、私の中に眠っていた、自分ですら気づかなかった感情が目を覚ましてしまった。
私は、きょーへーが、あんなにウザくて煩わしいと思っていたきょーへーのことが……好きだったなんて。
きょーへーが私に向けてくる笑顔、ずっとウザいと思っていたはずなのに、今、その笑顔を思い返すとすごくドキドキする。
でも、もうそれも見れないんだよね。
わかってる。全部自分が悪い。全部私の自業自得。わかってる……。
「わたし、は……きょー、へーに、なんて、ことを……っ!」
ダメだ。私に泣くなんて許されない。
「随分と後悔しているみたいだな」
「っ! 誰!?……あんた」
私以外誰もいないはずの家から、私以外の、それも聞き慣れた男の声が聞こえたので、バッと顔を上げると、そこには坂木がいた。
「てか、なんであんたがいるわけ!?」
「一応名誉のために言っとくが、ちゃんとインターホン鳴らしてお袋さんに入れてもらったからな?」
「……そっか。母さんが」
土曜日はほとんど仕事だった母さんが珍しく今日はお休みで、私が散らかした惨状を見かねて掃除をしてるんだった。
「で? お前、これからどうするんだ?」
坂木は随分と抽象的な質問を投げかけてきた。
抽象的なはずなのに、何に対しての言葉なのかはすぐにわかってしまう。
「今さら、どうしようもないわよ。全部私の自業自得。この前、あんたが言った言葉が現実になった……」
『餌も与えず散歩もさせず、挙句に精神的苦痛を負わされた犬は、忠犬にはなり得ないってな。お前はいずれ、自分のとった行動に後悔するだろうよ』
あの屋上で、こいつが言った言葉の意味を理解するなんてね。
もう何もかも、あとのまつりだけどね。
「それで? お前はもう恭平とはこのまま縁を切るつもりなのか?」
そんなの、そんなの……!
「……どうもしないわよ。きょーへーも、もう私には関わらないようにするって言ったの、あいつが初めて私を拒絶したのよ」
「……拒絶?」
「今さら私が足掻いたところで状況は変わらない。きょーへーはいずれ、あの『聖女』と付き合って、私とはもう、くち、も…………え?」
私の視界が歪み、目から大粒の雫がこぼれ落ちた。
「な、なんで……やだっ!」
手で拭っても、あとからあとから涙が溢れて……!
泣くわけにはいかないのに……私に、泣く資格なんか、あるわけないのにっ!
なにより、こいつに泣き顔を見られるのがいや!
「本心を言ってみろよ」
「……え?」
「さっきのお前の言葉は、自分がしでかしたことが大きすぎたって理解して言った諦めなんだろ? 俺が今聞いているのはそんなんじゃない。お前の本心だ」
「私の、本、心……?」
「ああ、お前の今の気持ちを、恭平にしでかしてしまったことに対してどうしたいのか、言ってみろよ!」
静かにだけど、はっきりと私の目を見てこいつは言った。
建前なんかじゃなく、私がきょーへーに対してどうしたいのか。
そして、どうなりたいのかも……。
「わた、しは……私は……!」
私は、腕で涙を強引に拭い、坂木の顔を見た。
「私はきょーへーに謝りたい! 許してくれとかじゃなくて、ちゃんと誠心誠意謝りたい! そして、きょーへーへの贖罪を果たし、きょーへーに相応しい女になって、きょーへーをもう一度振り向かせて、ちゃんと付き合いたい! 『聖女』に……柊さんには負けたくない!」
「…………」
「はぁ……はぁ……」
坂木は私の本心を黙って聞いていた。
私は一気に捲し立てたことにより、息を切らしてしまっていた。
そして坂木は、ゆっくりと私に近づき、私のすぐ正面に腰を下ろし、笑った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます