第17話 上原恭平は選択する
「こんな仕打ちをされても、まだお前はあの女のことが好きで、あいつに尽くしたいなら俺はもう何も言わない。お前の人生だ。お前を心配している俺以外の人にも俺が言って説き伏せる。だが、あいつの隣にいる事が少しでも嫌と感じているのなら、思い切ってそこから出るんだ」
僕が、選ぶ……。
「お前はあの女から酷い精神的ダメージを受けて泣き、今日は学校を無断で休んだ。それ以上の仕打ちを今後あいつがしこてない保証はどこにもない。お前の想いを利用するだけ利用して、ボロ雑巾のようにこき使われて捨てられる可能性だって大いにある。あの女に搾取され続け、お前から色んな可能性を奪っていくだろう。あいつが好きで傍にいてお前がそれを幸せと感じても、そんな幸せはまやかしだ! あの女は将来お前にあったであろう幸せを奪い、これからものうのうと生きていくだろう。今のあの女は、自分の幸せを犠牲にしてまで一生一緒にいたい相手かをよく考えろ!今後お前を好きになってくれる人が現れて、そんな人と結婚し、ごく普通の家庭を築いて……そんな将来を捨ててまで一緒にいる価値のある相手かを考えてくれ!」
竜太の真剣さが言葉から、表情から伝わってくる。
僕は瑠美夏が好きだ。あんな事があってもこの気持ちは変わらない。
変わらないけど、その大きさはどうだろう?
瑠美夏のことは小さい頃からずっと好きだ。でも、瑠美夏から「恭平が好き」と言われた事はただの一度もない。
最初は本当に仲が良くて、瑠美夏の方からも笑顔で僕に話しかけてくれていた。でもある時から少しずつだけど、瑠美夏から僕に話しかけてくる事も、僕に笑顔を向けてくれる事も少なくなっていった。
今では僕が一方的に話すだけで、瑠美夏から話しかけてくるのは、一昨日みたいに宿題をやってほしい時とかしかない。
今では生返事や無視が当たり前になっている。
そう思うと、僕の中の何かにヒビが入った。
僕はずっと、瑠美夏と結婚し、瑠美夏の為に一生懸命身を粉にして仕事も、家事も全力で頑張ろうと常々思っていて、そういう未来が僕の理想だと信じて疑わなかった。
でも、例え僕と結婚したとしても、瑠美夏は今と変わらず、僕を無視し続け、昨日の様に僕を嘲笑うのが普通になっていくと考えると、僕はサーッと血の気が引いた。
「…………い」
結婚しても瑠美夏に笑顔はなく、僕を見下して嘲笑う。僕はそうとも知らずに能天気に楽しそうに笑う。
そんな未来を僕は手に入れたいと思っていたのか。
ヒビが大きくなり光が漏れる。
瑠美夏は好きだ。あんな事があってもこの気持ちはまだ変わらない。
でも昨日の事があって、一生を添い遂げたいと思える相手とは思えなくなっていた。
恋人も夫婦も、一方が搾取する関係じゃない。
恋人も夫婦も、お互いを尊重し、慈しみ、愛し支え合うものだ。
僕の中の何かが、音を立てて壊れた。
「……いや、だ」
僕は絞り出すように、僕が強く望んでいた将来を否定した。
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