第29話 『聖女』は風呂上がりに恭平の部屋へ②

「なに? 柊さん」

「…………小泉さんのこと」

「っ!」

 柊さんから瑠美夏の名前が出てきて、僕の全身が強ばるのを感じた。

「……柊さんも、知ってるんだね」

「……はい」

「その、いつから知ってたの?」

「入学して、わりとすぐに……。上原さんと小泉さん。お二人が喋っているときの、……なんて言うんでしょう……温度差、みたいなものが異常にかけ離れているなと思ったのが最初です」

「そんなに前から……」

 すごいなぁ柊さんは。……普段からクラスメイト全員のことを見ているんだ。

「それで昨日、坂木さんから、上原さんが小泉さんにされたことを知りました。わたくしと坂木さんは協力して上原さんを救おうと思い、上原さんをわが家に招き入れることにしたのです。あなたに特に何の相談もせずに決めてしまって、ごめんなさい」

 柊さんは自分の下唇を噛み、深々と頭を下げてしまった。柊さんの長い黒髪がカーテンのように揺れている。

 僕は、柊さんにそんなことをしてほしいんじゃない。

「頭を上げてよ。柊さん」

 僕の声に反応して、柊さんがゆっくりと顔を上げる。

「確かに突然のことでびっくりしたけど、謝る必要なんてどこにもないよ。柊さんと竜太が行動を起こしてくれなかったら、僕は今も自分の部屋でうじうじと泣いていたと思う。今も瑠美夏のことで胸は苦しいけど、でも、こうして柊さんに笑いかけれるだけの元気は出たから。だから柊さんはそんな悲しい顔はしないで。……本当にありがとう。柊さん」

「っ!」

 僕は柊さんに笑いかけると、それを見た柊さんは、なぜか息を飲み顔を俯けてしまった。一瞬、顔が赤かったような気がしたのは気のせいかな?

「……やはり、変わってないのですね。あの頃からずっと、あなたは優しいまま……わたくしが恋をした、あの時の恭平さんのままなのですね」

「え?」

 柊さんは何かを呟いたけど、小さすぎて僕には聞き取れなかった。

 それからすぐに、柊さんは顔を上げた。

「なんでもありません。こちらこそ、ありがとうございます。上原さん」

 そう言って、柊さんは頬が赤いまま、聖女の笑みを見せてくれた。

 その笑顔が綺麗すぎて、僕の心臓が今日一番跳ねたのは、僕以外知らないこと。

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