第31話 『聖女』VS『悪女』①
翌日の昼休み。
いよいよ決行する時が来たわ。
あいつは今日も休み。多分坂木の家にいるんだわ。
坂木の奴、見てなさい。今にあいつを取り戻してやるわ!
私は席を立ち、ゆっくりと坂木のところに向かった。
「ねぇ。少しいいかしら?」
「…………」
私が話かけると、坂木は特に驚くこともなく、軽く私を睨んできた。
人のモノを奪っておいて、よくもまあそんな顔が出来たものね。
というか、なんとか言いなさいよ。
「話があるのだけど」
「……ああ。場所、変えようぜ」
そう言って、坂木は椅子から立ち上がり、私の返事を待たずして廊下に向けて歩き出した。
廊下へ向かって歩いている間、こいつは何故か教室内をキョロキョロと見渡した。一体なんなのよ。
そうして私達は、体育館裏まで移動した。
「それで、話ってなんだよ?」
坂木はいかにも不機嫌ですと言わんばかりの態度で話を切り出してきた。不機嫌なのはこっちだっての。
「とぼけないで。あんた、私が何を言いたいかわかってんでしょ?」
「……とんと見当がつかねぇな」
あきらかに間があったわよ。白白しい……。
「あいつを返しなさいよ。あいつは私のよ」
「あいつって誰だよ?」
「あいつはあいつよ! 分かるでしょ?」
「名前で言えっつってんだよ! お前こそ分かれよ!」
「…………きょーへーよ」
私は坂木から目を離し、少し俯いて小声で言った。
そういえば、あいつの名前を呼んだの、久しぶりな気がするわ。
「恭平がお前のモノ? はっ!」
「何がおかしいのよ!? 本当のことでしょ!?」
「いつから恭平がお前のモノになったんだよ? 言ってみろよ」
何こいつ? なんでこんなに不機嫌オーラ全開で睨んでんの?
「私達が小さい頃からに決まってるじゃない。私達は付き合っ──」
「そのセリフはお前に言う資格はねぇんだよ!」
「っ!」
坂木がいきなり怒鳴ったので、私は思わずたじろいでしまった。
こいつ、まさか……。
「こっちは全部知ってんだよ。お前が恭平に仕出かしたこと全てをな!」
あぁ、やっぱり。あいつが言ったのね。余計なことを……。
「お前、なんでそんなことが出来るんだよ!? 恭平がお前をどれだけ好きだったか、お前が知らないわけねぇだろ! お前が好きで、お前の笑顔が見たい、お前に喜んでもらいたい一心で、恭平はお前の身の回りのことをやってたんだぞ! なのにお前は最悪な形で恭平を裏切った! こんなの……許せるわけねぇだろ!」
「論点をずらさないでくれる? 私はあいつを返してくれたらそれでいいの」
「っ! だったらその彼氏とやらにしてもらえばいいじゃねぇか! お前の家の家事をするのは、何も恭平じゃなきゃダメってわけじゃねえだろ! その男がお前を好きなら、喜んで───」
「付き合ってないわよ」
「…………は?」
私の一言で、今までの勢いは途端になくなり、坂木はただ呆然としている。
「だから、そいつとは付き合ってないって言ったのよ」
あんな奴と付き合うわけないっての。それなら坂木の方がまだマシよ。
「……付き合ってないって、なら、なんでお前は恭平にあんなことをした!」
「あいつが私と付き合ってるムーブをしてるのが我慢ならなかったのよ。あんたなんかは私の彼氏でもなんでもない。ただ私の身の回りの家事をしてくれるペット。それを分からせるためにやったのよ」
それ以上でもそれ以下でもないわ。
「お前、自分が───」
「ふざけないでください!!」
「「!?」」
私達しかいないと思っていたこの体育館裏に、私のではない女の声が響いた。
私と坂木は揃って声のした方を向いた。するとそこには……。
「……柊さん」
『聖女』と呼ばれているクラスメイトの女子、柊清華がゆっくりとこちらに歩いてきていた。
その顔は、とても『聖女』と呼ばれている女とは思えないほど憎しみに満ちていた。
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